営業は日曜日のお昼だけ。メニューはランチ(500円)のみ。人がつながりにぎわう『カフェ日曜さんぽみち』

2024年3月19日(火)8時0分 ソトコト


北海道の東に位置する、根室管内・別海町(べつかいちょう)。2024年「春の選抜高校野球大会」に町唯一の高校が出場することになり、盛り上がりをみせる町ですが、普段は生乳生産量日本一を誇る酪農業と、鮭・ホタテ・ホッカイシマエビ漁の盛んな漁業が基幹産業の広くて静かな町です。その別海町で「高齢者が自由に出入りできる集いの場」を提供したいと活動しているのが『カフェ日曜さんぽみち』のみなさん。町内に暮らす女性を中心としたグループです。『カフェ日曜さんぽみち』は日曜日のお昼のみ営業で、フードメニューは「ランチ 」(500円)しかありません。それでも、きちんと賑わう憩いの場になっています。それはなぜか? そのワケを紹介します。


寒さに閉ざされてしまう? 別海町の冬の悩みは……


町の東端・野付半島に押し寄せる流氷。オホーツク海の向こうに国後島を望む。流氷が来ると吹く風が冷やされ、寒さが増す。(2024年2月撮影)

2月になると国後島を望む根室海峡に流氷が押し寄せ、美しい冬の絶景をまとう別海町。「町」としては全国第3位の面積を有し、その広さは東京23区よりも広大です。


町の人口は14,100人ほど(2024年2月末現在)。約15年前からこの町に住む私も、その1人です。「人の約8倍、牛のいる町」として紹介されることもある別海町ですが、若い世代の都市部への流出と、それに伴う高齢化の悩みはほかの町と変わりません。


特に冬は最低気温がマイナス20度を越え、寒さの厳しい日が続く別海町。平成のはじめにJRが廃線となり、唯一の公共交通機関であるバスも2023年秋に減便と区間廃止がありました。移動手段に不安がある高齢者が、引きこもりを余儀なくされる問題が表面化しています。



外出機会が少ない高齢者がまちへ繰り出す、楽しい目的をつくる


町の旧消防庁舎のプレハブを無償で借り受けて営業する『カフェ日曜さんぽみち』。改修や食品衛生の営業許可などは、メンバーで費用を出し合って対応した。

高齢者の引きこもりを解消し、みんながまちへ繰り出して集まってもらえる場所をつくろうと、別海町で暮らす主婦5人が動き出しました。「高齢者だけではなく、誰もが自由に出入りできる場所の少なさは、何年も前から感じていました。もともと別海町には、日曜日の昼に営業する飲食店が少ないといった事情もあり、私たち同世代のグループでも他人事ではないと感じていたのです。」と、代表の小椋 ともよさんは話します。そこで考えたのが、


・車の運転が難しい方でも来られるよう、徒歩範囲内のまちの中心部で営業する。
・運営側の負担を最小限にし、営業が継続できるようにする。
・営業は日曜日の昼間のみ。メニューは1種類。20食限定。
・利用者の経済的負担が大きくならないよう、ランチを500円(税込)で提供する。


というコンセプト。そして、2023年1月に『カフェ日曜さんぽみち』がオープンしました。


週に一度、味も栄養も“楽しさ”も調ったごはんを食べてほしい


取材した日のランチメニューはチキンソテー、サラダ、大豆の五目煮、白菜のゆず和え、ミニトマトの酢漬け、えび出汁きのこ汁。

メニューを考え、おもに調理を担当するのは食生活アドバイザーの資格を持つ調理師・棚橋 礼美子(たなはし れみこ)さん。普段は町内の高齢者施設で調理のお仕事をされています。提供するランチは「味やバランスはもちろん、目で見て楽しんでもらえるように」と、ワンプレートに数種類の食材を彩りよく盛っています。


