ウーバーイーツ日本法人の代表に聞く「年末年始の配達トラブルはなぜ起こったんですか?」
2025年3月10日(月)16時0分 マイナビニュース
日本でのサービス開始から7年が経過し、すっかり社会インフラになったフードデリバリーサービス「Uber Eats」。だが一方で配達の品質に対し不満の声も聞く。代表 ゼネラルマネージャーの中川晋太郎氏に、Uber Eats Japanの現在と未来について伺った。
○日本でのサービス開始から7年が経過した「Uber Eats」
フードデリバリーサービスの先駆者として知られる「Uber Eats」。日本では2016年9月29日に東京都心でサービスをスタートし、都市ごとにサービスエリアを拡大していった。これは、加盟店・配達パートナー・注文者という3者が揃わなければビジネスとして成り立たないからだ。
その3年後、2019年8月には食料品・日用品を配達する「Uber Eats ネットスーパー」をスタートさせ、対象商品を大きく拡大させる。そしてコロナ禍によるステイホーム・テレワークで大きく需要を伸ばし、5年経った2021年9月に47都道府県でサービスを実現した。2022年9月にはUber Eats以外のアプリやWebページで注文したモノも配達してくれる「Uber Direct」も展開開始。いまや社会に欠かせないインフラのひとつとなった。
加盟店・配達パートナーに依存するサービスだけに、良くも悪くも反響が大きいUber Eatsだが、2024年末〜2025年始にかけ配送遅延やキャンセルなどの大きなトラブルが発生。SNSなどでは、Uber Eats Japanに対して不審・不安の声も上がっている。
今回は、そんなUber Eats Japanのいまとこれからについて伺うべく、代表 ゼネラルマネージャーの中川晋太郎氏を直撃した。
○10年後、新しい社会インフラになっているような仕事に
2021年1月にUber Eats Japanのマーケティング責任者として入社した中川氏。その経歴は、テック企業とは無縁のところからスタートしている。新卒でP&Gに入社し、20代後半まで日用品のマーケティングを担当。その後、「まったく別の仕事がしてみたい」とレインズインターナショナルに転職し、「牛角」や「温野菜」など飲食業の事業再生に関わる。
だがプロセスの完成していない企業での仕事に自分の力不足を痛感し、学び直しの意味もかねて再び日用品の企業へ。ユニリーバで12年間マーケティングを続け、最後の4年間は日本のマーケティング責任者も務めた。
「私がUberで働くまでに学んだことは、目の前の仕事に100%の情熱を持って取り組めるかどうかです。こういうことがやりたい、と没頭しているときのほうが成果も出やすかったりしますし、それは周りにも伝わります」(中川氏)
そんな中川氏がUberに入るきっかけとなったのは、2020年のコロナ禍だ。
「ご多分に漏れず私もフル在宅になり、いわゆる人の暮らし方がガラッと変わるのを目の当たりにしました。『社会ってこんなスピードで変わるものなんだ』とびっくりして、なにか急に『10年後、新しい社会インフラになっているような仕事に携わりたい』と思ったんです。でも、転職のためにヘッドハンターに連絡したときは全員に止められたんですよ。『こんな時期に転職したいなんて、バカか!?』って(笑)」(中川氏)
それでも転職先を探していた中川氏の目に止まったのが、当時ちょうど日本マーケティング責任者を探していたUberだった。こうして同氏は2021年1月にUberに入社。2022年9月、前任の退任を機にUber Eats Japanの代表に就任した。
なお、中川氏は海外でUberのタクシーを利用した経験はあったが、Uber Eatsの初利用は日本に来てからだったという。アプリを開いてボタン押すだけでモノが届くという体験に、感動を覚えたそうだ。
「世界中でサービスを展開しているし、アプリも洗練されてるので、すごくしっかりした会社かなと思っていたんですが、実際に入社して『良い意味ですごくスタートアップ感が残っている会社だな』と感じましたね。一方で、長い歴史を持つ会社と比べると抜けている点もたくさんあったのですが、それもまたすごく楽しいんです」(中川氏)
