大相撲春場所10日目、新横綱・豊昇龍休場。1敗は初優勝が期待される35歳の前頭4枚目・高安、2敗は大関・大の里、平幕の尊富士と美ノ海
2025年3月19日(水)16時15分 婦人公論.jp
2025年3月9日、大相撲春場所がエディオンアリーナ大阪で開幕。『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」が今場所もテレビ観戦記を綴ります。
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前回「大相撲春場所の初日は大荒れ。新横綱・豊昇龍、カド番の琴櫻、新関脇・王鵬が黒星スタート」はこちら
新横綱・豊昇龍が休場
大相撲春場所10日目は、幕内力士土俵入りの後に、館内放送で新横綱・豊昇龍の休場が伝えられ、満員の観客のざわめきと「えっ」、「ええ〜っ」の声が聞こえた。豊昇龍は場所前に「休場はしない」と断言していたが、私はどこか不安なところがあり、自分を鼓舞するために言っているのかな、と感じてしまった。
豊昇龍は9日目までに4敗し、右肘関節内遊離体、頸椎捻挫で休場。新横綱の休場は昭和61年以来39年ぶり。
豊昇龍は、先場所の千秋楽で右肘を痛め、今場所、さらに痛めたそうだ。豊昇龍の師匠である立浪親方(元小結・旭豊)の「理想と現実の違いを肌で感じているのではないか」という話しが伝えられ、横綱道は厳しいものだと思った。
10日目を終え、1敗を守ったのは、何回も優勝を目の前にしながら逃してきた35歳の前頭4枚目・高安ただ一人。高安は、9日目にカド番の大関・琴櫻を下手出し投げで破り、10日目には1敗の大関・大の里を寄り切りで降した。
2敗は大の里、前頭6枚目・尊富士、前頭14枚目・美ノ海の3人。昨年、出世が早くて髪が伸びるのが間に合わず大銀杏が結えないまま、尊富士は春場所に、大の里は夏場所と秋場所で優勝。高安とは対照的だ。
勝利のインタビューで高安は、9日目に「年を重ねるごとにいろいろな事を感じて、相撲の醍醐味を味わっています」と話し、10日目も醍醐味を味わい、「やはり、しびれます」と語り、相撲を取る面白さの極致に達しているよう。40歳で勝ち越しまであと1勝の前頭7枚目・玉鷲と「年を重ねても相撲を取る醍醐味」をテーマに対談をしてもらいたい。
「大相撲が変わった」と思った
10日目に、高速美声の実況の佐藤洋之アナウンサーが「素晴らしい相撲が展開しました!」と叫んだのが、関脇同士の大栄翔と王鵬の突き・押しの攻防。正面解説の琴風さん(元大関・琴風)と向正面解説の荒磯親方(元関脇・琴勇輝)も絶賛していた。
大関への足掛かりの場所である大栄翔は、王鵬に引き落としで勝ち7勝。小結を飛び越えて関脇になった王鵬は4勝で、とにかく勝ち越してもらいたい。
そして、なんとしても勝ち越さなくてはならないのが、5勝の琴櫻だ。祖父の横綱・琴櫻の四股名を大関以上で守って欲しい。
大相撲が変わったと思ったのは、9日目に豊昇龍を、10日目に琴櫻を破った前頭4枚目・一山本の勝利のインタビューだ。天真爛漫そのものの笑顔。私の子どもの頃は、横綱、大関に勝ってこの笑顔だと、まず解説者から文句が出て、あとで親方たちに叱られることは確実。時代が変わったということだ。役所に勤務してから大相撲の世界に入ったのも、若隆景ファンでグッズを集めまくっているのも、名前の画数が悪いからと「一」をつけたのも、5場所連続で千秋楽に7勝7敗なのも、全てがユニークな一山本だ。
10日目は、『思い出の土俵 昭和50年春場所 〜貴ノ花初優勝〜』として昭和50年の春場所に私が生涯ファンと決めている大関・貴ノ花様(横綱の3代目若乃花と貴乃花の父親)が優勝決定戦で横綱・北の湖を破った相撲が放送され、私はテレビの前で仁王立ちになって拝見し、感涙し、10日目はこれだけで満足してしまった。
師匠の教え
8日目に先場所引退して親方となった元横綱・照ノ富士が、初めてNHKテレビの解説をしたが、分からないことが解明されて、学びが多かった。
最も学んだのが、前頭7枚目・正代が立ち腰で相撲を取っている理由。「足首がかたいからどうにもならない。鍛え方で変わらないことはないが…」と、照ノ富士親方は説明した。現役の時に正代とよく稽古をしたのは、当たりを確かめやすかったからだそう。
前頭8枚目・熱海富士についても興味深かった。師匠の伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)が解説をした時、熱海富士が登場すると、いつも急に愚痴のような口調になり、悪いところを指摘していた。伊勢ヶ濱部屋で指導をする照ノ富士親方も、熱海富士が出てくると同じような口調になり、「熱海富士に相撲を教えていて、自分で悩むくらい、俺が悪い教えをしているのかと思う。どうやって教えてよいかわからなくなる」と嘆いていた。しかし、熱海富士が大いに期待されていることは確かだ。
7日目の幕内の取組前に『師の教え 西岩親方(元関脇若の里)横綱隆の里の教え』というのがあり、西岩部屋の師匠である西岩親方が登場し、師匠であった鳴戸親方(元横綱・隆の里)の教えを紹介した。「自分の頭で考えろ」だ。相撲については一通り教えるが、その後は自分で考えろという意味。西岩親方は「さらに大きくすると、自分の人生でどういう風に考えて生きていったら良いかにつながってくる」と話していた。なんと、すり足の稽古で重みをつけるために抱く四角い石に、鳴門親方自身が「自分の頭で考えろ」と書いたそうだ。私は極力自分の頭で考えないようにしてしまうので大反省。いつも持つバッグに「自分の頭で考えろ」と書いて歩こうかと思った。
10日目の大相撲をNHKテレビで観戦してから、日本テレビで東京ドームでの『MLB開幕戦 シカゴ・カブス×ロサンゼルス・ドジャース』を観戦した。私が現役の記者をしていた時、東京ドームで大手企業が大規模な運動会をして、珍しいのでマスコミが集まり、その記者席が監督や選手たちが待機するダッグアウトだったのを思い出した。こんな風に試合が見えるのだと大感激したが、隣に座っていた記者が、まだ運動会が始まらないのに、予想で原稿用紙のマス目を埋めているのに驚いた。その頃はまだパソコンを打ちまくる記者がおらず、手書きだった。
大相撲は千秋楽まで5日ある。「高安、初優勝」の記事を、既に書いている記者はいるのだろうか?と考えてしまい、どこまでも相撲頭脳の自分を感じた。
※「しろぼしマーサ」誕生のきっかけとなった読者体験手記「初代若乃花に魅せられ相撲ファン歴60年。来世こそ男に生まれ変わって大横綱になりたい」はこちら
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