人口は日本の半数以下なのにパスポート保有率は高い……韓国で格安「LCC」が乱立する特殊事情

2025年2月20日(木)21時25分 All About

2024年末に続き2025年1月にも航空機事故が発生し、再び注目を集めた韓国系LCC。人口が少ない割にLCCが次々と就航する韓国ならではの航空事情とは。日系LCCとの違いも紹介。

日本で格安航空会社(ロー・コスト・キャリア、以下LCC)が定着して10年あまり。一方、隣接する韓国は日本よりもLCCの数が多い。韓国の人口は日本の約半数、面積は約4分の1しかないにもかかわらず、日系5社に対し、韓国系は日本に就航するだけでも7社ある。
2024年12月29日に発生した韓国・務安(ムアン)空港の航空機事故に続き、2025年1月29日にも釜山の金海(キメ)空港で航空機火災事故が発生し、韓国系LCCに再び注目が集まった。日系と異なる韓国系のLCC、その諸事情とは……。

人口が少ない韓国にLCCが多い理由

韓国にLCCが多い理由の1つが、韓国人のパスポート保有率が約40%であること。パスポート保有率が約17%の日本と比べると、実数こそ約2000万冊とほぼ変わらないが、国内観光資源に乏しい韓国人は日本人以上に海外旅行に積極的だ。
これに関連し、LCCを含む韓国系航空会社は「旅行需要がある」と見込まれる目的地への就航を進める動きが日系航空会社よりも速く、日本の地方空港にまで路線網を広げている。
2024年末の務安空港で起きた「チェジュ航空」の事故原因は断定されていないうえ、1月末に発生した「エアプサン」の火災事故は火元が機内の荷物棚とみられ、乗客が持ち込んだモバイルバッテリーが出火原因との報道がある。いずれも「LCCだから」問題があるとは言い切れない。
ただ、韓国系航空会社には安全面以外にも日系航空会社とは異なる「事情」がいくつかある。

韓国のLCC、歴史は日本より古い

韓国系LCC、その歴史は日本より古い。現在も日本路線などを運航する「ティーウェイ航空」の前身である韓星航空が、2004年に設立。経営難が続き、2010年に新資本が入って現社名で運航再開した。その間、2009年にはLCCの「イースター航空」が国内線に加えて国際線を運航開始している。
この2社に加え、大手航空会社(フル・サービス・キャリア、以下FSC)である大韓航空系のLCC「ジンエアー」、同じくFSCのアシアナ航空系「エアプサン」「エアソウル」、韓国の中堅財閥である愛敬グループと済州特別自治道が共同設立した「チェジュ航空」、韓国中部の清州空港を拠点とする「エアロK」の合計7社が、日韓路線を運航する。
韓国系LCCは、日本行きが最も人気で路線数も多い。東京(成田)や大阪(関西)、福岡、札幌(新千歳)などは、1日に何便もソウルや釜山、大邱(テグ)などから飛来する。日本の主要空港だけでなく、日系の韓国路線がゼロの愛媛・松山や熊本、徳島など地方空港に就航するのも特徴だ。
加えて、タイ・バンコク、ベトナム・ダナン、グアムやサイパンなどは韓国系LCCが多く就航する。
これには理由がある。韓国系を含むLCCの主力機である座席200席前後のボーイング737シリーズとエアバスA320シリーズの最大飛行距離なのだ。日本人にも人気のリゾートであるハワイは、これらの機材では飛行距離が足りないため就航していない。

「大型機」を運航するLCCもある

一方、大中型機を保有する韓国系LCCもある。ジンエアーはボーイング777、ティーウェイ航空はエアバスA330を所有して運航。特に需要が高い日本路線に投入されることも多い。
また、ティーウェイ航空はソウル(仁川)−クロアチア・ザグレブ、イタリア・ローマ、フランス・パリ、スペイン・バルセロナ、ドイツ・フランクフルトの路線を2024年5月から次々開設。LCCの数が多く競争が激しい中で、他社と違う営業戦略を打ち出している。

日系LCCの歴史と利用者数推移、中間にあるMCCの存在

一方、日本のLCCは「Peach」「ジェットスター・ジャパン」「スプリング・ジャパン」の3社に加え、国際線中長距離線専門でJAL系の「ZIPAIR(ジップエア)」、ANA系の「AirJapan(エアージャパン)」の合計5社ある。
2012年3月に国内線、同5月に国際線を就航したPeachが日本初の本格LCCとされる。かつて、2度デビューして2度撤退したエアアジア・ジャパン、Peachに吸収合併されたバニラエアもあった。
日本ではLCCに加え、スカイマークやスターフライヤーなどの中堅航空会社(ミドル・コスト・キャリア、以下MCC)が多くあるのが韓国との違いだ。MCCはLCCと異なり、運賃が需要によって大きく変わることなく、手荷物ルールがLCCより寛容だったり機内で無料のドリンクサービスを行ったりと、FSC並みのサービスを提供する。

日系LCCと韓国系LCC、実際に乗って感じる違い

日本と韓国のLCCは、実際に乗るといくつかの違いがある。
例えば日韓路線の場合、機内持込手荷物が韓国系LCCでは基本10kgまでなのに対し、日系LCCは7kg以下。この3kgの差は、わずかなようで結構大きい。
運賃は、日系も韓国系もLCCはほぼ変わらない。ただ、ほぼ同額運賃で、空港のカウンターで預ける手荷物(受託手荷物)の1個15kg無料が含まれていると、韓国系のほうがコストパフォーマンスはいい。なお、機内食やドリンクは有料だが、飛行時間が短い日韓路線は、機内食など特に不要だろう。前後の座席間隔(シートピッチ)も、日系LCCほど狭さを感じない。

今あえて「韓国系LCC」の選び方を助言するなら

昨今、韓国は日本人が行きたい海外旅行先ランキングで上位になることも多い。最も近い海外で行きやすいことに加え、K-POPや韓国ドラマなどの推し活、また韓国美容のリピーターも多く、特に女性に人気が高い。年に何度も韓国へ行く日本人旅行者は、旅費を少しでも抑えるため韓国系LCCをフル活用することも多い。
昨年末から年明けにかけて韓国で立て続けに航空機事故が起きると、そのたびに不安の声が上がった。実際、チェジュ航空では事故直後、韓国国内を中心に航空券の払い戻しが相次いだ。
いずれの事故も先述の通り「LCCだから」と現時点で断定することはできない。ただ、どうしても不安をぬぐい切れないのであれば、「LCCの利用を避ける」「事故が起きたLCCを利用しない」などを自ら判断して選ぶしかないだろう。
その際は、PeachやZIPAIRといった日系LCCを利用するのも手。韓国系と日系を実際に乗り比べると、運賃の差額以上に空港スタッフや客室乗務員が日本人という安心感は確かにある。
それでも韓国へ飛行機で行くのに不安であれば、韓国旅行をいったん延期して様子見するのが賢明だろう。そろそろ落ち着いたと自ら判断できた頃、再計画するのがいい。
この記事の筆者:シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに取材、執筆、撮影。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、お土産、グルメなど。ニコンカレッジ講師をはじめ、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も行う。(文:シカマ アキ)

All About

「韓国」をもっと詳しく

「韓国」のニュース

「韓国」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