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上野千鶴子発言の前提を覆す。そもそも日本は移民にとって魅力的な国なのか?

messy2月18日(土)1時0分
画像: 上野千鶴子twitterアカウントより
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上野千鶴子twitterアカウントより

2月11日に中日新聞に掲載された「この国のかたち 3人の論者に聞く」という記事における、フェミニストで社会学者の上野千鶴子氏の発言が話題となっています。上野氏の主張を要約すると「少子化で労働人口は足りないけれど、自然増は見込めない。その上、日本人に多文化共生は無理なので移民受け入れもできないから、社会保障制度を充実させて、平等に緩やかに貧しくなるべきだ」というものです。

この発言については、「バブルを謳歌してきた世代が何を言っているのか」「移民は犯罪を起こすというのか」「多文化共生に耐えられないはただの追認でしかない」など様々な批判が見られました。また社会学者の韓東賢さんの「逆張りと敗北主義は強者の娯楽なのか」という記事は、発言の問題点を鋭く指摘しています。すでに多くの方が批判を展開しているので、今回は「『日本人に多文化共生は無理』かどうかよりも、『そもそも日本に来てくれる移民がいるのか』という点を心配したほうがいいのではないか」について、アメリカの事例を参考に考えてみたいと思います。

「移民」というのは、越えるべき国境が緩ければ緩いほど、また単純労働であるほど、多くの場合「出稼ぎ」にすぎません。最初から「あの国で生活するために移民するぞ」と考えているのではなく、「ある程度稼いだら数年で自国に戻ろう」と考えていることがほとんどです。ところが、国境警備や不法移民の取り締まりなど「越えるべき国境」が厳しくなればなるほど、「戻ったら二度と入ってこられない=家族に仕送りができなくなる」と考え、長期滞在にならざるを得なくなります。そして長期滞在中に新たな家族ができるなどして結果的に「移民」になるのです。つまり、越えるべき国境が緩ければ、移民ではなく出稼ぎで済むのです。たとえば、アメリカの多くの不法移民も、結果としてオーバーステイになっていることが多く、そもそも無登録(undocumented)移民という言い方の方が正しいという意見もあるほどです。

問題は、出稼ぎであれ本格的な移民であれ、「来てくれる人がいるのか」という点です。

移民受け入れ国と輩出国の関係は多くの場合、中世から近代までの帝国主義時代の旧植民地出身者が旧宗主国へと出稼ぎや移民に行きます。言語や文化など、旧宗主国の影響を受けた地域の人々は、全く関係のない国よりも、感覚的に近い旧宗主国に行くこと、また、旧宗主国が旧植民地出身者に有利に移民できるような制度を持っているケースなども理由として考えられます。

しかし、移民といっても「入植者」「開拓者」なのか、「被植民地」出身者なのかという点で大きな違いがあります。

たとえば、アメリカは移民の国として知られていますが、その最初期はイギリスから宗教的自由を求めて渡ってきた清教徒たちや、経済的成功を夢見てわたってきた北西ヨーロッパからの入植者たちが主流でした。一方、アフリカから強制連行されてきた奴隷たちや、ネイティブアメリカンたち、そして中国人労働者である苦力たちは「被植民地」出身者であり、ヨーロッパと非ヨーロッパの植民地の関係性をそのまま反映するように、差別的待遇にさらされていました。また、当時のアメリカでは白人と有色人種の混血婚を禁じていたため、白人は白人としてそのまま地位を温存し続けました。

一方、スペインが入植した中南米では、スペイン人と原住民や黒人奴隷との混血が進んでいき、「誰も純潔の白人ではない」社会ができあがっていきました。

現在、アメリカのニューカマーのなかで最も多いのは、メキシコを含むラテンアメリカ諸国からの移民です。しかし、そもそもアメリカにメキシコ人がこれだけ多いのは、メキシコとアメリカが戦争をした結果として、メキシコ人が大量に住んでいたテキサス地域がアメリカに割譲されたことが契機です。テキサス地域に住んでいたメキシコ人はアメリカから市民権を付与されました。当時のアメリカでは有色人種は市民権を取得することができませんでしたが、メキシコとの関係上、そこに住んでいた人々に市民権を付与しないわけにいかなかったのです。しかし、混血が進んでいたメキシコ人は、アメリカの白人にとって「アメリカ人扱いしたくない」有色人種そのものでした。そのため、実質的には有色人種、外国人、移民として差別され続けたのです。そして、その時代に築かれた人種主義にもとづく偏見が、現在まで続くラテンアメリカ系移民に対する差別や偏見の根源となっています。

