美濃焼産地における“情報共有の在り方”を考える - セラミックバレー協議会×NTT西日本がワークショップを開催

2024年2月26日(月)9時0分 マイナビニュース

美濃焼の産地である岐阜県多治見市、土岐市、瑞浪市、可児市を中心に活動するセラミックバレー協議会は、NTT西日本 岐阜支店(以下、NTT西日本)による協力の下、岐阜県多治見市のセラミックパークMINOにて、「地域内の情報共有の在り方を考えるワークショップ」を開催した。
セラミックバレー協議会は、焼きものの文化・歴史・産業をあらためて見つめ直し、地域に受け継がれてきたその価値を共有・発信することで地域のブランディングを図り、地域の発展に繋げる取り組みとなる「セラミックバレー構想」の実働組織。地域における情報共有の在り方や仕組みを検討し、焼きもの産業を中心に地域を活性化させることを目的として、2021年4月に発足。今回のワークショップは、協議会の取組みの1つとして2023年9月より始動した「情報共有プラットフォームプロジェクト」の一環であり、「さらなる地域活性化に向けて、地域の様々な方の意見を取り入れ活動の輪を広げることが必要」との考えから実施されたという。
ワークショップには、陶磁器メーカーをはじめ、焼きもの産業に関わる人々が21名参加。事業構想大学院大学 事業構想研究所の河村昌美教授を講師に迎えて、情報共有に関する問題点や課題の抽出、掘り下げを行いながら、活発な意見交換が行われた。
○■情報共有は美濃焼が抱える切実な課題
「情報共有は美濃焼が抱える切実な課題で、これは美濃焼に限らず、地場産業全体に言えることだと思いますが、何をするにしても、情報がなかなか行き渡らない」と話すのは、「情報共有プラットフォームプロジェクト」のリーダーで、晋山窯ヤマツ 代表取締役の土本正芳氏。伝統的な地場産業として、長い歴史の中で技術が培われ、様々な表現を可能にしてきた美濃焼は、国内でもトップシェアを誇るが、「その一方で、古い商慣習が根強く残っており、産地全体としてデジタル化の波には乗り遅れている」という現状から、「廃業などによって貴重な技術や魅力的な商品が失われてしまう」との危機感を抱く。
「地域の人たちに正しくタイムリーに情報が届く環境を作ることが、地域を盛り上げていく上で必要なのではないか」との考えから、「情報共有プラットフォームプロジェクト」を立ち上げた土本氏。今回のワークショップの目的として、「地域の仲間づくり」と「“地域の情報共有の在り方”を具体化すること」の2点を挙げる。
仲間づくりに関しては、「セラミックバレー協議会の活動は徐々に認知も広まってきましたが、まだまだ地域で知らない人もいます。今回のような機会を作って、協議会の活動に触れてもらうことで、今後一緒に活動してくれる仲間を増やしていきたい」との思いから。特に今回のワークショップの参加者は、情報共有に関しての課題感を持つ有志であり、「モチベーションの高さに期待するところが大きい」という。
また、“地域の情報共有の在り方”については、「地域を盛り上げていくためにはどんな情報が必要なのか、どのような仕組みであれば漏れなく情報を行き渡らせることができるのか、参加者の皆さんのアイデアを踏まえて、仕組みづくりを進めていきたい」との意気込みを示す。「ただデジタル化すれば良いという話ではなく、皆さんの声を聞いた上で、何が一番情報共有にとってベストなのかを探る」ことも、ワークショップに期待するところだという。
「美濃焼は産地の規模が大きいため、課題が非常に多く、関わり方によっても課題や問題解決のイメージが違ってくるかもしれません。高齢化が進み、担い手が少なくなっている中、モチベーションの差が情報共有において、ひとつの壁になっている」と危惧する土本氏。しかし、そういった状況においても、「誰もが判断基準として情報を見られる環境を作る」ことが必要であり、「判断基準のない状態で判断しなければならないということだけは避けたい」と話す。「その手段がデジタル化なのかもしれないし、違うのかもしれない。美濃焼にとって最善の方法を、今回のワークショップの結果を参考にしながら、さらに検討を進めていきたい」と今後の活動へのさらなる意欲を見せた。
