身内にいる「おひとりさま」が認知症かも。「孤立」が病気を引き起こすことも。定期的な雑談の機会を

2025年2月19日(水)11時30分 婦人公論.jp


イメージ(写真提供◎Photo AC)

身近な人に看護・介護が必要になったとき、みなさんはどこに相談しますか?
病気やケガで通院した後の在宅医療の支援であれば、病院の「医療連携室」などの窓口へ。認知症で要介護認定されれば「地域包括支援センター」へ。……基本的には主治医からの紹介先や案内があれば、そちらに向かえばいいわけです。
ただ複数の窓口に混乱したり、そもそも主治医からの紹介先が遠かったり……複数の病状に悩むケースもあるでしょう。
総合的な相談先として、主治医の所属機関を問わず、活用できるのが「訪問看護ステーション」です。
その地域に開かれた独立した事業所である「訪問看護ステーション」に、黎明期から関わり、自ら起ち上げた「桂乃貴メンタルヘルスケア・ハートフル訪問看護ステーション中目黒」で、自分自身も看護に当たるのが渡部貴子さん。
自らの経験を元に、介護や看護で困っている読者の方への駆け込み寺:【おとなの相談室】の先生として答えてもらうのがこの連載です。
専門の「在宅看護」を主軸に、切っても切り離せないメンタルケアを含めて、質問していきます。第8回目は、「身内にいる【おひとりさま】に向けて(1)」です。
(構成◎野辺五月)

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前回「介護や看護に困ったら【おとなの相談室】7」はこちら

手を差し伸べられる距離を保つ


Q:年老いた兄がいわゆる「おひとりさま」です。最近、ちょっと忘れっぽい様子で本人も「ボケが始まるのが怖い」と訴えるのですが、私が病院を勧めると「行かない」と拒否されています。どうすればいいでしょうか。

A:無理やり行こうとさせず、まずは見守って、いざというときに手を差し伸べられる距離を保つように心がけましょう。

認知症や精神疾患については、強引に受診させてもあまり意味がありません。結果的に脱走したり、治療を拒否したりということも事実よくある話なのです。

特に、男性は、【本当に困るまで】病院に行きたがらない傾向があり、言い聞かせれば聞かせるほど意固地になり、結果、孤立してしまうパターンも少なくありません。またようやく動いた時には大分遅く症状が悪化するケースもあります。

今回のケースでは、今のところ、まだ何も起きていない状況かもしれませんが、敢えてご本人が不安を言葉にしているということは何かのサインかもしれません。またそうでなくても、今後を考えて動くのにいい機会ですので、見逃さない手はないです。

困りごとへの自覚


では、今、どうすればいいのでしょうか。

まずは【困りごとへの自覚】を促すことです。

日常の困りごとに気づいてもらうように対話を続けましょう。困っていないならば「困った」と言うまで気長に待つしかありません。

例えばどこかが痛いとか、移動が億劫だとか、外出するときにガスを消したか不安になるだとか……小さな日常の不安や困りごとに症状がヒントになります。

不安を共有し、困りごとを自覚してもらうことから、始めましょう。

そのうえで解決のために、「受診」ではなく、「相談」をしに行くような感覚で付き添えば、必要なときに病院に向かうことができるようになるでしょう。

「困っていることはないか?」「変わったことはないか」をナチュラルに電話や直接、定期的にやりとりできる距離を保つ……ここが一番大切です。たまには様子を見にいく、連絡は取る……見放さない。そうして、いざというとき、手を差し伸べるように用意をしていきたいものですね。

身内だけで頑張りすぎない


ちなみに、本人は困っていなくとも、例えば声をあげてしまったり、認知症があきらかにすすんできて「お金を取られた」とか「この人は敵だ」とかと言い出したり……周囲が困ることもあります。

残念ながら、そういうときでも、無理やり病院につれていくことは実はなかなか難しかったりします。眠っている間に運んでも、結局、治療が拒否されれば病院としては何も出来ません。自分を傷つけるようなことをする場合や命に係わる場合は救急車を頼るのもやむなしですが、救急車も本人が「ノー」というと使えず、治療もできないのです。

そういうときは、うまく警察に来てもらって話をきいてもらい、病院に繋ぐという方法もあります。何かしらの専門家が入ることで納得してもらったり、第三者からいわれることで従ったりすることはわりとあります。また(医者や警察などの専門家以外にも)地域の保健士さんや仲良くしている友達、ご近所さんなど、その方に関わる人がいれば上手く入ってもらうことも大事です。


イメージ(写真提供◎Photo AC)

本当に困ったときに、お身内だけでどうにかしようと頑張りすぎないようにする——このことをしっかり覚えておいてください。またいざというときに頼れる人を探すためにも、早めに周辺の付き合いについても本人から聞いておくとよいでしょう。

定期的な雑談の機会を


繰り返しになりますが、受診したくない相手に、「(病院に)行け行け」言うのは逆効果です。受診させたい自分の気持ちは一旦横に避けて、意識を変えて、此方から「困りごとを聞く」——具体的に、歯が痛いとか咳が出るとか……しんどいことないの?困っていることないの?を確認していくことが解決への近道です。

最近忘れっぽいとか眠れないとか……何でもいいので、小さな不安や違和感について「大丈夫だと思うけど、一旦見てみようか」と提案できる距離で、定期的にご機嫌伺いをしておきたいところ。 

実はこの【対話できる距離】や「コミュニケーションそのもの」が、相手の状況を変える可能性もあります。薬や医療に頼らずとも、関わり方が変わったり、人の目が入ったりすることで、いい方向に症状ごと変化することもあります。

結局、医者に掛かるかからない以前に「孤立」が病気を引き起こす元を作ってしまっていることも多いのです。今から、意識して、定期的な雑談の機会を設けることから始めてみてはどうでしょうか。

婦人公論.jp

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