生徒会、内申点…「中1ギャップ」に備える保護者へ、筑附中・升野先生からのアドバイス

2022年2月18日(金)19時45分 リセマム

「中1ギャップ」どう乗り越える?

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中学校への入学後、小学校からの大きな環境の変化についていけず不登校などの要因になるという「中1ギャップ」。子供が高学年になり、いずれ来る大きな変化に身構えているご家庭も多いのではないだろうか。中学校という新しい環境に対する不安を拭うべく、「中1ギャップ」の要因となりやすい学習面・学校生活面について、筑波大学附属中学校の副校長で、書籍『中学校ってどんなとこ?』(世界文化社)の監修を務めた升野伸子先生にお話を伺った。

中学校は「大人への第一歩」を踏み出す場所


--まず、子供の成長段階における「中学校」というものの位置付けを教えてください。小学校とはどのような違いがあるのでしょうか。

 小学校は、親や周囲の大人の価値観をインストールし、体現していく時期です。特に低学年では、勉強面よりも、スケジュールに沿って見通しを立てて動くことや集団行動の基礎といった学校的価値、苦手なことでも継続して物事を進めていくことの大切さを学び、高学年ではそれらを受けて少しずつ学習に向かっていきます。

 一方、中学校は、小学校からの学校的価値を引き継ぎながらも、自分が大事にしたい価値観や将来像を探す一歩を踏み出します。自分が一人の大人としてどう歩んでいくのかを考える時期であり、大人の助けを借りながら、自律に向かっていきます。その後、高校に入るといよいよ自分の価値観を軸に進みたい方向を定める時期がやってきます。

 学習面では、小学校では、まず「見えているもの」を捉え、それを手がかりにほかの「見えているもの」との関係性を見つけていきます。中学校では、最初は「見えているもの」から学び、学年が進むにつれ、より「見えないもの」つまり抽象的なものの学習に移ります。具体から抽象へ思考が進む過程をサポートし、「見えないもの」への想像力を養う時期です。その後、高校では「見えないもの」を捉える力を一層構築していきます。

 中学校の難しさは、小学校と高校の狭間であるということ。思春期という精神的に不安定な時期で、いろんなことが気になってしまう時期でもありますが、そこに向き合えることは教師としてもやりがいがあります。

小学校からの学校的価値を引き継ぎ、自分なりの価値観を探す場所


定期テストと内申点が果たす役割


--多くの子供たちや保護者の方が懸念しているのが、小学校とは到達度の測り方が違う、中学校での学習面です。多くの中学校で実施される定期テストや、公開される順位について、実施の目的や活用法について教えてください。

 そもそも文部科学省の規定では、「定期テストは必ずしも実施する必要はない」とされていて、コロナ禍でテストの必要性は一段と緩和されました。しかし、中学校は継続的な学びを大事にしていて、いくつかの単元のまとまりをもって学習を深めていくので、定期テストによって各単元の習熟度を振り返ることには意義があります。子供にとっては、単に日々の授業を消化するのでなく、前後の単元との関係性や、関連する内容を1つのまとまりとして学び直して理解できるのが定期テストの便利なところです。

 一方、学校にとっては、評価が小学校の3段階から中学校で5段階評価に細分化されるため、その判断材料の1つとして定期テストが必要であるということや、同学年で一斉に同じテストを実施することで公平性を保てるという理由もあります。

 テスト結果の伝え方や公表範囲は各校の考え方によりますが、上位者のみ掲示する学校から、個人に順位の詳細を伝える学校までさまざまです。本校では分布図を用いて全体における個人の成績を示しますが、詳細な順位までは伝えていません。

定期テストは体系的な学びに役立つ


--多くのご家庭が「内申点」について気になっていると思うのですが、その定義や目的を教えてください。 

 内申点は、中学校生活全体の成果物です。授業にきちんと取り組み、提出物を出していたかといったことも含め、中学校生活をどのように取り組んでいたかが評価されます。これは、中学校での生活面や課外活動も含めた学び全体を評価対象にすることで、高校入試当日の試験結果だけでなく、入試当日に事情があって実力が発揮できなかった子に対しても、今までの頑張り全体を評価する救済策でもあります。

 高校入試における内申点と当日点の割合は、自治体や学校によって異なります。たとえば、都立高校ではあらかじめ比率を公表している学校が多いので、志望校が決まっている場合は、事前にチェックしておくと良いですね。

--読者の方から「今までは中学校で生徒会をやっていれば合格できたという高校の推薦入試が、近年それだけでは通らなくなってきた。内申点の付け方が厳しくなってきているのか、それとも高校の推薦入試で求められる内申点のハードルが高くなってきているのか」という質問がありました。近年の内申点の扱われ方について教えてください。

 たとえば東京都では「調査書記載事項通知書」が3年生の冬に保護者に通知されます。ここに記載されている成績や諸活動の記録とまったく同じ内容が調査書にも記載されています。

