開成から東大理一、ピアニスト角野隼斗さんの母・美智子さんが、音の感性を育む「音遊び」を紹介。卵パックをつぶす音、秋に鳴く虫の音 生活の中で「聴く」を大切にする
2025年3月6日(木)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
ピアニストであり、「Cateen かてぃん」としてYouTubeでも活躍する角野隼斗さんのドキュメンタリー映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』が、2025年2月28日に公開されました。そんな隼斗さんの母・美智子さんは、コンクール入賞者を100名以上輩出したピアノ指導者です。そこで今回は、美智子さんの著書『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』から、美智子さん流・子育てメソッドを一部ご紹介します。
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音の感性を育む「音遊び」
私自身がピアノ指導者ということもあり、聴覚を刺激する「音遊び」は特にいろいろなことを実践してきました。
子どもが小学校にあがる前から、毎週1、2回は図書館へ連れて行っていたのですが、借りていたのは本ばかりではありません。図書館にはCDもたくさんあります。
「日本の童謡」や「世界の童謡」といった曲集は、ただ聴くだけでももちろん良いのですが、ぜひ親子で一緒に歌って下さい。
歌を覚えてきたら、ランダム再生してイントロクイズをします。この時、親も競争相手として参加しましょう。音に対する集中力や記憶力を高めることにつながります。
「効果音全集」で遊ぶ
「効果音全集」のCDでもよく遊びました。「効果音全集」は、CMなどで使われる擬音や擬態音、民族楽器の音が100トラックくらい入っている楽しい音源集です。それぞれの音源にはレコード会社がつけたタイトルがついているのですが、遊ぶ時にはタイトルを伏せて聴かせて、どんなイメージかを尋ねます。
ただイメージさせるだけでなく、できるだけ言葉にさせると良いでしょう。
『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』(著:角野美智子/ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)
下は、小1の時に隼斗が書いた「効果音楽のイメージ」です。隼斗がノートの切れ端か何かに書き留めたものを、私が記録しておいたものです。
これは『ビクター効果音ライブラリー 10.効果音楽』(ビクターエンタテインメント)というCDを使って遊んだ時のものですが、最初はこんな風に簡単な短いコメントで良いので、「イメージを言葉にする」という遊びをぜひやってみていただけたらと思います。
「聴く」を大切にする工夫
我が家では、生活の中でも「聴く」ということを大切にしたかったので、なるべく音の流しっぱなしはしないようにしていました。BGMとしてクラシック音楽を流し続けることもありません。
テレビはリビングには置いていなかったので、食事をしながらテレビを見る、という習慣もありませんでした。音楽もテレビも、聴きたい時・見たい時に聴く・見る、というようにしていました。そのかわり、生活の中で耳を澄まして周囲の音当てごっこをよくしました。
たとえば、鬼役の子どもに目隠しをして、ほかの人たちが出す音が何の音かを当てるというゲーム。
新聞紙を丸める、広告を破く、プラスチックの卵パックをつぶす……実は普段の生活のどこかで一度は聞いたことがあるはずの音ばかりですが、目隠しをして音だけ聞いてみると、意外にわからないものがあったりして、盛り上がります。
あるいは、もう少し難度の高いものとしては、しゃがんだ体勢から誰か一人だけがすくっと立ち上がり、「いま、誰が立ち上がったでしょうか?」という問題を出すこともありました。ちょっとした動作が出す、ほとんど「気配」に近いような音が、どちらの方向から聞こえてくるのか、注意深く耳を澄まさなければなりません。
家の中の環境づくりを大切に
雨が降ってくると、「どんなリズムが聴こえる?」、秋になれば「いま鳴いているの、何の虫だろう?」……普段、環境音としてあまり気にしていない音も、耳を澄まして聴いてみると多彩な表情を持っていることがわかります。
また、ピアノを弾く時に、気分を変えて部屋を真っ暗にして弾いてみるという遊びもしました。不思議なことに、真っ暗にするといつもと違って音が聴こえるような気がします。いずれも、静寂がなければできない遊びです。
音があふれている環境では、どうしても耳が麻痺してしまいます。普段生活する家の中の環境づくりは大切だと思っています。
※本稿は、『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)の一部を再編集したものです。
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