「態度の良し悪しと能力は関係ないだろう」問題

3月15日(木)7時0分 文春オンライン

 日常的に「もう少しどうにかならないのか」と思うことが多い昨今ですが、いかがお過ごしでしょうか。私も子供のころから「お前、なんだその態度は」という理不尽な怒られ方をしてきた身として、いつも「人を態度で判断するな、お前が死ね」と思いながら生きてきた人生でありました。


プールでなぜか叱責されている次男


 拙宅山本家では三兄弟に水泳を習わせているのですが、当然教えてくれる内容は段階別になっています。最初は水泳にさほどの興味を持っていなかった三兄弟、なかなか上達しませんでした。しかし、クロールで25メートル泳げるようになり、水中で自分の身体がコントロールできるようになって、さらにプールの底に足がついて自在に動けるようになると、俄然やる気を出します。親子で練習を見学したりし、また本人たちも「もっとうまく泳ごう」という意欲が高くなってきたので、休みの日の空き時間に近くの千代田区民プールとかに練習に行きます。特に、次男坊が日ごろ練習している成果を段階アップ試験に活かそうと意気込んで、頑張ってバシャバシャやっとったわけですね。


夏はプールが最高ですが、千代田区民は困惑しています - やまもといちろう オフィシャルブログ

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 んで、いつもはクールな次男坊も、表にはあんまり意欲を出すタイプではないのですが根は真面目で、水泳にはとても前向きになっておりました。今回、段階アップ試験を受けるというので頑張って背泳ぎを練習して、難なく25メートル泳げるように「自主練」を積み重ね、家内に伴われていざ試験を受けにいきました。そんな丸い背中を見送るわたくし。


 ところが、観覧席から家内が様子を見ていたところ、一向に本人が試験を始める気配がない。他の子は、スイスイ泳いでいるところを、なぜか次男は先生に叱責されているようにも見える。厚いガラスの向こうのプールで何が起きているのか分かりません。



「猫背→姿勢が悪い→態度が良くない」の謎理論


 試験を一通り終えて、半泣きで更衣室から出てきた次男は「先生に試験を受けさせてもらえなかった」と家内に訴えたようです。帰宅してもふてくされる次男、困惑する家内が私に報告するに、試験を受けるときの姿勢が悪くて背泳ぎのテストに参加させてもらえなかったと言うんですよ。


 ここで45年間猫背一筋で生きてきた私の怒りが爆発するわけです。おう、猫ちゃんもびっくりするほどの猫背でなで肩で頑張ってきましたとも。子供のころ、やはり「授業中の姿勢が悪い」から「授業を受ける態度が良くない」ので「廊下に立っていろ」という謎の教師理論で理不尽な仕打ちを受けていたのがフラッシュバックして、猫背が見事に遺伝したであろう次男の受けた不条理を想像して、マジ怒りなんですよね。どういう理屈なんだ。



勤務態度と能力は関係あるのか 


 猫背というのは怖ろしいもので、自宅に帰るべく官邸横の溜池山王の交差点を歩いていると頻繁に警察官に止められて職務質問を受けます。近所に実家があるだけなんですけど。野良猫が背広を着て歩いているとでも思われているのでしょうか。ちゃんと税金払ってるぞ。でも確かに、姿勢が悪いと態度が良くないと思われるのは世間一般に共通であるらしいのです。


 思うに、人を判断するときに「態度の良し悪しで考える」というのは、人間の能力や意欲といった内面は態度に出るものだという、日本社会独特の考え方なんじゃないかと感じるのです。それは、猫背の問題だけでなく、遅刻をしない、他の人が働いているあいだは先に帰らないといった勤務態度に関する評価が、本人の実際の能力や努力、あるいは出した成果と無関係に下され、能力のある人がさっと仕事を終えて帰るのを見た能無しが残業しながら「あいつだけ先に帰りやがって」という身の程知らずの不満を募らせるのと同義ではないかと思うのです。



 次男の場合は「背泳ぎを開始するときの壁キックの姿勢が悪い」と怒られた。泳力とは無関係のことで試験を受けられなかったというのは、せっかく芽生えた水泳への情熱が先生の言葉や指導ひとつで台無しになりかねない由々しい問題です。おそらくは、その先生もそういう指導を受けてきたり、あるいは性格的に形式を重んじる御仁なのかもしれませんが、それによって意欲を摘み取られた側は「先生の当たり外れ」という漠然とした概念で話を済ませるわけにもいきません。夕食中、普段は手荒な遊び方を強要する長男も実に見事な忖度を発揮して、悲しげな顔をしている次男をなだめ、三男は「やる気が無くなると人間終わりだよ」と4歳とは思えない見事な煽りで次男の気持ちを奮い立たせようとします。


 それもこれも、わたくし山本一郎の猫背という偉大なる才能がうっかり遺伝してしまったという根本原因があり、次男の直面した苦難が、私の人生に学生時代からずっと横たわってきた「態度が悪い」という不当な評価を彷彿させるものであることは、次男にはなかなか説明ができないでおります。




解雇理由や組織内不和の原因としての「態度が悪い」


 そればかりか、我が国の企業においては、解雇理由や組織内不和の原因が従業員の「態度が悪い」であるケースが多数あるのは、労働関係のレポートや書籍でも明らかです。社員旅行に行かない、仕事帰りの飲みに付き合わない、遅刻が多い、電話に出るのも不愛想、いつ見ても猫背などなどの態度の問題には、「組織に溶け込めないお前」と「解雇したい私」という謎の労使関係の緊張を生み出すメカニズムがあるのでしょう。


 仕事や学業などのパフォーマンスに直結しない、人間の好き嫌いが評価に反映されるのは、上下関係や組織を情実が優先される悪しき風潮に染めてしまうのだろうなあと思うわけであります。体育会系でも、まず「やる気を見せろ」とか「声を出せ」などの態度を重んじる風習が残りますし、長時間練習当たり前の縦社会で育つと、社会の理不尽を個人の問題として飲み込む仕組みができてしまいます。世間なり組織が不合理だから個人が悩んでいるのに、そういう問題も弁(わきま)えられないお前が悪いと叱責されたら、鬱になる人が多数出るのも不思議ではないと思います。



 その点、理不尽に直面するとその場で大爆発することも多い私ですが、溜め込まないことって姿勢を良くするより大事なスキルだと思うんですよね。面倒くさくて態度が悪いと思われることも多いけど。



(山本 一郎)

文春オンライン

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