近年多いといわれる「女性のADHD」グレーゾーン。「他の人が話している最中に自分の話を始める」「その場を仕切りたがる」など会話の中で出やすいのが特徴
2025年3月18日(火)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
何度注意しても遅刻がなおらない、場の空気を読むことが苦手……。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの総称である「発達障害」という言葉が一般的に浸透してきています。そのようななか、1万人以上をカウンセリングしてきた公認心理師の舟木彩乃さんは、発達障害の傾向がありながら診断がついていない「グレーゾーン」の人たちがいることも指摘しています。そこで今回は、舟木さんの著書『発達障害グレーゾーンの部下たち』より一部を抜粋してご紹介します。
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女性と発達障害グレーゾーン
発見が遅れる女性のADHD
これまで、ADHDは男性に多いといわれていましたが、最近では女性のADHDも多いといわれています。
ADHDはその特性の現れ方から「不注意優位型」「多動性・衝動性優位型」「混合型」(不注意も多動性も目立つ)の3タイプに分けて考えることがあります。女性は、この中では「不注意優位型」が多いといわれ、特に成人期以降に問題になることが多いようです。
幼少期や学童期のADHDの男子は、他の子にちょっかいを出したり、授業中に席を立ったりするなど、分かりやすいADHDの特性(多動性・衝動性優位型や混合型)が出ていることが多いため、周囲に気づかれやすいです。
一方、女性のADHDに多いとされる不注意優位型は、あまりにも忘れ物やなくし物が目立つケースでなければ、学童期に多少ケアレスミスや忘れ物が多くても、周囲がフォローしていると気づかれにくいのです。
ADHDの特性は、年齢によって変わりますが、不注意の特性は成人期まで持続するといわれています。特に女性の場合は、多動性や衝動性が強く現れにくいため、不注意の特性が目立ちます。
不注意優位型
ADHD(不注意優位型)が疑われるGさん
Gさん(女性30代)は、小学生の子どもと夫との3人暮らしで、現在は事務職の契約社員として働いています。Gさんの幼少期からの悩みは、片付けが苦手でとにかく捜し物をしている時間が長いこと、そして先延ばしにするクセがあることです。
もともと地理が得意で旅行好きなGさんは、大学卒業後は大手の旅行会社に就職しました。1年目に見習いとしてバスツアーの添乗員などを経験しましたが、失敗の連続でツアー客だけでなく、バス会社や宿泊先からも苦情がくるほどだったそうです。
添乗員は、予定が組まれたツアーをお客様の状況などを見ながらスケジュール通りに実行していく必要があります。Gさんは旅先の食堂や土産屋などに入るたびに、添乗員用の行程表をどこに置いたか忘れて、何度もバスに確認しに戻っていました。うっかり集合場所を間違えてアナウンスしてしまい、お客様を混乱させることも度々ありました。
結果的に旅行会社は2年も経たないうちに退職することになり、その後は結婚して派遣社員で事務職などを数社で経験したそうです。
しかし、派遣の事務職の仕事でもPCのフォルダ整理や名刺整理が得意ではなく、また不得意なことや面倒なことは先延ばしにするところがありました。徐々に仕事に影響が出て、上司から注意を受けることが多くなり、派遣契約の延長をしてもらえなかったこともあったそうです。
Gさんは現在も事務職の契約社員ですが、小学校のPTA役員をするようになってから、家庭と仕事の両立が大変になってきたということでした。現在の派遣先は比較的ゆっくり仕事をさせてもらえて、上司もいろいろとフォローしてくれる職場のようで、今までよりも落ち着いて仕事ができているようです。
しかし、PTAでは細々とした作業が多く、期日までに各所に連絡し確認しなければならないことを複数抱えると処理しきれません。それがストレスとなって職場でミスを重ねたり、会議でもPTAのことを考えてぼんやりしたりするようになりました。
このような状態が続き、Gさんをフォローしていた上司からも注意されるようになり、ショックを受けているということでした。
大人のADHDの不注意優位型の特性
以前からGさんは、自分がどこか他の人と違い、やたらとミスが多いことを気にしていたようです。そして、ネットでいろいろと調べていくうちに「ADHD」にたどりつき、特に不注意優位型の特性は自分のことがそのまま書いてあると思ったそうです。
