半蔵門線の“ナゾの終着駅”「南栗橋」には何がある? 『翔んで埼玉』どころか『翔んで茨城』?

3月18日(月)6時0分 文春オンライン

 南栗橋という駅は、東京に暮らしている人にとってなかなかにナゾな駅である。


 どういうところがナゾなのかというと、目に触れる機会はかなり多いのに、近くに住んでいる人には申し訳ないが正体不明なのである。東急田園都市線・地下鉄半蔵門線から直通の南栗橋行、そして地下鉄日比谷線の南栗橋行もあるから、特に東急沿線の人など「南栗橋」の文字を見ない日はないだろう。とはいえ、行ったことがないからどこにあるのか、どんな駅なのかがよくわからない。



今回目指すのは南栗橋駅である


北千住、越谷、春日部を通り越して……


 その上にややこしいことに、“南”栗橋なのである。栗橋駅ならわかるのかというとそうでもないけれど、漠然と「こういう地名なんだな」と納得できる。ところが“南”が付くだけで途端に正体不明感が高まる。知らない地名のさらに“南”、範囲が狭まるというよりはもっと茫洋としてしまうのだ。同じように地下鉄から直通する電車の行き先には久喜や東武動物公園があるが、これらが行かずともなんとなくイメージできるのとはずいぶんな違いである。


 というわけで、そんな首都圏きってのナゾの終着駅、南栗橋駅の正体を知るべく東武スカイツリーラインに乗った。ここで簡単に南栗橋駅がどこにあるのかを説明しておくと、東武日光線の駅で、埼玉県久喜市にある。日光線と聞くと観光ムードが高まるが、南栗橋は見ざる言わざる聞かざるの日光よりはだいぶ東京より。スカイツリーラインと分岐する東武動物公園駅から3つ目の駅だ。そうは言ってもだいぶ遠く、スカイツリーラインに揺られて北千住、越谷、春日部も通り越す。




渋谷駅から1時間半……南栗橋駅に到着


 越谷あたりまでは高架の区間も多く、団地やマンションが立ち並ぶ車窓。越谷から先も沿線が住宅街であることは変わらず、違うのはマンションよりは一戸建て住宅が目立つようになることくらいである。ずっと関東平野を走っているから窓の外を見てもそれほど変わり映えはしないが、それでも春日部駅を出たあたりからすこしずつ田畑が増えてくる。東武動物公園駅から日光線に入れば、いよいよ南栗橋近し。すっかりベッドタウンどころか広々とした田畑を見て、よくこんなところまで乗り換え無しでこれるなあと思わず感心してしまう。


 渋谷駅から半蔵門線・スカイツリーライン直通の急行に乗って約1時間半、ようやく南栗橋駅に着く。首都圏方面からの列車はすべて南栗橋止まり。さらに北に向かって乗り継いでいくと、日光・鬼怒川。そしてもっと先に行けば関東を抜けて会津も見えてくるくらいだから、ある意味で関東の通勤圏内の北限駅といったところか。




「最近マンションもできているし、住んでいる人は増えてますよ」


 さっそく駅の外に出てみると……。などともったいぶるまでもなくて、こういう終点の駅というのは何があるわけでもないのが常である。線路に沿って少し北で東北新幹線と交差して、そのさらに北には東武鉄道の南栗橋車両管区(車両基地)がある(だから南栗橋が終点になるのだ)が、取り立てて名所というほどではない。駅の周りを歩いても、広々とした駐車場や駐輪場がいくつもあるくらいであとはひたすら住宅地である。駅を取り囲むように駐車場があるのはクルマ社会の北関東の駅の特徴のひとつだと思っているが、埼玉県も南栗橋まで来ればそうした特徴を備えているのだ。


 が、さすがにそれで終わって帰るわけにも行かないので、すこし足をのばしてみる。すると、南栗橋駅周辺の住宅はどれも真新しいものばかりであることにすぐに気がつく。もしかして、最近の埼玉フィーバーに乗って南栗橋も急上昇中の町なのか。


「そうですねえ、最近マンションもできているし、このあたりに住んでいる人は増えてますよ。ちょっと前まで空き地だったところに家ができたりしますしね」


 道行く人に声を掛けると、こんな答えが返ってきた。渋谷まで1時間半かかるとはいえ、座って乗り換え無しで通勤できるのであるから意外と便利なのだとか。それにひとつ先の栗橋駅まで行けばJR宇都宮線にも乗り換えられる。そうすれば大宮や池袋、新宿だってそう遠くはない。これまたナゾの終着駅の常、新興住宅地として少しずつ発展しているようだ。




南栗橋とは“平成”のニュータウンである


 元をたどると、栗橋という町は古くから奥州街道の宿場町にして利根川を渡る渡船場でもあったという。南栗橋駅はそれよりも南(あたりまえ)にあって、古い地図を見れば田畑ばかりが広がるエリア。そこに車両基地と駅ができたのが1986年で、以降地下鉄への直通列車の始発・終着駅となって発展が始まった。1989年には埼玉県済生会栗橋病院もできた。つまり南栗橋の正体は、車両基地と駅から育った“平成”のニュータウンなのであった。駅の近くには「平成橋」という小さな橋もあるから、本当に最近になって町づくりが始まって人が増えつつある町なのだ。




茨城県から南栗橋駅を利用する人もいる?


 そんなことを感じながら、真新しい町と道を歩いて駅から東へと足を伸ばしてみる。すると見えてくるのは川と橋。釣り人がいたので話しかけてみると、「この川の向こうはもう茨城だからね」。南栗橋駅から10分ほど歩いて利根川の支流・権現堂川を渡れば茨城県に入るのだ。翔んで埼玉どころか翔んで茨城。茨城県側から南栗橋駅を利用する人もいるという。釣り人はまた言う。


「でも茨城ってよりは埼玉のほうがまだ良いんじゃないの。そういう意味じゃあ、南栗橋はギリギリだよね(笑)」


 自虐ネタでお馴染みの埼玉も、どうやら茨城には負けたくない(というか負けていない)と思っているのか。そんな釣り人氏は茨城県側に住んでいるらしい。


 というわけで、都心から1時間超の埼玉県は南栗橋。まだまだ空き地や田畑も多く、そもそも駅の周りに飲食店のたぐいはほとんどないから、人が増えたと言っても発展途上。いくら乗換なしと言っても、わざわざ遠方から足を運ぶほどの何かがあるわけでもない。だからこそ静かだし、それでいて必ず座って通勤できるから、住む分には悪くないのかも。あ、もちろんホテルのような宿泊施設もないから、越谷あたりに帰る人が寝過ごして南栗橋で目覚めたらとてつもない悲劇なのでご注意を……。




写真=鼠入昌史



(鼠入 昌史)

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