埼玉・茨城で受験者急増! 2025年度入試で起きた地殻変動の全て【中学受験最前線】
2025年3月19日(水)21時5分 All About
2025年度の中学入試が終わりました。塾、専門家の分析結果もほぼ出そろったところで、今年の入試を振り返り、来年度の入試の注意点と最高の合格を勝ち取るポイントをまとめてみます。
公表された2025年度の首都圏の私立・国立中学受験者数は、前年度より100名減の5万2300人。受験率は史上2番目に多い18.1%、平均出願校数は7.44校という結果になりました(データは全て首都圏模試センター調べ)。
過去40年間を振り返ってみると、1回目のピークとなった1991年(バブル景気のピーク時)の「5万1000人」、2回目のピークとなった2007年(リーマンショックの前年)の「5万500人」を上回り、過去最多となった2023年の「5万2600人」と翌2024年の「5万2400人」に続く、過去3番目の受験者数となりました。

埼玉、茨城の受験者数が増加
地域的には、今年は埼玉県・茨城県の受験者数の増加が目立ちました。これは、開智学園グループが、開智所沢中高の開校に伴い、1度の試験で県内外の複数の系列校を出願できるようにしたからです。受験料2万円で2月4日までに試験を最多で6回受けらるようにしたことの影響が大きいと言われています。ですから、開智所沢は新設初年度の前年よりもさらに人気を増していることは確かですが、実際の受験者はこの公表数よりかなり少ないと考えていいでしょう。
筆者は、それに加えて交通網の発達などにより、東京都に隣接する地域で子育て世代の人口が増加していること、私立中学への進学を考える家庭がそれらの地域で増えていることも一因ではないかと考えています。
実際、今年度受験者数が増加した学校のリストを見てみると、桜丘(東京都北区)、淑徳巣鴨(東京都豊島区)、品川翔英(東京都品川区)、安田学園(東京都墨田区)など、隣接する県からも通いやすい地域の共学校が名を連ねています。
ただ、長年取材してきて、これらの学校は地の利だけでなく、地道に学校改革を続けており、その教育内容が一定の評価を得ているのではないかと思います。共通点は、面倒見のいい中堅の男女共学校であることです。学習面でもサポートが手厚く、大学進学にも期待できるところが、保護者のハートをつかんでいるのかもしれません。
また、国際系と言われる学校も人気です。三田国際学園(東京都世田谷区)と文化学園大学杉並(東京都杉並区)はどちらも英語教育や留学制度が充実している学校です。
文化学園大学杉並は高校でカナダの高校の卒業資格が同時に取れるダブルディプロマコースを初めて開設した学校で、その成果が注目されて近年人気が高まってきています。
三田国際学園も、入学当初の英語力は問わず、All Englishの授業やターム留学などのプログラムで、海外大学進学も狙える学力を育成する学校として人気が定着しています。また、STEAM教育にも力を入れており、2025年春に「三田国際科学学園」へ校名変更することでさらに注目が集まっています。
隔年現象・入学定員の増減・入試日程の変化に注意
また、中学入試でよく言われるのが隔年現象です。これは、前年度の倍率が高くなると翌年は敬遠され、逆にその次の年は受験者数が増える現象を言うのですが、今年度の芝国際(東京都港区)や日本学園(東京都世田谷区)はこれに当てはまります。安田教育研究所の安田理氏によると、大学付属校もこの傾向が強く、今年は慶應普通部(神奈川県横浜市)、立教女学院(東京都杉並区)、青山学院(東京都渋谷区)、早稲田実業(東京都国分寺市)が増加しました。果たして、来年はどうなるでしょう。
反対に、神奈川県では女子のミッションスクールが軒並み受験者数を減らしましたが、これも昨年大幅に受験者数が増えたことの反動なのでしょうか。
受験生の心理としては、人気動向は気になるところですが、裏を読み過ぎて外れることもあります。今は受験回数も増えているので、やはり自分が受けたい学校は受けるべきではないかと思います。
逆に注意したいのは、定員数の変化です。高校入試の定員を減らして中学入試の定員を増加する学校、反対に少子化をにらんで定員を減らす学校など、さまざまな動きが出ていますから、志望校の動向はチェックしておく必要があります。
2026年度はサンデーショックの影響も
サンデーショックも留意事項の1つです。来年度は2月1日が日曜日になるので、キリスト教プロテスタントの学校の中には、受験日を2月2日に変更する学校があります。これをサンデーショックと言います。今年度は、青山学院中等部が例年の2月2日から3日へ入試日を変更した影響で、2日に入試を行う大学付属校は志願者が増えるなどの影響がありました。
来年度は女子学院(東京都千代田区)が2月2日に変更するため、サンデーショックの年に限って通常は併願できない桜蔭学園(東京都文京区)や雙葉学園(東京都千代田区)を受験することが可能になります。また、それらの学校の併願校も影響を受けて、受験者数や難易度に影響が出る可能性があります。
まだ来年度の受験日は全て発表になっていませんが、志望校が該当しそうならその動向はチェックする必要があります。
偏差値を上げることだけを目標にすると受験沼にハマる
ただ、サンデーショックだからと言って、安易に受験校選びをしない方がいいと思います。なぜなら、例えば女子学院と桜蔭学園は校風も教育方針もまったく違う学校だからです。どちらにも魅力を感じているのならこの機会にチャレンジしてもいいでしょうが、単に偏差値の高い学校に行きたい(行かせたい)から受験するのはどうでしょう。ここで考えてほしいのは、そもそもなんのために中学受験をするのかという目的です。