一方、今回のワークショップを開催するにあたり、「NTT西日本さんの知見からぜひアドバイスをいただきたかった」という、公益財団法人セラミックパーク美濃 総務会計グループリーダーで、セラミックバレー協議会 事務局の長江佳昌氏。「NTT西日本の坂野さんと玉城さんは、約2年間にわたり、この地域の美濃焼産業について深く広く調査され、その徹底ぶりには何度か唸らされました」とのこと。「ある時、彼らからA4一枚にまとめた美濃焼産業の現状を説明した資料を見せられたとき、『よくここまで的確にまとめたものだ』と驚嘆する感想が協議会メンバーからあがったほどです」と振り返る。
「私達は、やはり美濃焼業界の中にどっぷり浸かっているため、当たり前みたいに感じてしまい、ちょっとおかしいと思うこともなかなか客観的になれません。しかし、NTT西日本さんが俯瞰的な立場で我々の業界を見てくれることで、自分の持っていた違和感が鮮明になる」と長江氏。「この地域は、多治見市、土岐市、瑞浪市、可児市に分かれていて、それぞれの市の中でもいくつかの地区に分かれているため、どうしても垣根ができてしまう。それを取り払うことが協議会の目的でもあるのですが、NTT西日本さんはその動きを後押ししてくれる」と感謝を表す。
今回のワークショップをはじめ、美濃焼業界を今後も発展させていくために、「これまで2年間一緒にやってきたので、会社の事情もあると思いますが、これからもできるかぎり伴走してほしい」という長江氏は、「特に情報共有については、絶対にIT技術が必要になってくると思いますので、その際はさらに力を貸してほしい」と引き続きのサポートに期待を寄せた。
○■誰もが平等に情報を共有できる環境が必要
「情報共有プラットフォームプロジェクト」をはじめ、セラミックバレー協議会をサポートしながら、「長い歴史や高い技術力をもつ美濃焼の魅力を再認識するとともに、古くから残るアナログな商慣習や、地域内での情報連携の希薄さに課題を感じる」と話す、NTT西日本 岐阜支店 ビジネス営業部 ビジネス推進部門 ビジネス推進担当 担当課長 坂野幸毅氏。「国内外に美濃焼の魅力を発信し、地域にヒトやカネの流れを生み出すためには、地域が一体となって取り組む環境が必要であり、産業が抱える根本的な課題を解決することで、新しい挑戦に使うための時間やお金を生み出していく必要がある」との見解を示す。
ワークショップの開催を提案したのは、「情報共有プラットフォームプロジェクト」のメンバーだけでなく、地域の中で新しいことに取り組む方々の想いや意見も集約したい、との考えから。セラミックバレー協議会でワークショップを開催するのは今回で2回目だが、「昨年は、“地域の未来の姿を考える”という、大きなテーマで実施して盛り上がりを見せましたが、今年は“情報共有”という顕在化している課題がテーマだったので、皆さんが非常に活発に意見交換をされていて、よい機会が作れたのではないかと手前味噌ながら思っています」と笑顔を見せる。
美濃焼の特徴ともいえる“分業制”についても、「昔はそれで良かったのですが、時代が進むに連れて、分業によるロスが増えてきている。特に、情報共有が上手くできていないこともあって、縦のつながりはあっても、横のつながりが希薄なため、廃業などがあった場合に引き継ぎ先がわからなかったりする」といった課題を指摘。「このワークショップだけで、課題を解決できる具体策まで作り上げることは正直難しいと思っています。ですが、地域の方々が、地域が抱える課題に真剣に向き合い議論を重ねることで活動の輪が広がっていくことは、必ず明るい未来につながっていく」と力を込める。
「今のままで良いと思っている方と、やはり変えていかないといけないと思っている方で大きく二極化している」という現状を見据え、「長い歴史を持つ伝統産業だからこそ、デジタル化の可能性を感じる」という坂野氏。「決して慈善活動的なものではなく、最終的にはちゃんとビジネスに繋げていきたい」との本音を明かす。
「地域の方にとって本当に必要なものは何かを引き続き検討しながら、ここからは具体的な方策、ICTを使ったまちづくりなど、もう少し深い話をさせていただいて、しっかり具現化していきたい」と今後の方向性を示した。

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