○コロナ禍がフードデリバリーのあり方を大きく変えた
日本のUberはユニークな発展を遂げてきた。他の国ではUberといえばタクシーなどのモビリティサービスだが、日本では圧倒的にUber Eatsをイメージする人が多い。また配達パートナーのサービスクオリティが高く、例えば置き配に際し自発的に紙を敷いてくれる方もいるという。そして24時間365日サービスを提供しているのは、日本以外に一カ国しかないそうだ。
2020年から2022年にかけてコロナ禍需要で急激に業績を伸ばしたUber Eatsだが、コロナが明けた2023〜2024年も二桁成長を続けており、Uber Eats Japan単体で黒字化を達成。事業として順調に推移している。
これは飲食店の食事を届けるUber Eatsが堅調な伸びを見せているだけでなく、食料品・日用品を配達するUber Eats ネットスーパーがフードデリバリーを超える速度で成長していることがひとつの要因となっている。Uber Directも想定通りの滑り出しだ。
「コロナ禍が収束し、やはり加盟店さまの考え方が大きく変化しました。それまでは『コロナ禍が落ち着くまでの一時的な解決策としてフードデリバリーを行い、コアビジネスはあくまで店内飲食』と捉えていた加盟店さまが多かったのですが、2023年以降は『フードデリバリーもコアビジネスのひとつ』として捉えるようになったと思います」(中川氏)
日本には昔から出前という文化があり、また宅配ピザも根付いていたが、多くの飲食店で一般的に提供されるサービスではなかった。しかしコロナ禍を通じて、Uber Eatsなどのフードデリバリーサービスが一般化し、どんな飲食店でもデリバリーのビジネス化を考えられるようになったのは大きな変化といえるだろう。
「一方で注文者さまも変わってきています。同じくコロナ禍の環境に対応する意味でお使いいただいた方はすごく多かったのですが、いまは生活の一部として生活リズムに合わせて使い分けられていますよね。共働きの家庭も増えていますし、がんばらなくてもよい生活のために賢く活用している方が多くなったと思います」(中川氏)
だが、フードデリバリー業界は競争も激しい。たびたび新しいブランドが登場し、一時期は7ブランドが競い合う状況もあった。中川氏は「競合に対する危機感はつねにある」と話したうえで、Uber Eatsの強みを「規模感」「インバウンド」「Uber Direct」と説明する。
「Uber Eatsの加盟店は現在約12万店舗、アクティブな配達パートナーは約10万人登録されています。事業規模が拡大することで『多くの店舗から選べる』『ちゃんと届く』『注文が入る』を実現できますし、関わる人全員が幸せになるんです。また海外同様のプラットフォームを使用しているので、海外から来られた方もいつものアプリでいつも通り注文できます。そしてUber Directはラストワンマイルを埋めるインフラとして成長中であり、ドライバー不足という社会課題解決の一助として貢献していきたいと思ってます」(中川氏)
○年末・年始の配送遅延・キャンセルはなぜ起こったのか
年末年始、そんなUber Eatsが悪い意味でSNS上で話題となった。配送遅延やキャンセルが相次いでいるというのだ。
「2024年末から2025年の始めにかけ、大幅な配達遅延やキャンセルが起こったのは事実です。加盟店さま・配達パートナーさま・注文者さま、3者ともに大変ご迷惑をおかけしました。深くお詫びを申し上げます」(中川氏)
中川氏はこのように謝罪するとともに、経緯について説明する。
「今回のトラブルの原因は、年末年始に需要が非常に大きく伸び、供給とのバランスが崩れたことにあります。結果、配達パートナーはいても、調整が間に合わずに今回の事態となってしまいました。我々もここまで需要が伸びるとは思っておらず、下に読み過ぎたというのが大きな反省点です。もちろん、現在は通常通りに戻っています」(中川氏)
さらに、一部報道に対してもはっきりと否定のコメントを述べた。
