「2025年はこのクマが怖い!」ホラーブームに乗り、書店さんの熱い思いを受け13年ぶりに復刊された作品とは…

2025年3月15日(土)12時0分 婦人公論.jp


写真提供:Photo AC

2024年は、数々の日本のホラー小説が注目された。フィクションをドキュメンタリーのように見せかけて演出する「モキュメンタリー」(擬似を意味する〈モック〉と〈ドキュメンタリー〉の混成語)手法をとった作品が、多くの読者をひきつけた。ユーチューバーとしても活躍するホラー作家、 雨穴(うけつ)さんの『変な家』シリーズや、背筋さんの『近畿地方のある場所について』などホラー小説が大ヒットするなか、ファンタジーホラーの傑作がリバイバルした。その背景に、何があったのか?

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13年ぶりの刊行の本が話題


2025年1月に刊行された新井素子さんの『くますけと一緒に 新装版』が、書店員さんの間で話題となっている。発売後に即重版が決定し、2月17日現在3刷、文庫ランキングで1位になるお店も出ているという。新装版で、13年ぶりの刊行の本になぜ注目が集まっているのかを、書店員さんに聞いた。


『くますけと一緒に』(著:新井素子/中央公論新社)

新井素子さんによる『くますけと一緒に』は、1991年に単行本が刊行され、これまで複数の出版社が文庫化。最後は中公文庫で2012年に文庫化され、2020年代には入手困難な本となっていた。

<あらすじ>
あたしは悪いことなどしていないのに、いつも嫌われていた。
同級生、そして両親にも。そんなあたしを気にかけてくれるのはママの親友・裕子さんと、くますけだけ。
悪い人は死んでしまえばいい——。
願うと同級生は事故にあい、両親も死ぬ。裕子さんに引き取られたあたしは、ここでくますけが邪悪なぬいぐるみなんじゃないかと思いはじめ……。

2012年に中公文庫になった際には、ファンタジーホラーの傑作また異色のホラーとして、ただ怖いだけでない、+αの要素が知られていた。

近年、雨穴さんの『変な家』シリーズや、背筋さんのモキュメンタリーホラー小説の大ヒットにより、あらたな読者が急増。そんな中、書店員さんから「復刊待望」の声が上がる。
新装版刊行のきっかけとなった、未来屋書店碑文谷店の福原夏菜美さんにお話を聞いた。

「出会いは書店さんのSNS」


「2018年にPOPごと販売する書店として話題だった八戸市の木村書店(2023年12月閉店)さんが、(『くますけと一緒に』の)POPをX(当時Twitter)に投稿していたんです。サイコホラーという紹介なのにとてもかわいいイラストで気になりました」

当時も店頭には在庫がなく、見つけるのが大変だったそう。捜しまわって何とか入手して読んだといいます。

「私のなかでは、心温まるストーリーとして読みました。私自身がぬいぐるみ好きだということもあるかもしれません。ぬいぐるみを思う気持ちはとても共感ができましたし」

時を経て2024年の夏、中公の営業担当から「復刊してほしい作品は?」という話を振られて、『くますけと一緒に』を真っ先に挙げたといいます。

「とにかく私が好きな作品だから」


なぜこの作品なのか?の問いに
「とにかく好きな作品だから」
と答えた福原さん。
そんな熱い思いを受けて、担当営業は『くますけと一緒に』のゲラを都内の他の書店の店員さんにも配り、応援コメントを集めることに。

・「ファンタジーがサイコホラーに一気に変わる… 人間界でもぬいぐるみ界でも、愛情溢れる親が毒親にかわるきっかけは同じなのかもしれない…」
・「裕子がいう「子どもは親を嫌ってもいい」という言葉は、親との関係に悩み、愛憎に苦しむ多くの人の救いとなるだろう」
・「えっ! そっちのはなしだったの!? 怖くなりました」

など、たくさんの感想が寄せられる 。

復刊が決まり、帯には「書店員さん発掘! 今読むべきホラー小説、待望の復刊!」の文字が刷られることに。

「とても上手だなと思いました。雨穴さんや背筋さんの本と一緒に並べて売れる!と(笑)。私はハートウォーミングでちょっと怖い話だと思っていたのですが、ほかの書店さんの反応にこれだけ差があるのは面白いなと感じました。そうか、実は結構怖いのかと再認識しました」(福原さん)

「ホラー小説、モキュメンタリーのブームの中で」


福原さんのお店では、最近のホラー小説、いわゆるモキュメンタリー小説などと併売しているという。


東京都目黒区の未来屋書店(写真提供:未来屋書店碑文谷店)

「店頭でも昨年の夏あたりから、ホラーのコーナーはどこですか? という問い合わせが増えました。これまで、小説を読んでいなかった人がホラー作品を読み始めているんだと思います。売れ筋のホラーと併売していますが、(『くますけ〜』は)思い入れのある作品なので、くまのぬいぐるみを置いたり、力を入れています。調べてみたら、文庫ランキング1位でした!(1月〜2月3日現在)」

そして、感想を寄せてくれた書店を中心に、注力店舗が拡大し、2万部の重版が決定。

書店員さんの熱量によって、復刊した本作。「2025年はこのクマが怖い!」

婦人公論.jp

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