ストレスで白髪が増えるメカニズムとは? 興奮すると色素産生能力が奪われる
2023年3月3日(金)7時0分 tocana
2020年1月、学術誌「Nature」に発表された研究によって、”闘争・逃走反応”の過程で分泌が促進されるノルアドレナリンこそ、白髪の”真犯人”であることが明かされた。
人体は身の危険を感じるような脅威に晒された時、闘うか逃げるか、いずれにせよ素早く動くためのウォーミングアップとして、自動的にノルアドレナリンが盛んに分泌されるようにできている。この成分がわれわれの生存率を高めている一方で、副作用として毛包の幹細胞から色素産生能力を奪っているのだという。メカニズムについて詳しく解説した当時の記事を再掲する。
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※こちらの記事は2020年2月8日の記事を再掲しています。
年齢を取ったことをしみじみ実感させてくれるのが白髪の増加だが、単純に加齢が問題ではないことは、周囲の中高年の頭髪事情を眺めてみればよく理解できる。そんな白髪の“真犯人”が、米ハーバード大学の最新の研究で特定されたようだ。
ノルアドレナリンが白髪の“真犯人”
身の危険を感じる脅威に直面した時、人は“闘うか”それとも“逃げるか”の選択(闘争・逃走反応、fight-or-flight response)の即断を迫られる。この時、われわれの身体の中ではノルアドレナリンが盛んに分泌されている。ノルアドレナリンのレベルが高まると交感神経系が刺激されて心拍数が高くなり、脂肪からエネルギーが放出されて身体が機敏に動けるように準備が整う。つまり、闘うにしても逃げるにしても、素早く動けるように身体が自動的にウォーミングアップして、スタンバってくれるのである。
だが、このノルアドレナリンにあらぬ嫌疑がかけられている。ノルアドレナリンが白髪の“真犯人”であるというのだ。
米ハーバード大学とブラジル・サンパウロ大学の合同研究チームが2020年1月に「Nature」で発表した研究では、マウスを使った実験でノルアドレナリンが毛包の幹細胞から色素産生能力を奪い、白髪を出現させているメカニズムを解き明かしている。
毛髪の生産拠点である毛包は、特定の幹細胞が色素産生細胞のリザーバーとして機能している。毛髪の再生プロセスにおいて幹細胞の一部が髪を着色する色素産生細胞に変わり、色のついた髪の毛を生産するのだ。
研究チームはマウスを使った実験で、ノルアドレナリンのレベルが高まると毛包の幹細胞を過剰に活性化させることを突き止めた。過剰に活性化することで幹細胞はすべて色素産生細胞に変換されてリザーバーを枯渇させてしまい、それ以降は白髪のみが生産される状態になってしまうというのである。
色素が枯渇した毛包からは色付きの髪は生えない
かつてフランス革命で処刑されたマリー・アントワネットは、執行の前日に一夜にして白髪になったという逸話が残されている。またボクシング漫画の『あしたのジョー』でも、矢吹丈と壮絶な死闘を繰り広げたホセ・メンドーサが倒れても何度も立ち上がるジョーの気迫に精神的に追い詰められ、試合直後に白髪になるというシーンが描かれている。
これらはあくまでも逸話やフィクションではあるが、白髪の原因が強いストレスにあることは、これまでにも多く示唆されている。
研究チームも当初から白髪は何らかのストレスが原因であると見込んでいて、“容疑者”をいくつかピップアップしていた。
最初の仮説はストレスによって免疫系が毛包の色素産生細胞を攻撃し、髪の着色を妨げているというものだった。しかし免疫細胞のないマウスでも白髪が生えることから、この仮説は否定されることになった。
次に別名“ストレスホルモン”として有名なコルチゾールが白髪に関係していると考えた研究チームだったが、免疫細胞と同様、コルチゾールを欠いたマウスでも体毛が白くなることがあり、この仮説も却下されることになった。
こうして“容疑者”をしらみつぶしに検証して、ようやくノルアドレナリンという“真犯人”が特定されることになったのだ。研究チームによれば、ノルアドレナリンによる色素産生細胞の枯渇がいったん達成されてしまうと、その後戻ることはないという。つまり色素を使い果たした毛包からは再び色付きの毛髪は生えないことになる。
危機に直面した時の「闘争・逃走反応」によって分泌が促進されるノルアドレナリンは、われわれのサバイバルにとって有益なものであるが、それが白髪という意外な“副作用”を生み出すことが今回の研究で明らかになったことになる。
我々の身体能力を一瞬にして高めてくれる「闘争・逃走反応」だが、頭髪のためにはあまりスリルとサスペンスを求め過ぎないほうがいいのかもしれない!?
参考:「Sci Tech Daily」、「The Harvard Gazette」、ほか