89歳医師、週3日診療を続けるための健康法「68歳でうつになった時、ウォーキングに助けられた。1日4400歩を積み重ねて」
2025年3月19日(水)12時30分 婦人公論.jp
「年齢とともに体力も食べる量も減ってきて、現役の医師でもある夫も少食になってきました」(撮影:後藤勝/リマインダーズ)
健康のプロとも言える医師たちは、自分自身の体にどのような対策や手当てをしているのでしょうか。元気に活躍を続ける女性医師3人が、日ごろ行っている健康習慣を紹介します(構成:山田真理)
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食事は手抜きも大切
医師になって今年で64年目。今も、32年前に銀座で開業した「女性成人病クリニック」で週3日診療を行っています。
食事で健康のためにしていることは特にありません。しいて言うなら、タンパク質を1日40ɡは摂ることと、塩分を摂りすぎないように気をつけるくらい。野菜サラダは嫌いです。
とはいえ、年齢とともに体力も食べる量も減ってきて、現役の医師でもある夫も少食になってきました。朝はサンドイッチ用のパン1枚を焼いて、クリームチーズをのせ、あとは牛乳と紅茶を1杯ずつ。
クリニックでの昼は、コンビニのおにぎりとスープに、スタッフが持ち寄ったおかずをつまみます。打ち合わせをしつつ、ドラマやタレントの話題で盛り上がったりしてね。
夜は電子レンジとIHクッキングヒーター一台での調理に限っています。鍋料理や、煮魚を食べることが多いですね。2人とも三枚肉の豚しゃぶが好きで、ほうれん草や春菊と一緒に、減塩ぽん酢に友人手作りの柚子胡椒をたっぷり入れてよく食べるの。食後は、これも友人手作りの塩分5%の小梅干しを楽しみます。
デパ地下のお惣菜を買うことも多いですし、今はスープや味噌汁もインスタントで美味しいものがたくさんありますから。ただ、お店の酢豚は塩辛すぎて。あまり言いたくないけれど、酢豚に水を数秒浴びせてから水を切り、全体を混ぜ合わせて馴染ませれば、十分においしい減塩酢豚ができあがります(笑)。
便利なものを上手に活用して、体力を消耗しない賢い《手抜き》は、長年料理を作ってきたからこそできる知恵だと私は思うの。
夜は、海外のミステリー小説を読みふけっていて夜更かし常習犯です。面白すぎて、眠くなると腹が立つくらいなの。最近も2日間続けてほぼ徹夜で本を読み、仕事にも行ったのだけど、まだこんなにも読書欲が残っている自分に感動したし、嬉しかった。
子どもの頃から、運動は大嫌い(笑)。けれど医師として、さすがにこれはよくないと思って40代でヨガ教室に入りました。人と競わず、自分のペースでできる点が気に入って20年ほど続けましたが、クリニックの開業で多忙になり、残念ながらやめることに。
そして68歳頃、思いがけず、うつの罠にはまりました。薬を使わずに自力で脳内のセロトニンやドーパミンを増やすには、私の大嫌いな運動が一番です。
そこで思い出したのが、樋口一葉の日記。一葉は小説だけでなく、日々の暮らしぶりを10年分くらい書き残しています。明治時代のことですから、庶民の移動手段は歩くこと。一葉も日々ウォーキングに明け暮れていました。本郷から吉原まで1万数千歩。
私もそれに倣って、よく吉原通いをしたものです(笑)。そうしたら、私の思惑どおりにうつを抜けられたの。
その時の筋肉貯金のおかげで、70歳から85歳までは比較的しゃっきり歩くことができました。気持ちの切り替えと筋肉をつけられるウォーキングは、やっぱり優れたスポーツだと思います。
けれど、コロナ禍でステイホームが推奨された2020年の夏。猛暑もあり、夏休みの10日間を自宅に引きこもって過ごしたところ、いざ出勤しようと思ったら、なんと足が思うように動かない。
よろよろしながら駅まで向かったものの、これまでは何ともなかった電車とホームの間の隙間をまたげない気がして、なかなか乗ることができないのです。
帰路でも、地下鉄から降りる時に足がうまく前に出せず、後ろから来る人に押されて、ホームへばったりと倒れてしまったこともありました。
アスリートがよく「1日トレーニングを休むと数年分の筋力が落ちる」と言いますが、高齢者も同じなのだとしみじみ実感。下半身の筋肉を取り戻そうとスクワットをしたりプロテインを飲んだりしましたが、筋肉が落ちていくスピードにまったく追いつけなくて。
23年の秋に、旅友たちと「パリのシャンゼリゼ通りを歩こう」と飛行機のチケットも手配していたのですが、結局、足腰が万全ではなく断念することになったのです。
それが何とも悔しくて、1日5000歩歩くことを目指しました。でも今は、1日4400歩にしています。基本は電車通勤ですが、最近は疲れたら無理をしないで、タクシーに乗るようにしているの。
ホルモンの力も借りて
もうひとつ私が行っているのは、年を重ねて表れた身体の不調を改善するために「ホルモン」の力を借りたことでしょうか。私は、52歳で閉経した頃から不眠や冷え、動けないほどの疲労感など重い更年期の症状に苦しむことになりました。
この時、まだ婦人科の領域と思われていた女性ホルモン(エストロゲン)に関する文献に、内科医の私が出合えたことは幸運でした。恐る恐る服用すると、憑き物が落ちたみたいに蘇ることができたのです。
その経験に背中を押されて、57歳の時に内科医では日本初の女性ホルモン補充療法専門外来「女性成人病クリニック」を開くことができました。
ところが、ルンルンだった60代を超え、70代後半から女性ホルモンの効果をあまり感じられなくなったのです。体力の限界なのだろうかと考えた時、ふと思いついたのが「男性ホルモン」の力を借りることでした。
男性ホルモンは女性の体内でも分泌され、筋肉や骨の形成、また気力を上向かせることにも深く関わっています。以前から関心は持っていたのですが、継続して使いやすい経口薬を海外から入手し、まずは自分で試してみました。
すると気力が湧き、クリニックが入るビルの建て替えを機に引退を考えていたにもかかわらず、新しく男性ホルモン補充療法も付け加えて、小さなクリニックを作ってしまったのです。この時、私は87歳でした。
男性ホルモンの効果は人によってまちまちですが、中高老年女性の強い味方になってくれる予感が十分にあります。老いを止めることはできませんし、私も日々、新たな老いや衰えを自覚して哀しい思いをすることも。それでも私の好奇心を湧き上がらせてくれるのは、男性ホルモンのおかげだと思っています。
90歳の記念に、「今年こそはみんなでシャンゼリゼを歩こうね」と、旅友と話しているところですが、……はて?
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