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日本版「ガストロノミー・マニフェスト」策定へ 「世界の“食”の未来を考える」シンポジウム開催

OVO[オーヴォ]2月28日(火)10時13分
画像:辻芳樹氏による基調講演「ガラパゴス時代の和食とテロワール」の模様。
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辻芳樹氏による基調講演「ガラパゴス時代の和食とテロワール」の模様。
画像:基調講演を行った米The Culinary Institute of America副学長のグレッグ・ドレーシャー氏。
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基調講演を行った米The Culinary Institute of America副学長のグレッグ・ドレーシャー氏。
画像:辻調理師専門学校校長の辻芳樹氏。
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辻調理師専門学校校長の辻芳樹氏。
画像:パネルディスカッションの模様。左からロバート・キャンベル氏、グレッグ・ドレーシャー氏、ガブリエラ・モリーニ氏、成澤由浩氏、辻芳樹氏。
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パネルディスカッションの模様。左からロバート・キャンベル氏、グレッグ・ドレーシャー氏、ガブリエラ・モリーニ氏、成澤由浩氏、辻芳樹氏。
画像:シンポジウムでは、山形県鶴岡市でフィールドワークを行ったイタリア食科学大学の学生も壇上に上がって意見を述べた。
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シンポジウムでは、山形県鶴岡市でフィールドワークを行ったイタリア食科学大学の学生も壇上に上がって意見を述べた。
 「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたり、東京がミシュランガイドの星付きレストラン数世界一になったり、日本を訪れる多くの外国人旅行者が楽しみの一つにしたりと、世界から注目を浴びている日本の“食”。日本人自身も誇りにし、当たり前のように享受(大量消費)している日本の“食”。だが、その未来には危うさがあるとしたら・・・。

 日本の“食”の未来について考えさせられたのは、2月23日、東京・赤坂で開かれた「世界の“食”の未来を考える 〜日本食文化の教育的価値とは〜」というシンポジウム。主催したのは、株式会社辻料理教育研究所(辻調グループ)で、日本の食文化の未来ビジョン・指針としての「ガストロノミー・マニフェスト」策定に向けて開催された。「ガストロノミー・マニフェスト」とは、フランスや北欧など国や地域単位で作られている食のマニフェストで、そこに掲げられている理念を世界に発信したもの。それを日本でも作ろうというわけだ。これから日本の食が目指すべき方向性を10項目にまとめ、成熟した食文化を有する日本ならではの持続可能な美食「ガストロノミー」を目指し、それを支える教育研究拠点の連携を提言するものだという。

 実はこれは内閣府「クールジャパン拠点連携実証プロジェクト」の一環。開会にあたって、内閣府知的財産戦略推進事務局長の井内摂男氏は「食はクールジャパンの中でも高い発信力を持っている。マニフェストの策定にあたって料理人や農業、観光、教育、自治体などさまざまな関係者間で連携が進み、それが大きなムーブメントとなって世界に発信されていくことを期待する」とあいさつした。

 続けて2つの基調講演が行われ、まず、世界の食文化をけん引する人材を多数輩出する料理大学、米The Culinary Institute of America副学長のグレッグ・ドレーシャー氏が登壇。年間500億個のハンバーガーを消費するアメリカの食の現状や大学の取り組みを説明するとともに、環境問題に配慮した植物主体の「健康的で持続可能な食」の重要性を訴えた。食の未来は味を気にするシェフだけでなく、政府や学術界、業界のリーダーなども重要な役割を担っていると強調したのが印象的だった。

 次に登壇した辻調理師専門学校校長の辻芳樹氏は、「ガラパゴス時代の和食とテロワール」と題して、日本の和食の素晴らしさを簡潔に紹介。たくさんの山と川、暖流と寒流のぶつかる海に囲まれた島国である日本の立地の特異性を示したうえで、食文化の歴史的な発展を解説した。とりわけ鎖国によって独自の文化を育んでいった江戸時代は、ガラパゴス的ゆえに持続可能性の高い食料生産、自然との共生といった哲学を前提とした日本料理が発達していったことを説明。そして日本料理が世界(主にフランス料理)に与えた影響として、しょうゆやみそを隠し味的に使う段階から、ミニマリズムな世界観や小さなポーション、品数の多さ、メニュー構成のリズム感、器の使いこなし方など表面的な段階をへて、現在は“だし”や“うまみ”などによる本質的な味覚の構造に影響を与えているという。だが、哲学・精神性や味覚理論の観点など本質的な面で日本料理を理解する海外の料理人はまだまだ少なく、これから我々が何を発信していくかが問われているとしめくくった。