多文化共生が無理かどうかという問いは不毛

翻って、現代日本の「移民」の人々の多くは、朝鮮半島や台湾が日本の植民地であったころに渡ってきた人々です。帝国主義時代の日本と日本が植民化したアジア諸国との間には、その大義名分がアジア人種の地位向上であったことから、「人種差別」はありませんでしたが、大和民族を頂点とする「民族差別」は明確に存在していました。そして、帝国主義から脱却し、民主化した後も日本にはこの民族差別意識が残りました。

旧宗主国と旧植民地という関係性や、アジア経済圏ではいまだに日本が強い影響力を持っていることなどから、現代日本に移民に来る人の多くはアジア圏出身者が多くを占めます。帝国日本と植民地という関係性を無視して移民反対を主張するのは、帝国主義と民族主義が公然のものであった大日本帝国時代の反省が全く無い態度とも言えるのです。それは、19世紀のアメリカがメキシコ人に対して行った「外国人」差別が、そのまま現代のラテン系移民差別につながっているのと同じことです。

さて、ここで問題になるのは、移民受け入れについて議論をしているうちに、日本の経済力がさらに弱体化し、少子化と超高齢社会がさらに悪化するということです。

日本はもはや高齢化を通り越して超高齢社会に突入していますが、実は世界全体が高齢化に直面しています。現在12%程度の世界の60歳以上の人口は、2050年までに20%を超えるとされています。高齢化は経済成長や社会が安定化することで、平均寿命が延びた結果であり、本来ならば喜ばしいことでもあります。衛生面や医療面の向上による妊娠・出産リスクの低下、ワクチンの普及や栄養状態の向上による乳幼児の死亡率の低下、社会保障制度や教育制度などの充実、安定した経済成長による生活の質の向上などの結果として、世界中で高齢化が進んでいるのです。

経済成長を目指す限り高齢化は避けられません。日本を含む先進国は、経済成長を続けてきた結果として、高齢社会に突入しているともいえるのです。

発展途上国も含め、世界中で高齢化が進んでいる中では、そもそも先進国が移民を受け入れて経済成長を続けるという案自体に限界があります。なぜなら、経済がそれなりに成長し、出生率低下と高齢化が始まると人口減少が進み、移民として出ていく人口が減少するからです。また、先進国の経済状況が芳しくない中では、発展途上国から先進国へという移民は減ります。それほど待遇が良いわけでもない国外に出稼ぎなど行かずに、成長を続ける自国に留まることを選ぶのは当然でしょう。

トランプ大統領の反移民キャンペーンによって、アメリカには移民、とりわけメキシコからの不法移民が大量流入しているようなイメージがありますが、メキシコからの移民は不法も合法も無関係に、そもそも減り続けています。それどころか、メキシコから流入してくる移民よりも、アメリカからメキシコに戻る移民の数の方が多いのです。アメリカ労働市場の条件が大して良くないので、無理してアメリカで出稼ぎする必要もないと考えて、メキシコに戻るからです。しかも、メキシコは出生率の低下によって人口が減っているので、そもそも移民しようという人口自体が減っています。再び人種主義に傾きつつある今のアメリカでは移民排斥議論が活発ですが、心配しなくとも移民は減っているのです。アメリカが人口を維持できているのは、移民のおかげですが、このまま移民が減り続ければ、アメリカの高齢化はさらに加速し労働人口は減少するでしょう。一般的に、移民第一世代というのは子だくさんですが、第二世代以降は平均出生率と同水準に落ちるからです。

再び日本の話に戻ります。日本への移民が多いアジア諸国は、世界でもダントツの速度で経済発展が進んだ地域であり、同時に世界ダントツで高齢化が進んでいる地域でもあります。近いうちに、移民や出稼ぎに行けるような人口の母数自体が減っていくとともに、自国の経済や社会が安定し、国外に出ていく必要もなくなります。それでも国外に出ようという高いモチベーションやスキルのある人が、すでに経済的影響力が低下し続けている日本を目的地として選ぶでしょうか? 事実、すでに日本に帰化する外国人の増加率よりも、日本国籍を離脱・喪失する日本人の増加率の方がずっと高いのです。

どんなに日本が「移民不毛の地」でも、植民地時代に日本に渡ってきた朝鮮や台湾の人々は数世代にも渡って、日本で生活し続けてきました。また、在留外国人数も年々増えています。日本人に多文化共生が無理かどうかという問いは不毛です。すでに日本に住んでいる外国人がいるのですから、共に生きる道を探すしかないのです。同時に、日本を捨てている日本人が増え続けていることを考えれば、外国人でも日本人でも、すべての人が住みたい・行きたいと思えるような国にするくらいの高い目標を持つべきではないでしょうか。

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