大人のADHDの不注意優位型の特性には、特に次のようなものがあります。
・忘れっぽい(ちょっとした用事を記憶しておくのが苦手)。
・注意の持続が難しく、気が散りやすい(自分が気になっていることに関心が向く)。
・ときどき、うわの空でぼんやりしてしまう。
・1つひとつの作業がきちんと終わらない。
・忘れ物やなくし物が多いので、捜している時間が長い。
不注意優位型の特性は、成人になっても持続することが多く、失敗ばかりの自分に嫌悪感を抱いて抑うつ状態になることもあります。Gさんは、抑うつ状態になっているような印象はありませんでしたが、きちんと診断を受けてはっきりさせたいと筆者のもとに相談に訪れたこともあり、発達障害の専門医を紹介しました。
医療機関を受診後、不注意優位型のグレーゾーンだったということですが、不注意の特性を和らげる薬(コンサータ)を処方され、それがよく効いており、受診して良かったと話していました。Gさんのように発達障害のグレーゾーンであっても、状況次第では薬が処方されます。
多動性・衝動性優位型
女性のADHDで多動性・衝動性優位型や混合型の場合は、それらの特性が「おしゃべり」に出やすいともいわれていて、特性というよりは性格的なものと思われることが多いようです。
筆者のところに「同性との人間関係が上手くいかない」と相談にきたケースを紹介します。
(写真提供:Photo AC)
同性との関わりが苦手なHさん
Hさん(女性20代)は、入社して半年になりますが、女性ばかりの職場環境に馴染めずに悩んでいるようでした。同じ職場の女性からいじめを受けているわけではなさそうでしたが、彼女以外の同僚はプライベートでも一緒に出かけたりしているようです。
今ではHさんが誘われることはありませんが、入社後1か月ほどは職場の人たちと一緒に出かけたりしていました。いつの間にか誘われなくなってしまったということですが、特に口論をしたとか明確なきっかけは思い当たらないということでした。
筆者のHさんに対する第一印象は、物怖じせず、よくしゃべる明るい人だというものでした。しかし、Hさんと会話を始めてから10分ほど経つと、Hさんはあまり人の話を聞かず一方的に話す傾向があることが分かってきました。たとえば、こちらが必要な質問をしても、いま自分が伝えたいことの話が止まりません。
また、思ったことをすぐに口に出してしまうところもありました。
真剣に話している途中で、筆者の持ち物に目がいって「それって**と△△のコラボですよね? 私も持っていますけど、使いにくくてハズレって思いませんでした?」などとまったく違う話題を振ってきたのですが、場違いな話であり、相手によっては失礼になるようなこともあります。
職場でもこのような調子でコミュニケーションをとっているのであれば、女性グループの中で上手くやっていくのは難しいと感じました。
女性の多動性・衝動性優位型の特性
Hさんの話を一通り聞いたあと、自分でもコミュニケーションに難があることを薄々自覚していることが分かりました。「いつの間にか」誘われなくなった原因も自身のコミュニケーションの問題かもしれないと話していました。
その後、職場でのコミュニケーションを自分なりに努力して改善しようとしましたが、徐々に食欲や睡眠に問題が出てきたようです。寝不足もあって遅刻や出社できないことも増え、受診した心療内科では「適応障害」と診断され、ADHDについてはグレーゾーンでした。
Hさんのような人は、皆さんの身近にも思い当たる人がいるかもしれません。女性の多動性・衝動性優位型や混合型の特性が「おしゃべり」であることは先述した通りですが、この特性により次のような言動が目立ち、人間関係が難しくなっていきます。
・他の人が話している最中であっても自分の話を始める。
・余計な一言で相手を不快にさせる。
・その場やグループなどを仕切りたがる。
・突然、まったく違う話を始める。
・場の雰囲気を凍らせるような発言がある。
このような言動により、特に同性からは避けられる傾向があります。男性からは、自分の心に正直な言動をしている姿が天真爛漫に映るため、好意的に捉えられることもあり、そのことで同性からさらに嫌われる場合もあるようです。
なお、女性のADHDグレーゾーンについては、それぞれの特性が弱いため、特性というよりは個性や性格的なものと考えられ、幼少期や学童期で発見されることはほとんどないといってよいでしょう。
※本稿は、『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。