がんばっても結果が出せなかった子どものケア方法を、角野隼斗さんの母・美智子さんが伝授。真剣勝負の中でも常に観察するべきことは…
2025年3月5日(水)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
ピアニストであり、「Cateen かてぃん」としてYouTubeでも活躍する角野隼斗さんのドキュメンタリー映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』が、2025年2月28日に公開されました。そんな隼斗さんの母・美智子さんは、コンクール入賞者を100名以上輩出したピアノ指導者です。そこで今回は、美智子さんの著書『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』から、美智子さん流・子育てメソッドを一部ご紹介します。
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結果が出せなかった時のケア
がんばったことが結果となって表れると、当然ながら子どもにとっても大きな自信につながります。一度その達成感を味わうと、主体性が高まり、次の目標設定に向かって取り組む時の姿勢がガラッと変わります。
そうして「目標に向かって主体的に取り組む→結果に表れて達成感を味わう」という好循環ができあがれば、親はだんだん口を出す必要はなくなっていきます。
しかし、なかなかそう簡単にはいかないことの方が多いですよね。
がんばったのに結果がともなわない時というのは、本人が一番つらいはずです。そんな時は、その子にとっての「目標」が何なのかを説明してあげるようにしています。こういう課題を克服するために、コンクールに参加します、だから賞を取るのが目的なのではなくて、課題を少しでも克服することができたら、それは目標達成なんですよ、と。
実際、コンクールで賞を取ることは「目的」ではありません。結果がどうであれ、コンクールを受ける前と後で、生徒の演奏がどう良くなったのか、どう成長したのかが重要です。これは、勉強でも同じことですね。ですから、結果にかかわらず、伸びている部分は大いに褒めてあげて下さい。
常に観察するべきこと
ときどき親御さんの中にも、コンクールに一生懸命になりすぎて結果ばかりを見てしまう方がいらっしゃいますが、その子の成長した部分をぜひよく見てあげていただきたいと思います。
そして、真剣勝負の中でも、子どもが楽しめているかどうか、主体的に取り組めているかどうかを常に観察して下さい。
がんばりすぎて、子どもが疲弊してしまったり、燃え尽き症候群のようになってしまっては本末転倒です。
結果が出せない場合でも、本人にとってどんな変化があったのか、それを見極めてしっかり褒めてあげるようにしていただきたいと思います。
真剣勝負の経験はその後の糧になる
コンクールのような真剣勝負の場を使って、目標に向かってがんばったり、決められた時期までに練習を重ねて準備する、という経験はピアノにかぎらずその後の人生でも非常に大きな糧となります。
私のピアノ教室では8割以上の生徒さんが何らかのコンクールに参加しますが、それは必ずしも音楽の道を目指しているからというわけではありません。趣味として楽しみたいと思っている生徒さんにもコンクールへの参加をご提案しています。
(写真提供:Photo AC)
もちろん参加するかどうかは完全に生徒さんの意思に任せていますが、たとえ趣味のためであっても、上達すればうれしいのは誰でも同じです。
はじめは趣味のつもりでも、もしかしたら、成長の過程でもっと真剣な気持ちが芽生えてくるかもしれません。生徒さんが持っている可能性をひとつでも伸ばしてやりたいのです。
「本番」に向かって努力する経験をさせる
我が家はコンクールが家族の年中行事のひとつのように定着してしまっていたので、まるでお弁当を持ってピクニックに行くような気分で毎年のイベントを楽しんでいました。
いつしか教室の生徒さんたちも同じように、家族で一丸となって取り組む姿が見られるようになりました。
「本番」に向かって努力する経験は、人を大きく成長させてくれます。受験やスポーツでも同じですが、「ここぞ」という時に実力を発揮する経験は、小さい頃からさせておくと良いのではないかと思います。精神力や自己管理能力も、知らずと養われていくように感じています。
※本稿は、『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)の一部を再編集したものです。
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