ホワイトデーに読みたい 麗しき男女の愛! 〜「笑っておくれ、愛しき我が妻よ」 ピンクのチュチュ中年男より〜

3月13日(木)21時15分 tocana

画像は「YouTube」より

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 中年独特のたるんだ体。白髪まじりの頭、膨らんだ腹、胸毛。お世辞にも美しいとは思えない裸体にピンク色のチュチュだけをまとい、壮麗な風景のなかでポーズをキメる。その姿は正直、奇妙で滑稽だ。でも、単なるキワモノ写真のたぐいじゃない、不思議な暖かみと少しの憂い、純粋さ、そして、突き抜けた明るさと爽快感がある。

【その他の写真はこちらから→http://tocana.jp/2014/03/post_3802.html】

 写真は、ニューヨーク在住のフォトグラファー、ボブ・キャリーの手で撮影されたセルフポートレートだ。ボブはレクサスやマスターカードといった大手企業の広告写真も手がけるアメリカのフォトグラファー。そんな、今年55歳になる彼が自らの裸体をさらし、エキセントリックなコスチューム姿で作品を撮り続けるにいたった経緯には、彼の愛する妻、リンダを突然襲った不幸があった。


■運命の恋人......ボブとリンダの物語

 ボブとリンダが出会ったのは1986年のアリゾナ州フェニックス。大学を出たばかりの2人の初めてのデートはフェニックスの東の街、テンピへのドライブ。2、3時間の短い間だったが会話は自然と溢れ出し途切れることがなかった。そして、お互いに「運命の人」を感じた2人は自然と結ばれることになる。

「『私は彼のものになる』と思ったの。私と同じくらいアートを愛している人に出会ったのは初めてだった」(リンダ)

 結婚生活は幸せだった。リンダは妻として、そしてボブの仕事のマネージャーとして夫を公私ともに支えた。ところが2003年、2人に不幸が訪れる。リンダが乳がんの診断を受けたのだ。乳腺摘出手術や化学療法を受け一時寛解したものの2006年に再発。2人は再び絶望に淵に立たされる。


■ただただ、妻を笑わせたかったんだ

 彼がピンクのチュチュのシリーズ「Ballerina」を撮り始めたキッカケはこの、リンダを襲った乳がんだった。2002年、乳がんが発覚する1年前に、ボブはフェニックスのバレー団からバレーそのものをテーマにした写真作品を作ることを依頼された。この時彼は、チュチュを着た自分のシルエットを撮影したモノクロの作品を制作している。この仕事がのちにピンクのチュチュのセルフポートレートを撮るヒントとなった。

 なぜ上半身裸でピンクのチュチュなのか? 動機はシンプル。死の恐怖に直面し、打ちひしがれながらも賢明に病と闘う妻を、彼はただ、笑わせたかったのだ。笑いに治癒効果があることは医学的にも実証されている。ともすると世間から人格を疑われ、キワモノ扱いされかねないリスクを負いながらの撮影(実際、ニュージャージ州リッジウッドのプールでの撮影時には近隣住民の通報により警官が呼ばれている)は、ボブにとって妻を殺そうとする病魔と共闘するための決意表明であり、ピンクのチュチュはいわば「愛妻のがん」というシビアな現実と闘うためのアーマーだった。

 ボブの写真はリンダに笑いと、がんに立ち向かう勇気を与えた。そして、彼女は同じ病を患う周囲の女性たちにボブの写真をシェアすることにした。闘病生活に苦しむ同志たちの気持ちを少しでも和らげてあげたかったから。リンダの試みは功を奏し、ピンクのチュチュをまとったボブの姿は、彼女たちが化学療法の最中に不安で退屈な時間をやり過ごすための格好の慰みとなった。見た者は笑わずにいられないからだ。


■夫婦の私的な営みが世界的なプロジェクトに

 ボブとリンダの物語は2012年、2人についての記事が米ヤフーで紹介されたことをキッカケに、インターネットとテレビを通じて爆発的に広がることになる。米ヤフー掲載後、2人のFacebookページには数百万の「いいね!」が付き、「The New York Daily News」や「NBC's Today Show」ほかの人気テレビ番組にも出演。そういった経緯を経て、もとはボブとリンダの私的な営みだったプロジェクトが、いまや社会を巻き込んだ「The Tutu Project」へと成長。ピンクのチュチュは乳がん患者につかの間の喜びと希望を与えるシンボルとなっている。

 「The Tutu Project」は、ボブの写真作品の売上げを始めとする集めたお金を、高額な医療費やその他の金銭的負担に苦しむ乳がん患者達のために寄付するプロジェクトだ。運営のためにリンダが立ち上げたキャリー財団は、アパレルブランドのブルーミングデイルやアメリカンバレーシアター、全米フットボール協会、ドイツテレコムなどの大手企業や団体から協賛を受けるまでに至り、この3月までに合計27,000ドル(日本円でおよそ2億8,000万円)を集めた。

 ボブの作品は2012年に写真集、「Ballerina」にまとめられた。1冊50ドル。2013年初頭の段階で5,000部を売り上げているというのだから、写真集としてベストセラーだ。日本からの場合、85ドル(送料込み)で「The Tutu Project」(http://www.thetutuproject.com/)のサイトから購入できる。関心のある読者は、この写真集を最愛のパートナーと開きながら、じっくりと2人の今までとこれからについて話してみてはどうだろう? 煮え切らないカレに対しては、写真集の角で頭をどつく、というのももちろんアリってことで。
(渡邊浩行)

tocana

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