 最後にパネルディスカッションが行われ、基調講演を行った2人に加え、イタリア食科学大学准教授ガブリエラ・モリーニ氏、2016年のThe World’s 50 Best Restaurantsで第8位に選ばれた「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩氏が登場。世界の食の未来を見据えた日本の食文化についてスリリングに意見を交わした。

 ファシリテーターを務めたのは、テレビでもおなじみ東京大学大学院総合文化研究科教授のロバート・キャンベル氏。専門は近世の日本文学だが、日本文化一般に造詣が深いことで知られている。

 ヨーロッパの学生たちと共に山形県鶴岡市でフィールドワークを行っているというモリーニ氏は味覚を科学的に研究する専門家。「味覚は大事。嫌いなものは食べませんよね」「日本のうまみは世界的に通用します。うまみが何であるか明確にして世界中に紹介したい」「伝統的な食事は急激に変化する世の中で緩衝材になりうる。日本とイタリアは長寿国だが、長寿だけでなく健康も必要。(味や健康に)good、(環境に)clean、(社会的に)fairが持続可能性のカギ」などと語った。

 ドレーシャー氏は「肉がメインの食事をしている国は、より植物主体に変えるべき。それじゃおいしくないというならシェフを巻き込む必要がある。アメリカでは調理の知識が家庭から失われつつある。法律で決められたシートベルトが人の命を守るように、食で健康を守るための方策が“調理の技法”では」と料理の可能性に言及。

 これにモリーニ氏は「鶴岡はよい見本です。例えば発酵技術を使って一時期しか採れない食べ物を年中食べられるようにする。毒性も排除できるしさまざまな成分も摂ることができる。このように知恵を使って培ってきた調理法が多々見られました。健康のためには多様性が必要。いろいろなものをバランス良くとることも大事。日本は世界が注目するひとつの見本なのです」と続けた。

 海外から訪れた2人が日本の良い面に注目したのと対照的に、日本人の2人はかなり手厳しい。成澤氏は「一見、豊かな日本の食。その裏に隠されている真実がある。食材には限りがあり、限界が迫っていることを日本人はわかっていない。魚はどんどん捕れなくなっている。しみ一つ無い豚肉ばかりなのはおかしいし、和牛は本来、牛が食べるものではないものを食べている。あるいは食材のムダがどれだけ出ているか。考えるべき事はたくさんある。危機感がある」と警告を発した。

 一方、辻校長の主張はこうだ。「日本人だけで作るとマニフェストはどうしても保護するという方向に行きがち。アメリカやイタリアの話を聞いていると、これから起こり得る問題にどう対処するかという視点がある。伝統は守るだけでなくどう革新するか。日本と世界の共通の問題点を見つけるべき。それではじめて真っ当なマニフェストができる。それを実現しているシェフは成澤さんをはじめ何人も日本にいる。日本だけでなく世界の食を守る、それではじめてクールなマニフェストといえる」「米国ではリテラシーの高い消費者が何を食べればよいか興味を持ち、シェフが何をどのように調理すればよいか研究し、ジャーナリズムが持続可能な農業・漁業を訴えるというきれいな図式があるが、日本は?」と問いかけた。

 確かに、食に関する膨大な情報が日本にはあふれているが、ジャーナリズムがない、批評や苦言がないといわれる。我々、消費者もお気楽においしいものや有名店を追いかけるのもいいが、生産現場に出向き(成澤)、作物が育てられているのを自分の目で見(ドレーシャー)、認識を高め(モリーニ)、旬の食べ物を食べる(辻)といった行動が必要なのだろう。つまり4人の出席者が異口同音に語ったフィールドワークの重要性だ。

 日本の食文化が、世界から注目されるだけでなく持続可能性を保てるのかどうか、これから策定される日本版「ガストロノミー・マニフェスト」に期待したい。
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