プロスケーター村元哉中、振付師としての可能性「記憶に残る作品を」荒川静香や坂本花織ら多くのスケーターを担当
2025年3月5日(水)6時0分 JBpress
(松原孝臣:ライター)
「なんでもいいんだな」
2024年3月末から4月上旬にかけて、大阪、横浜で行われた「スターズ・オン・アイス」。坂本花織が披露した『Poison』は鮮烈な印象を与えた。坂本の持つスピード感や力強さの一方で動きのめりはり、氷上を含め艶のある演技……高い評価を得たのは、坂本の新たな表現がそこにあり、今までにない一面が引き出されていたからにほかならない。
振り付けたのは村元哉中だった。
「(坂本を指導する)中野(園子)先生から『かおちゃんがつくってほしいと言っているけどどうですか』とお話がありました。その後、かおちゃんと連絡をとりあって振り付けました」
坂本に限らない。多くのスケーターの振り付けを村元が担ったこの1年は、村元が他の活動と並行し、振付師として本格的に活動を始めたシーズンでもある。
もともと振り付けへの関心はあったという。
「楽しそうだなという思いはあったんですけど、難しそうだな、でもやってみたいな、くらいの軽い気持ちでした」
一歩踏み出すことになったきっかけは一昨年の夏、「フレンズ・オン・アイス」で初披露となった高橋大輔とのプログラム『Makeba』をシェイリーン・ボーンに振り付けたもらったことにある。
「シェイの振り付けの仕方というか、振り付けに対しての熱を感じて、とにかくいろいろな動きをするんですよ。なんでもやって、そのスケーターに合う動きを探していく。そのプロセスを見たときに良い意味で『なんでもいいんだな、振付師って』と感じました。振付師はこういう動きをつくらないといけない、じゃなく、自由に楽しんで動きをつくっているシェイをみたときに、『振付師ってすてきだな、振付師に挑戦してみたい』という気持ちが強くなりました。シェイにも『私、振付師というのも考えているんだ』と言ったら、『絶対いいわよ、あなたは絶対合うわよ』と言っていただきました」
それまでも多くの振付師と作業をともにしている。それとの違いをこう語る。
「それまでは競技者として振り付けをやっていただいていたので、振り付けのプロセスはすごい楽しかったんですけど、競技に集中していた分、将来振付師になるとか全く考えてなかったですね。引退してから、この先どういうふうにスケートとかかわっていきたいのか、どうしようと考えたときに、振付師という選択も出てきました。そのときシェイをみて、一気にやりたいとなりました」
荒川静香から振り付けを依頼され、坂本からの依頼が舞い込んだ。
そこにとどまらず、数々のスケーターのプログラムを振り付けた。
「(木科)雄登のショート『Give Me Love』とか(大島)光翔のショート『Flamenco』は直接お願いされました」
作品が作品を呼ぶこともあった。
「それこそ、かおちゃん(坂本花織)のプログラムを観て(友野)一希からエキシビをつくってほしいと声がかかったり(『Don’t Fall in Love』)。つくった作品はどこかしらでみてくれるのでそこでいい作品と思ってもらえるかも大きいですね。そういった部分ではいいスタートになってうれしいです」
スケーターの中から引き出すこと
振付作業はどのように進めるのか。一端を明かす。
「曲はけっこう私が選ぶことが多いです。『しっとり系がいい』『楽しい系がいい』とイメージを教えていただいて、その中で選びます。編集は自分でするときも相手側でするときもあります。まずは頭の中でそのスケーターが滑っている想像から始まります。どのエレメンツを入れたいか、どの順番がいいか、競技のプログラムだと、ジャンプの順番もあるので、まずそこはしっかり聞いて進めます。陸で自分で動いてみたり、いろいろなダンス動画を観たり、そしてスケーターに動いてもらいます。とにかくいろいろ動いてもらいます。
腕の使い方がきれいなスケーターはそこをいかすとか、手足の長い人は手足を長く見せるとか、それぞれスケーターの個性があるので、そこを自分なりに探していかすようにしています。かおちゃんのときは、まずこれまでのプログラムをいろいろ観て、癖を探したりしました。パワフル感とかスピード感はかおちゃんの武器じゃないですか。そこをしっかり入れることを考えました」
数々の依頼を受けるに至ったのは、友野の例のように披露された作品への評価であり、少なからずいる振付師の中から頼むのは村元ならではのカラーを振り付けたプログラムに感じるからだったろう。
「何人かは『これ、哉中ちゃんの振り付けらしいな』と言ってくれたんですけど、私はまだ分かってないです。(自分のカラーを)探っているんですけどね。なんなんですかね」
こだわるポイントはある。
「基本、私は音とかビートとか歌詞とかを表現するのをメインにしています。それとけっこう細かい音はめをして、ステップもこだわりを持つ、全部の音を外さないというのは意識しています。あとは若干、どんなジャンルでもセクシーさを出すというのはもしかしたらあるかもしれません」
大切にしたいのは「振り付けをしているスケーターの中から引き出すこと」。
「振り付けをして、ベースができた上でスケーターが持つ感情を出してくれるといい味になります。ベースでいい作品をつくって、スケーターの武器を最大に引き出せればと思っています」
そのためにも進化を誓う。
「ジャズだったりコンテンポラリーだったり、ダンスもいろいろあるので、引き出しを増やしておかないと、と思っています。さあ、振り付けとなっても出てこないので、自分もアップデートしていかないと」
そしてこう語る。
「まずはいろいろな作品をつくりたいです。もちろんオリンピックプログラムを将来つくりたいというのもあるし、何よりも現役のとき、記憶に残るプログラムを滑ることを大事にしてきたので、何年経っても『よかったね』というプログラムをつくりたいです。記憶に残る演技、作品をつくりたいという軸はぶれないようにしたいです」
いつか、そうした作品を世に送り出す日を。振付師として一歩を記した村元哉中は、未来を見据える。
「滑走屋」開催概要
出演者
高橋大輔、村元哉中、村上佳菜子
友野一希、島田高志郎、三宅星南、青木祐奈
大島光翔、櫛田一樹、門脇慧丞、木科雄登、佐々木晴也、
振付
鈴木ゆま
開催日
2025/3/8(土)
【開場】10:00【開演】11:00
【開場】13:30【開演】14:30
【開場】17:00【開演】18:00
2025/3/9(日)
【開場】10:00【開演】11:00
【開場】13:30【開演】14:30
【開場】17:00【開演】18:00
会場
ひろしんビッグウェーブ
広島市東区牛田新町一丁目8番3号
*チケット情報は以下のサイトをご確認ください
滑走屋公式サイト:https://kassouya.jp
滑走屋公式チケット:https://cocoticket.
滑走屋公式インスタグラム:@kassouya_
滑走屋公式X:@Kassouya
筆者:松原 孝臣