「冷凍食品や既製品は一切用いていません。すべて手作りの料理を提供しています。これまで月4回、1年で50回を越える営業をしてきましたが、同じメニューを提供した日は1度もないのですよ。」と棚橋さんは胸を張ります。


事業に賛同し、魚も乳製品も野菜も豊富に揃う別海町で食材を提供してくれる仲間も現れ、安全安心な料理提供が持続可能な活動になっています。


提供される料理には、季節の食材が並ぶ。これで500円(税込)

『カフェ日曜さんぽみち』は高齢者だけでなく、すべての世代の出会いの場


小椋さん(右手前)と棚橋さん(左手前)。そして共にカフェを支えるスタッフのみなさん。明るく笑顔が絶えない。

代表の小椋さんは、小さな町の小さなカフェだからこそできる『顔の見える関係づくり』を大切にしています。特に、はじめて来た方にはできる限り時間をとって声をかけるようにしています。


「ある日、高齢の男性がひとりでお越しになったんです。話を伺うとその男性は一人暮らしで、普段は町の配食サービスを利用されていました。ですが、そのサービスは日曜日がお休み。買い物や料理が苦手なその男性は、日曜日になると食事を摂らない(摂れない)こともあると話されたのです。」


その日から、男性は日曜日になると必ず来てくれて、夕飯用のお弁当も購入して帰るようになったそうです。そして、『カフェ日曜さんぽみち』がもたらす変化はほかにも。


「高齢者だけではなく、家族で来られる方や子育て世代のお母さんたち、町で暮らす外国人実習生、最近では町外からも週一回の営業に合わせて人が訪れるようになりました。このカフェがいろいろな人たちの『出会いの場』になって、また来たいと思ってもらえる場所になっています。


たとえば、カフェが社会参加・交流の場になるように私たちが利用者と利用者を繋ぐこともあります。遠方から引っ越してきて、コミュニティを持っていない若いお母さんに子育てサークルを紹介したり、食後に利用者同士で何か話をしている人も少なくありません。高齢者の方と小さな子どもさんが話をしている姿を見ると、気持ちが温かくなりますね。」


世代を越えて、多くの人が来店する。(2023年6月撮影)

人が集まる場所になった『カフェ日曜さんぽみち』。まだ課題も


スタッフみんなが利用者と積極的に触れ合う。これが「カフェ日曜さんぽみち」の接客スタイル。

1日20食、日曜日のランチ限定で始めた『カフェ日曜さんぽみち』。来店客数は、この1年で700名を超えました。1日の来店客も増えてきていることがうれしいと言います。


「何度か『食材が足りない!どうしよう』と思ったこともあります。ですが、せっかく来ていただいた方にお帰りいただくことはしたくありませんからね。何とかしましたよ。」と棚橋さんは明るく話しますが、もちろん苦労がないわけではありません。


「隠れメニュー」でもないが、開店直後はメンバーのひとりである玉置さんのつくるパンがあることも。このパンを目当てに来店する客も増えているという。

「正直に言うと、採算はギリギリ。というか毎回赤字かもしれません(笑)。それでも、私たちは『つながれるうれしさ』『つながりの場を提供できるうれしさ』『自分たちの楽しみ』を感じながら運営していますので、そこは大きな問題ではありません。ただ無理をして負担が大きくなり、営業を続けられなくなるのも困ります。きちんとこの場所を維持していけるよう無理せず頑張っていこうと思います。」


と小椋さんをはじめスタッフのみなさん。営業を終えた昼下がりに一息つきながら、笑顔で話してくれました。


●カフェ日曜さんぽみち
北海道野付郡別海町別海宮舞町64-1
サンキューの家別館(旧消防庁舎)
(090)4875-1034 代表:小椋さん


営業は10:30から14:30(食材がなくなった時点で終了)
メニューは「ランチ」500円(税込)と「コーヒー」200円(税込)のみ


この赤いのぼりが、営業中の合図となっている。(2023年6月撮影)

ワクワクをおすそ分け!
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