「配達パートナーが減っているであるとか、持続可能性に懸念があるといった旨の報道も拝見しましたが、そういったことは一切ございません。稼働している配達パートナーさまの人数は安定しており、月間アクティブ10万人で推移しております。年末・年始は稼働人数が減る時期ではあるのですが、それは例年同様であり、大きく数を減らしたということもありません」(中川氏)
現在、Uber Eatsは年末・年始に発生したトラブルを踏まえ、配達料の算出システムの対応を行っているという。
「いくつかの対策があるんですが、基本的には注文に合わせて配達パートナーさまの稼動延べ時間をできるだけ増やすという対応を行っています。需要は場所を問わず均一に上がるわけではないので、配達パートナーさまの稼働エリアを需要が発生するエリアに寄るような形にしていくシステム調整を行っています」(中川氏)
「需要が増えれば増えるほど配達単価が上がっていくというシステムになっていますので、そこのバランスの取り方ですね。これも基本的にシステムでリアルタイム対応しているのですが、一部で極端なバランスの崩れ方をして正しく動けなかったというのが今回のトラブルの要因ですから、事前に『もう少し極端になるかもよ』とAIに学ばせておくというアクションを取っています」(中川氏)
合わせて、配達パートナーのクオリティ、報酬問題についても言及を続ける。
「配達パートナーさまの配達品質についてはアプリ内から行われる評価を確認していますが、とくに下がっているという事実はありません。また報酬に関してのご意見も確認しておりますが、報酬を上げるとどこかに転嫁しなくてはなりませんし、単価を上げて配達件数が減ると、結果としてグロス単位の報酬が減少してしまいます。稼働の効率性も含めた上での掛け算としての最終的な配達報酬のご提案、ご提供が、我々が目指すところかなと考えております」(中川氏)
ちなみに、月に数回ほどだが、中川氏自身も自転車に乗って配達を行うことがあるそうだ。これは、実際に配達パートナーを体験しなければアプリの使い勝手や困りごとがわからないからだという。いつかあなたの自宅や職場に中川氏が配達に訪れることもあるかもしれない。
○Uber Eats Japanが描く未来の配達
テクノロジーを活かしてフードデリバリーサービスの第一線を歩むUber Eats。現在は東京や大阪で自律走行型ロボットによる自動配達の展開を始めており、将来的には自動運転技術を活かした配達に繋げたいとする。
「我々は、本当は過疎地域のようなエリアでこそ貢献したいのですが、残念ながらそういった地域ではパートナーのなり手がいません。ですから、そういうエリアでは最終的にロボットを活用して配達ができればと思っています」(中川氏)
とはいえ、当面の間、配達がすべてロボットに置き換わるとは考えていないという。だからこそ配達パートナーと通行人の安全はもっとも重視している点であり、警察との協力のもと、安全性向上に努めているという。
「配達パートナーは、アプリに登録いただく時点で安全講習をオンラインで受けていただいています。また一日一回、アプリを稼働するタイミングで安全確認事項をチェックしなければ稼働できない仕様にしています。配達中の行動はすべてデータとして残っていますので、配達パートナーさんも注文者さんも通行人のみなさんも、危険な目にあったらまずサポートにご連絡ください。悪質な行為を繰り返している場合は、該当するアカウントの凍結も行います」(中川氏)
最後に、中川氏からいただいた加盟店・配達パートナーへのメッセージをご紹介しておきたい。
「Uber Eatsはあくまでプラットフォームであり、需要と供給を繋ぐ存在です。そこに加盟店さまがいなければ、注文者さまが1億2,000万人いても存在意義がない状態になります。同じく配達パートナーさまがいないと、モノが届けられない状態になります。テック企業のなかでも、当社は"デジタルの世界だけで完結しない"というユニークな特徴があります。実世界の接点となっていただいてるのは加盟店・配達パートナーのみなさまです。日々稼働いただいていることに、本当に感謝を申し上げたいと思います」(中川氏)