JR四国の観光列車「志国土佐 時代(トキ)の夜明けのものがたり」機能美&ファンタジーな車内から日没ショーを楽しむ

2025年3月19日(水)6時0分 JBpress

(山﨑 友也:鉄道写真家)


オススメは奈半利駅発の「雄飛の抄」

 JR四国の観光列車は「ものがたり列車」と呼ばれ、現在3種類の列車が走っている。四国の美しい車窓を眺めながら地元の食事を楽しみ、その土地ならではの歴史や風土を物語るという趣旨で、2014年7月に「伊予灘ものがたり」が予讃線にデビューした。人気は瞬く間に広がり、2017年には土讃線を走る「四国まんなか千年ものがたり」が運転され、2020年春には3本目の「志国土佐 時代(トキ)の夜明けのものがたり」がつくられた。

 今年で5周年を迎えるこの列車は土休日を中心に高知県のJR土讃線を走っているが、期間限定ではあるものの第三セクターであるごめん・なはり線でも運行されているのが特徴だ。次回は4月4日〜6月27日までの毎週金曜日に、高知駅〜奈半利駅間で合計13日間運転される。

 車両は2両編成で、デザインは文明開化ロマンティシズムをコンセプトとしており、幕末の歴史を象徴する「クロフネ」と、龍馬たちが水平の向こうに夢見た新しい時代の夜明けを連想させる「ソラフネ」とに分かれている。色使いがまったく異なっている斬新な外観で、車体いっぱいに坂本龍馬や太陽などが描かれており、インパクトも大。それぞれ蒸気船と宇宙船をモチーフやイメージした車内も機能美とファンタジーにあふれている。

 列車はすべての座席がグリーン車の指定席のため、乗車するには乗車券のほか、特急券とグリーン車指定席券が必要だ。また高知駅発の便名は、ごめん・なはり線への新たな船出や航海していくようすをイメージして「煌海(きらめき)の抄」と名づけられているが、ボクのオススメは太平洋に沈む夕日を眺めることができる奈半利駅発の「雄飛の抄」。空の表情が刻一刻と変化する大海原での日没ショーを存分に楽しむには、AまたはB席を確保しておくと良いだろう。


四国の「お接待」文化が成功に導く

 さてこのように魅力いっぱいで旅への期待感が高まる列車だが、さぞ有名なデザイナーさんにデザインやプランニングなどをお願いしているものと思いきや、実はまったくそうではないのである。運行するJR四国は新車両を造るのに予算がたくさんある訳ではないため、デザインからプロデュースまで社員が自らおこなっているのだという。この流れは初代の「伊予灘ものがたり」からで、新しく車両を製造するのではなく従来の車両をリニューアルするなど、知恵を絞り工夫を凝らしたりすることによって経費も抑えられている。

 デザインは地域の特色や魅力を出すことにこだわっているほか、社員は地元の出身者が多いため、その人たちのふるさともヒントや手がかりになるのだとか。まさにチームJR四国で取り組んでいることこそが、乗客に愛されている一番の理由なのだろう。高額な資金を投入し、デザインやプロデュースを外注してもすべて上手くいくという保証はなく、むしろこのように地元の人たちによる地域に根差した発想や活動が成功を導く鍵となっているのかもしれない。

 愛されているといえば、それは乗客だけではない。実際乗車してみると沿線の随所で地元の人々が列車に向かって手や旗などを振ってくれている。

 このような振るまいは地域の方々のおもてなしと呼ばれ、今や「ものがたり列車」の名物に。自然発生的に生まれたというおもてなしだが、そもそも四国には長旅をするお遍路さんたちにお茶や食事などを提供する「お接待」が文化として根付いている。それは地元に観光列車を走らせてくれてありがとうという気持ちを込め、お遍路さんだけではなく観光で来る人々にも「お接待」をしようという感謝の表れのようにもみえる。微笑ましい「お接待」のシーンを眺めていると、鉄道会社、地域の方々、観光客、みんなの心が一つになったようで感動すら覚えてしまう。

 10年以上前から多くの人たちによって紡がれてきた数々の物語。この春からのごめん・なはり線でも、さらに進化した物語のワンシーンに出会えることは間違いないだろう。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:山﨑 友也

JBpress

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