警報級の大雪を降らせる「JPCZ」の正体とは?豪雪に見舞われたこの冬、日本海沿岸で被害が長期化
2025年2月24日(月)6時0分 JBpress
10年に一度の大雪災害が発生
今年(2025年)の立春は2月3日でした。その翌日の4日から8日にかけて、今冬いちばんの寒気が日本列島に流れ込み、それに伴い、日本海側地方のみならず日本各地の広い範囲が豪雪に見舞われました。とくに北陸地方では10年に一度クラスの大雪が降り、気象庁は7日、新潟県と石川県に「顕著な大雪に関する気象情報」を発表しました。これは「短時間の大雪に対する一層の警戒」を呼びかけた声明です。
図表1に、日本海に面する7つの県庁所在市における2月10日までの合計降雪量を示しました。今冬はシーズンを通して雪が多い感があるものの、意外にも昨年12月28日から2月10日までの45日間における合計降雪量は、新潟市を除いて各市で平年並みか平年よりやや少ないという結果でした。
ところが、2月に入ってからの10日間の降雪量はすさまじく、新潟市では平年の4倍以上、その他の市でも秋田市を除いて2.6〜3.6倍もの雪が降りました。この豪雪をもたらしたものは何なのでしょうか? なぜ日本海沿岸の都市がこれほどの大雪に見舞われたのでしょうか?
そもそも雨や雪がなぜ降るかを簡単にいえば、湿った空気が上昇するからです。空気が上昇すると温度が低下し、露点以下になると空気が含んでいた水蒸気が水滴、さらに氷の粒になって雨雲・雪雲を作ります。
露点とは、空気が冷えて含まれている水蒸気(気体)が水(液体)になるときの温度をいいます。暖かい空気は冷たい空気より多くの水蒸気を含むことができるために、暖かい空気が冷えて温度が下がると、含みきれなくなった水蒸気が水に変わります。そのときの温度が露点です。
上昇気流によってできた雲から雨が降るか雪が降るかは、地表から雲の高さにかけての気温で決まります。この間の大気が一貫して0℃以下の場合は雪になり、それ以外はみぞれや雨になります。
では、どのような場合に上昇気流が発生するのか。それには次のようなケースがあります。
①気団(風)が山の斜面を駆け上がる:山沿いで雪が降ることが多い理由です。
②低気圧が発生する:たとえば、太陽光で温められた地表面や海水面近くの空気の温度が上がり上昇気流が発生します。
③前線が生じる:前線とは寒気団と暖気団が接する境界のこと。寒冷前線では寒気団の勢力が強く、暖気団の下に潜り込んで暖気団を下から激しく押し上げながら進むために、強い上昇気流が生じます。温暖前線では暖気団の勢力が強く、寒気団の上をはい上がるように進むために弱い上昇気流となります。
④JPCZ:冬季の日本海で発生することがある風の収束帯で、強い上昇気流が生じます。
豪雪被害をもたらすJPCZとは?
最近、テレビの天気予報で「JPCZ」という言葉を耳にすることが多くなりました。JPCZとは“Japan-sea Polar airmass Convergence Zone”の頭文字をとったもので、日本語では「日本海寒帯気団収束帯」といいます。「収束」は1か所に集まることを意味しますので、つまりJPCZは日本海において寒気団の風が集まって、前線のようにぶつかり合う場所のことです。
大陸寒気団の勢力が発達すると、冷たい風が北から南へ強く吹き出します。その風が中国と北朝鮮の国境地帯に位置する白頭山(標高2744m、中国名は長白山)などの高い山にブロックされると、いったん山の左右に分岐した後、風下の日本海上で再び合流しぶつかり合います。
これがJPCZの正体で、上昇気流により雪雲が発生し筋状に伸びて長さが1000kmに達することもあります。JPCZはひと冬に数度、多い年には10回ほども発生し、一度形成されると1日〜数日間続くのがふつうです。
JPCZが大雪をもたらす理由をもう少し詳しく説明すると、高い山を二手に分かれて迂回した寒気が日本海上で合流した際、しばしば渦が生じて上昇気流が発生するのです。しかも陸地より温度が高い海面上では、熱と水蒸気が与えられ積乱雲(雪雲)が発達します。そして、風が日本列島の沿岸に近づくと、そこには対馬海流という暖流が流れており、空気の上昇がさらに加速されて雪雲の成長を助けるのです。
おまけに今冬は海面水温が平年より2〜4℃も高い海域が日本海に広がっており、上昇気流がますます活発化しやすくなっています。このような理由で極度に発達した雪雲が、日本海側の平野部にも大雪を降らせているのです。
JPCZが生じると、南東北から福井県あたりが豪雪に見舞われることが多いのですが、風の向きや強さ、海水面の温度などによって降雪地域は東西に移動します。また、日本海北部でもJPCZと同様のメカニズムによって雪雲が発生することがあり、こちらは北海道に大雪を降らせます。
2025年2月5日の日本海における海面水温の平年差。赤色部分の数字は平年値より何℃高いかを示している。平年値とは1991〜2021年の30年間の平均水温最近まで一般には耳慣れなかったJPCZですが、日本海における寒気の収束帯が初めて報告されたのはおよそ55年以上も前、1969年のことです。以来、地道な研究が続けられ、世界一の豪雪地帯として有名な本州日本海沿岸地域の降雪メカニズム解明に大きく寄与してきました。2016〜2018年の研究ですが、1時間に2cm以上の降雪をもたらす気象要因の74%がJPCZによるとの報告もあります。しかしながら、JPCZにはまだまだ不明な点も多く、いまも精力的に研究が続けられています。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:白石 拓