山田詠美「身近にある卑小な喜怒哀楽から始まるのが文学」

3月19日(月)16時0分 NEWSポストセブン

週刊誌を隅々まで読むという山田詠美さん

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 日常の折々の出来事を俎上にのせて毎週綴る女性セブンの人気連載「日々甘露苦露」をまとめた山田詠美さんの最新エッセイ集が話題になっている。タイトルは『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』。人気の住みたい街として知られる吉祥寺は、詠美さんが長く暮らし、原稿用紙に小説やエッセイを綴る場所でもある。「目指すは甘くて苦くて無銭だけど優雅な日々」という山田さんに、書評家の倉本さおりさんがインタビューを行った。


「イメージはクッキングメモです。ちょっとの時間で読めて、ぱぱっと簡単に自分の中に取り込める感じ。それこそシチューの鍋をかき混ぜながら読めるようなものというか。そういう、女性週刊誌が担っている役割を意識しながら書いていました」


『吉祥寺デイズ』は、「日々甘露苦露」から、とりわけ人気の高かった95篇を選り抜いてまとめ直したもの。「うまうま食べもの・うしうしゴシップ」の副題のとおり、美味なる食べものや大好きなお酒の話をほどよく絡めながら、その時々で世の中を騒がせてきた政治や事件、ゴシップのネタを小気味よく捌いていく。ベテラン作家ならではの余裕と大人の愉しみが詰まったエッセイ集に仕上がっている。


「食べものに関する言及を1行でも2行でも入れると、たとえ時事問題について書いていたとしても、ちゃんと生活の延長線上にある感覚につなげられるんですよ。なぜなら、食べものについて書くと、“しょせん私はこういう人間です”っていうことが如実に表れるから。上から目線でものを語ることが自然となくなるんです」


◆今となっては週刊誌を端から端まで読む


 山田さんは、ちょうどバブル期に突入する1985年、クラブ歌手の女と黒人の脱走兵の荒々しくも繊細な関係を描いた『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞しデビューした。その鮮烈な性描写のみならず、当時、作品のモデルとなった黒人男性と同棲していたことも大きな注目を浴び、マスコミは若き女性作家の経歴や私生活をセンセーショナルに書きたてた。


 その2年後、『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞。恋人が暴行事件を起こして新聞沙汰になっていた時期だったこともあり、六本木の高級ディスコで選考結果の「待ち会」を行った際には、なんと100人以上の報道陣が詰めかけたという。今では考えられない光景だ。


「1985年といえば、あの日航機の墜落事故があった年です。そして、松田聖子が結婚して、夏目雅子が亡くなって、三浦和義が捕まって、阪神が久々に優勝して…とにかく怒涛の1年だったから、写真週刊誌がいちばんやる気を出していた時期だったんですよね。そんなところへ迂闊にも私みたいな人間が現れたものだから、やっぱり大騒ぎになっちゃって」


 曰く、「嬉しさも口惜しさも写真週刊誌が運んでくれました」。不本意な記事を書かれて歯がゆい思いをしたこともあるが、誌面にひしめくキッチュな醜聞や事件の数々に、読者として抗いがたい魅力を感じていたのもまた事実。


「そこに書かれた些末で愚かしいニュースの中に、たとえば20年経った時にふと思い出して、自分自身のトピックスになるようなものが意外とたくさんあるということが次第にわかってきて。今となっては端から端まで週刊誌を読みます(笑い)。もう、くだらなければくだらないほどいいっていう感じ。そのくだらなさを、いかに面白いものに組み立て直して自分のものにしていくか、っていうことを頭の中で想像し続ける。そういう作業自体もすごく好きです」


◆自分の“しょうもない世界”を担っている人間の一人


 ちなみに山田さん、週刊文春の「顔面相似形」のコーナーのファンで、実際に投稿したこともあるのだという(!)。他にも、アメリカ大統領選の動向から、「この、ハゲー!」騒動まで。『吉祥寺デイズ』の中には、週刊誌を賑わせたネタに加え、ワイドショーの話題もたくさん登場する。


「先日の芥川賞の選考の場で、とあるニュースの話題が出た時に、“その話、『アッコにおまかせ!』でもやってたよ”ってちょっと得意げに披露していたら、同じ選考委員を務めている島田雅彦に“テレビばっかり見てるなよ”って呆れられちゃった(笑い)」


 当人はいつも茶目っ気たっぷりだが、一般的に「文学者」というと、どことなく浮世離れしているというか、ゴシップやスキャンダル記事のような俗っぽいものにはあまり興味を示さない人種だと思っている読者も多いんじゃないだろうか。


「とんでもない。私の知っている作家はみんな興味津津ですよ。だって、経験なんてもちろんないのに、時には殺人事件について書かなきゃいけないんだから。自分で経験できないぶんは、そういう三面記事を参考にするから非常に詳しくなるんです。


 そもそも人間って、そんなに高尚なものじゃないでしょう。むしろ身近にある、卑小な喜怒哀楽から始まっているのが小説であり、文学だと思う。実際、昔の名作の中にもゴシップの要素は必ず入っていますから。その点で言えば、週刊誌っていうものもなかなか捨てて置けない存在だなと思っています」


 痛快なのはその独特の視点だ。ベッキーから小室哲哉まで、度重なる不倫ゴシップに関しては面白がりこそすれ、けっして道徳的なジャッジなど下さない。不祥事続きの政治家に対してもしかりだ。例えば稲田朋美元防衛大臣のファッションの問題点は、ピンヒールで艦内を歩き回ったことではなく、「わざわざ伊達だとアナウンスしてかける眼鏡がダサい」ことだと軽妙に言ってのける。


 批評の根っこは、あくまで自分自身のセンスにあり、世間が掲げる「正しさ」の神棚には絶対に逃げ込まない。それは、ゴシップを楽しむ自分自身の姿をきちんと自覚しているから。


「以前、女の子ばかりのグループで旅行に出かけた時のことです。お酒を飲みながら、自分の恋がいかにばかげていたかっていう話で大いに盛り上がって。“やっぱり女同士は楽しいね”なんて言い合っていたの。ところが、げらげら笑っていたうちの一人が、自分に話を振られた途端、“私、そういう個人的なことってあんまり人に話さないことにしてるの”と言ったわけです。“人の噂をしてると自分に返ってくるじゃない?”なんてニュアンスでね。


 その時に、“こいつ、駄目”って思いましたよ(笑い)。そこに座っている時点で、もう自分もその一員なんだってことがわかってないんだから。週刊誌やワイドショーに関しても同じです。それを眺めて楽しんでいる時点で、自分もそんな“しょうもない世界”を担っている人間の一人であることを自覚しておかないと」


※女性セブン2018年3月29日・4月5日号

NEWSポストセブン

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