《大人の愛着障害》子どもの意思を無視した進路決定なども原因に。幼い頃の愛着障害が、大人になって「依存症」「自傷行為」「拒食症」などを引き起こす

2025年2月27日(木)12時30分 婦人公論.jp


情緒不安定な大人に…(写真提供:Photo AC)

「自分のことが嫌い」「自己肯定感が乏しい」「周囲にとても気をつかう」それは子どもの時に育まれる愛着がうまく形成されなかったからかもしれません。愛着の問題があると、逆境やストレスに弱くなってしまいます。では、大人になってからでも愛着の形成はできるのでしょうか?精神科医の村上伸治さんが「自己肯定感を育てて、何があってもグラつかない自分になる方法」を教えてくれる『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』から一部を抜粋して紹介します。

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愛着障害は大人には診断されない。将来PTSDを引き起こすことも


愛着障害は、乳幼児が母親などの養育者とのあいだに愛着=心理的な結びつきを形成できなかったために幼児期に発症する精神疾患です。

愛着障害の原因でもっとも注目されているのは、虐待や不適切な養育=マルトリートメントです。

マルトリートメントとはアメリカで生まれた言葉で、子どもに対する身体的・心理的・性的虐待や育児放棄(ネグレクト)のほか、幅広い不適切な養育環境を指します。

子どもの目の前での家庭内暴力(面前DV)や親の都合で長時間留守番をさせること、親の気分で子どもへの対応をコロコロ変えること、頭ごなしに叱ること、子どもの意志を無視して進路や職業を決めることなどもマルトリートメントに含まれています。

とくに、子どもの発達に支障が出るほどのネグレクトや養育者が頻繁に変わるなどの状況が続いた場合、子どもは養育者とのあいだに心理的結びつきを形成することができず、愛着障害の要因になると指摘されています。

本来は子どもの障害


虐待や不適切な養育はなくても、神経発達症(発達障害)、なかでも自閉スペクトラム症のある子どもは、愛着形成の時期に親への関心が乏しく、愛着に問題が生じやすいことがわかっています。

愛着障害の国際的な診断基準はWHO(世界保健機関)による国際疾病分類ICD -11における「反応性アタッチメント症」、DSM -5-TRにおける「反応性アタッチメント障害」に該当します。

どちらの基準でも愛着障害は子どもの障害として位置づけられており、大人に対する「愛着障害」という正式な疾病概念は存在しません。

不安症や情緒不安定の形であらわれる幼児期の愛着障害では、成長の過程で依存や自傷、摂食症、ひきこもりなどの症状があらわれることがあります。

さらに、その後の人生においても情緒不安定や不安症などの精神疾患にたびたび苦しめられることになります。

このように、幼児期の虐待や愛着障害によって引き起こされる大人の精神疾患について、WHOは2018年に初めて「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という診断名を採用しました。

複雑性PTSDとは、通常のPTSDと同じような「著しい脅威または恐怖を与えるようなできごと」が、長期にわたる場合に起こるPTSDです。

通常のPTSDでは「フラッシュバックや悪夢などの再体験」「思い出させる状況や人の回避」「現在も脅威にさらされているという過剰な脅威感覚の高まり」などの症状が生じるとされています。

複雑性PTSDの診断基準では、これらの症状に加えて「感情の抑制がきかない」「自分のことを否定的に見る」「人間関係を保てず、人に親密感をもつことができない」などの症状の有無が問われます。

複雑性PTSDは幼少期の虐待に特化したカテゴリーではありませんが、発症の要因例には持続的なDVや反復的な身体的・性的虐待などが挙げられています。

子どものアタッチメント(愛着)障害とは?(ICD-11)


【反応性アタッチメント症】

苦しく困っているときにも大人に支援を求めようとしない。他者への反応が少なく、喜びや希望などの感情が限られている。
この特徴は5歳までに明らかになるが、ASD(自閉スペクトラム症)の基準は満たさず、診断時点で生後9カ月以降であることなどが条件となっている。

【脱抑制性対人交流症】

適切な養育が行われなかったために、社会的な行動に異常が生じる障害。誰彼かまわずくっつこうとする。親以外の大人に対しても過剰になれなれしくふるまう。

見知らぬ人についていくといった行動も見られる。1歳未満、5歳以上、ASDが存在する場合は診断対象外。

愛着障害によって青年期に起こりやすい問題


【依存症】

アルコールや薬物などの物質依存、ゲーム、買いものなどをやめられなくなる行為・プロセス依存、人間関係への依存など。なんらかの対象に執着することで心身の安定をはかろうとする。

【自傷行為】

意図的に自分の身体を傷つけることで、心理的苦痛をやわらげる。リストカット、たばこなどで肌を焼く、頭を叩く、髪の毛を抜く、皮膚をひっかくなどの行為をくり返し行う。

【摂食症】

必要な食事をとることができず拒食になり、やせていく。また、食欲をコントロールすることができず、過食になることも。思春期にとくに多く見られる。栄養状態が悪化し、命に危険が及ぶことも。


大人になって起こる問題も…(写真提供:Photo Ac)

愛着障害かどうかの診断は容易ではない


近年、幼少期の愛着障害が大人になってさまざまな精神疾患を引き起依こすことはわかってきました。

しかし、精神疾患で受診する大人の患者さんが、かつて愛着障害であったと診断するのは容易ではありません。

たとえば「幼少期に不十分な養育の極端な様式を経験」し、さらに「幼少期に愛着障害の診断を満たす状態」であったことが明らかな場合には、愛着障害だったと考えられます。

しかし、本人の語る幼少期のできごとだけで、これら2点について判断するのは困難です。

ただ、患者さんの症状をみて、明らかに複雑性PTSDに該当するとわかれば、トラウマ(心的外傷)に焦点を当てたPTSD症状の薬物療法・認知行動療法などが有効な場合もあります。

自己肯定感に焦点を当て、対話を重ねる必要がある今回扱う「大人の愛着障害(愛着の問題)」では、こうした診断には当てはまらないけれど、愛着形成時の問題で日々生きづらさを感じている人も対象としています。

そのなかには、長期間精神疾患を患っている人や、何度もくり返している人もいます。愛着の問題が隠れていると、精神疾患だけを治療していてもなかなか改善しないためです。

診察の際に生育歴をふり返りながら、自分の問題を自覚し、自己肯定感に焦点を当てて話をしていく必要があります。

※本稿は、『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)の一部を再編集したものです。

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