「テレビで紹介された体操を真似してケガ…」整形外科医が教える運動のコツ「いつでもどこでも、適当に」でOK
2025年2月17日(月)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
世界保健統計2023年度版によると、日本人の健康寿命(健康上の問題で日常生活に制限のない期間)は、男性が72.6歳、女性が75.5歳でした。しかし平均寿命のほうがはるかに長く、その差は男女でそれぞれ約9年、約12年あります。要介護や寝たきりの期間が長い傾向にある中、これらを予防し「寿命の質」を高めるためには、どうすれば良いのでしょうか?そこで今回は、これまで5万3000人以上の患者に寄り添ってきた整形外科医・井尻慎一郎先生の著書『健康寿命をのばす! 整形外科医のカラダの痛み相談室』より、今日からできる健康のヒントを一部ご紹介します。
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「肩こり」は「筋肉の疲れ」
肩こりは病気ではなく「単なる疲れ」という意識改革が大切です。
家事やデスクワーク、スマホの使用などで同じ姿勢を長時間取っていると、重い腕と頭を支える筋肉が疲れてきます。また、血行も悪くなり、その結果首や肩に張りや重だるさ、軽い痛みなどを感じるようになります。これが「肩こり」なのです。
私自身も肩こりがひどかったのですが、肩こりが単なる筋肉の疲労と知った途端に、それまでの肩こりが消えてしまいました。日本特有の、おじぎをする、縦にうなずくといった習慣や、猫背が多い、何でもきっちりやろうとするといった国民性によって、私たちは「筋肉の疲れ」を「肩こり」という「病気」と思い込んでしまうのです。
肩こりを治すには、筋肉を使いすぎないことが重要です。適度に休憩を取ったり、首や肩を軽く動かしたりといった軽い運動をすると、筋肉がほぐれて再び元気になります。肘かけで腕の重さを支える、湯船にゆっくり浸かるのも肩こりの予防に有効です。
しかし、肩こりにはほかに重大な病気が潜んでいる場合もあります。首を動かした時に手がしびれる、痛みがなかなか消えないといった時は、頚椎性の神経障害や内臓の病気の疑いがあるので、肩こりが続く時は整形外科や内科の診察を受けるようにしてください。
体操はいつでもどこでも適当に
体操には、こわばって硬くなった筋肉や関節をほぐす効果があります。さらに全身の血行も改善し、気分もリラックスして心身ともに健康になれます。いくつかの種類がありますが、それぞれ目的の部位をほぐしたり鍛えたりするものや、全身をリラックスさせるための体操もあります。
体操に絶対にこれがよいというものはありません。例えば、日本整形外科学会と腰痛学会が編纂した腰痛ガイドラインでも、腰痛体操は慢性腰痛に効果的だが、体操の種類にはよらない、頻度も回数も不明となっています。つまり、腰でもそれ以外でも、まずは腰や体を動かすことが大切なのです。
複雑で時間のかかる体操は面倒で長続きもしないので、もとから選ばないほうが無難です。いつでもどこでも思いついたら背伸びをして、体を左右前後に動かす、これだけで十分です。1日何回とか1回何分とかも考えません。1日数回、1回に10秒でも20 秒でも「適当」でOKです。
テレビで紹介されている体操を真似して関節や筋肉を傷め来院する患者さんがいますが、年齢も体の状態も皆それぞれ違うのですから、自分流にアレンジして、できそうな部分、安全で楽な部分だけを選んで動かすほうがベターだと思います。
家の中でも運動不足解消
家の中でも、ちょっとした工夫をこらすだけで運動することができます。
例えば、あえて湯飲みに入れるお茶の量を少なくしてこまめにお茶を入れるようにすれば、立ったり座ったりの運動になります。
(写真提供:Photo AC)
また、椅子の背や壁につかまって、浅いスクワットを1セット5回程度、1日に数回行うだけでも十分効果があります。
椅子に座って両手を頭の上で組んで背伸びをして、体を前後左右にゆっくり動かす運動や、椅子に腰を下ろして片方ずつ脚を伸ばしたり、曲げたりする運動もお勧めです。
その場でできることをしっかりと
洗面所の鏡の前で、片手か両手を洗面台か壁に添えて立ち、転倒しないようにしながら片脚ずつその場で上げる運動は、歩く練習になります。
この時、鏡を見て自分の頭が左右に揺れないようにすれば、バランス練習にもなります。
椅子を使わなくても、床やベッドの上で片方ずつ脚を上げたり下ろしたり、膝を伸ばしたり曲げたりするだけで運動になります。
「フィットネスクラブや公園でなければ運動はできない」と決めつけて何もしないのではなく、その場でできることをしっかりとやることが、運動不足の解消につながります。
※本稿は、『健康寿命をのばす! 整形外科医のカラダの痛み相談室』(創元社)の一部を再編集したものです。
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