 内申点は「学校内での学び」の評価なので、もちろん生徒会も評価対象の1つではあります。ただし、生徒会に入ろうとする生徒は人物面でも学習面でも充実している生徒が多いので、結果として合格率が高いのかもしれません。「生徒会活動をしていれば合格する」とは元々考えにくいですね。

 「内申点を上げるため」という思考ではなく、「中学校生活の中のさまざまな場面で学び、成長したい」という思いが生徒会活動などに参加する際の出発点であってほしいですし、せっかく参加するなら、その方が生徒にとっても有意義な時間になると思います。

 なお、学校外でのスポーツなどの活動については、受験する高校によっては評価される場合もあります。コロナ禍で部活動などの大会がなくなったことも起因して、多様な評価方法が生まれてきていますし、この流れは今後も継続していくと思います。

生徒会活動は「社会の縮図」…自分の立ち位置を見つける機会


--中学校では生徒会や委員会などの生徒自治の場が増えますね。思春期の子供たちの中には、こういった活動に「積極的に取り組む」ことを避ける子も多くいると思います。生徒会などの活動に子供たちが参加するメリットを教えてください。

 授業には、教師が生徒を導き、生徒が受け身になってしまうという側面が少なからずあります。その点、生徒会や委員会での活動は、異なる意見や利害をもつ人もいる生徒同士の組織で、ゴールに向かって一緒に考え、合意形成をする機会です。いわば、社会の縮図ですね。社会に出てから求められる対人能力や集団生活の基本的なトレーニングの場として意味があります。もちろん、トラブルや面倒な思いをすることもあるでしょう。しかし、そのすべてが生徒自身の成長になります。社会は自分以外の人と創っていくものなので、自分や他者がより過ごしやすい集団を創るための訓練になります。

 また、他者の意見を聞く練習にもなります。自分にとって良い意見も悪い意見も聞く姿勢をもつことで、自分に情報が入ってくるようになります。他者から意見を言ってもらえなくなると、人は伸びません。これは机上では学べないことなので、実地でぜひ学んでほしいです。

 生徒会活動というと「積極的でリーダーシップを取れる人」が参加するイメージがあるかもしれませんが、必ずしも全員が前に出る必要はありません。自分の意見を通したいという熱量だけでは組織は上手く回らないものです。自分がどの役割を果たせば組織がスムーズに動き、自分自身も心地良くいられるのかを知る機会にもなります。

社会生活の訓練としての生徒自治


進学だけが「ギャップ」じゃない…恐れず環境に適応する心構えを


--学習面でも学校生活面においても発生しうる「中1ギャップ」。それを乗り越えるために保護者の方へのメッセージをお願いします。

 小学校と中学校は、別の場所です。6年間通った「小学校の延長」ではないことを認識し、「中学校的な考え方に慣れていく」ことも大事です。小学校と比べると学校側から直接、保護者に説明することも少ないですし、連絡帳もなくなります。学校からは、生徒を介してご家庭に連絡するか、生徒への説明だけで終わる場面も増えてきます。

 一方で子供も中学生になると、なかなか家庭では学校のことを話さなくなるので、保護者の方の不安感も大きくなるのだと思います。そこは子供と学校を信頼して任せるしかありません。思春期の子供たちが通う場なのでさまざまなことが起こるかもしれませんが、短期的に考えず、長期的なスパンで見守ることが大事です。

 中学校入学のタイミングに限らず、新しい環境でギャップを感じるのは当然のことです。新しく習い事を始めるときや、学年が変わるときなど、大小のギャップを乗り越えることを積み重ねて、子供は成長していきます。

 親が先導して教育する段階は小学校までで終わります。6年間という長い期間で親子が培った小学校的な価値観から、中学校という新しい価値観へ心のベクトルを変えていく必要があります。教科担任制など中学校独特の文化をあらかじめ知り、親がそれを自覚することが大事ですね。もし中学受験をする場合は、その学校に信頼して子供を任せられるかどうかが、学校選びのときに重要視すべき点になると思いますよ。

--今日は貴重なお話をありがとうございました。

 授業のスピードが速くなったり、制服などの校則が増えたりと、小学校から中学校への大きな変化が目に付きやすいが、「環境が変わればギャップはあって当然」という升野先生の言葉が印象的だった。むやみに子供を変化から守り、避けようとするのではなく、まずは親が中学校生活について理解を深め、子供自身が「ギャップ」を前向きに乗り越えられる環境を整えてあげることが必要なのではないだろうか。

中学校ってどんなとこ? 楽しい中学生活のヒント大全発行:世界文化社

<升野伸子先生 プロフィール>
 筑波大学附属中学校 副校長。東京大学経済学部卒業。お茶の水女子大学修了。公民科教育・ジェンダー論を専門とする。大妻中学高等学校教諭を経て、現職。共著として『女性の視点でつくる社会科授業』(学文社)、『入門 社会・地理・公民科教育——確かな実践力を身に付ける』(梓出版)、『生徒が夢中になるアクティブ・ラーニング&導入ネタ80』(明治図書出版)など多数。

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