筆者は常々偏差値だけでない学校選びを主張していますが、一部には、「分かっていない。社会はそんな甘いものではない」とおっしゃる教育関係者の方もいらっしゃいます。なんだかんだ言って偏差値の高い学校に行けば偏差値の高い大学に進学できる可能性が高い。そうすれば社会に出てから有利なのは間違いないという考えでしょう。
でも、果たしてそうでしょうか。
筆者は偏差値の高い学校を目指すことを否定しているわけではありません。ただ、少しでも偏差値の高い学校を目指して頑張ることが中学受験の価値だというのは絶対に違うと思います。その考えに囚われて受験沼にハマり、苦しめられる親子がたくさんいることを知っているからです。偏差値を上げることにこだわり過ぎるのはやめてほしい、心からそう思います。
偏差値の呪縛から抜け出そう
実際こんな事例がありました。ご自身が御三家出身のKさんは、実力相応校で甘んじるのではなく、少しでも偏差値が高い学校を目指して頑張ることに、受験勉強の意味があると考えていたそうです。その結果、お子さんに無理を強いることになり、成績が伸び悩むお子さんとの関係は悪化していきました。そんな6年生の4月、講演会で筆者の話を聞いてくださり、大切なのは偏差値の高い学校を目指すことではないと気付かれたようです。その後、学校選びをし直し、お子さんが心から行きたいと思える学校を見つけられ、本当の志望校合格という目標に向かって親子で一緒に頑張り、見事お子さんの第一志望校に合格されました。
昨夏に出版した拙書『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社)も読んでくださり、受験軸のワークシートを活用してお子さんと話し、何を目指して何を頑張るのかを確認したそうです。
受験軸とは、なんのために受験をするのかという目的と、その目的をどうやって達成するのかというスタンスのことです。そこを話し合うプロセスを通してKさん自身が抱えていた偏差値の呪縛から解放されていったそうです。
初めてお会いした時は、まさに受験沼にハマり、暗い顔をされて涙ぐまれていたのですが、それから約1年。見違えるような笑顔でうれし涙を流して報告してくださって、筆者ももらい泣きしてしまいました。
他人ではなく自分が立てた目標が、成績を上げる原動力になる
本書で筆者が1番伝えたかったことは、「目標に向かって頑張る」そのこと自体に価値があるということです。実際、目標を持つことが、勉強に対するモチベーションを高めるという、エビデンスがあります。最近出版された『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(中室牧子著、ダイヤモンド社)にも、目標を立てて取り組むことで、成績が改善したことを示すデータが紹介されていました。
書かれていた中で特にお伝えしたいのは、成果を出すには、他人ではなく自分が描く理想の将来を明確にすること。そして、その将来を実現するために達成しなければならない目標をリストアップし、それに優先順位を付けて取り組むことが効果的だということです。
中学受験においては、その目標は親子でよく話し合って決めることが大切。そして親の役割は、サポーターとして心身の健康が維持できるように見守ることです。お子さんがやる気がない、成績が伸び悩んでいるなら、なおさら受験軸を確認し、ここでもう1度目標設定をし直してみませんか?
中学受験に対する価値観の変化も!? 学校研究が必須
ここ数年の傾向として、最難関校は受験者数を減らしていて、中堅校と言われる学校の受験者数が増えています。これは、全体の受験者数の増加に伴い、より現実的な受験校選びをするご家庭が増えているからでしょうか。保護者の方々と話すと、価値観の変化も感じられます。昨年も書きましたが、偏差値重視ではなく、学校の教育の中身を見極めて、わが子に合った学校を選びたいという層が増えている印象です。特に中堅校を中心に、21世紀型教育へのシフトや高大連携など魅力的な教育プログラムに積極的にチャレンジしているところを評価する声も聞こえます。
入試自体も多様化し、2科目あるいは得意科目1科目だけでも挑戦できる入試、英語入試、公立中高一貫校と併願できる適性検査型入試、作文と面接、プレゼンやワークショップ型など教科学習以外の能力を測る入試もあります。
筆者の周りでも、2科目入試と英語入試を併用したり、習い事と両立しながら、短期間の準備で入試に臨むケースがありました。ただ、これらの新タイプ入試は決して簡単なわけではないので、悔いのないように準備をすることは大切です。
そのために必要なのは学校研究です。首都圏には300校近い学校があり、それぞれが目指す教育を行っています。その中から、お子さんに合う学校を見つけるのは簡単ではないかもしれません。それだけに、どんな受験にしていくのかを考えながら自分軸を持って進まないと、情報の海の中で溺れてしまいます。
偏差値は合格の可能性を測る数値であり、学校の価値を表す数値ではありません。また、世の中の情勢や学校の広報などさまざまな要因の影響を受けて上下します。偏差値だけにとらわれない学校選びをする目を養い、わが家にとって最高の受験を目指しませんか。
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。
(文:中曽根 陽子)