正月から、常に私のまわりに蕎麦があった【家そば放浪記】第211束:いわて銀河プラザで買った、北舘製麺『国内産 挽きたて打ちたてそば』税込432円(1人前144円)

2024年3月22日(金)20時20分 ロケットニュース24

わたくしごとで恐縮だが、つい先日、私に蕎麦の魅力を教えてくれた祖父が亡くなった。

幼い頃から「美味しいお蕎麦屋さん」に連れて行ってくれて、ある意味、お蕎麦の英才教育をしてくれていたような気もする。

そんな祖父はうどん作りも名人級だったのだが、たまにお蕎麦も手打ちしていた。ボソボソとしている田舎っぽい、実に素朴なお蕎麦であり、私はこれはこれで美味しいなと思っていた。

今年の正月。まだ存命だった祖父に、うどんの作り方を聞きに行った時のこと。うどんの作り方を聞いているのに、祖父はなぜか蕎麦づくりの思い出を、何度も何度も私に伝えてきたのである。

じーちゃんが言っていたのは、簡単に言えばこういうことだ。

「十割蕎麦なんて絶対に作れねえ。何度やっても無理だった。どうしたら十割ができるのか結局わからなかった。つなぎ(小麦粉など)がないとゼッテエに無理だ。テヤンデーチキショー!」と。

相当に悔しかったのだと思われる。結局、うどんの塩分濃度など、「じーちゃんのうどん」の作り方は聞けずしまいだった。なぜじーちゃんは私に蕎麦の話をしてきたのかは永遠の謎。

その数日後。ひょんなことから、とあるイベントで、とある干し蕎麦の製造所の方と会う機会があった。こんなこと滅多にないが、珍しく私から会いに行った。なぜなら私が尊敬している製造所だから。要は単なるファン心理である。

1時間ほど立ち話をしたのだが、そこで私は衝撃的な話を耳にすることになる。その製造所は、絶対に十割そばは作らないのだという。その理由は伏せさせてもらうが、研究を重ねたのち、たどり着いたのが二八なのであるという。

私は、その話をしている時、こう思っていた。

この製麺所の人、つい先日、じーちゃんが何度も何度も私に話していたことと同じようなことを言っている……と。

じーちゃんが伝えたかったのは、もしかしてコレ?

──その1週間後、祖父は天へ旅立った。

前置きが長くなったが、今回の干し蕎麦の製麺所「北舘製麺」について調べていると、ものすごく面白いメーカーだなと思った。

これまで当連載で取り上げてきた北舘製麺の干し蕎麦を羅列してみたい。

『石臼挽きそば 太切り』
『長野県青木村産タチアカネそば使用 二八蕎麦』
『国産 細打ち 八割そば』
『国内産そば粉使用 更科そば』
『わんこそば 南部・盛岡・そば処 直利庵』
『国内産そば粉 挽きたてそば 北舘充史』
『八幡平やまいもそば』

太切りに、更科に、わんこに山芋と、驚くほどに統一感がない。さらに岩手県にある工場の近くに、打ちたて蕎麦が食べられるお店まで構えているのだという。

なんかすごいな。キックもできるしボクシングもできるし総合格闘技もできるしプロレスもできる、さらに観客の入るリング(アリーナ)まで持っている……みたいな、オールマイティーすぎるメーカーだなここは……と。

しかし、最も驚いたのは、そんな蕎麦店の紹介文に書かれていた1文だった。

「そばは二八に限る!」という社長のこだわりから、お出ししているおそばは全てつるつるとのど越しの良い二八そば。

また二八!

言われてみれば、これまで取り上げてきた北舘製麺の干し蕎麦の中にも、よく見ると二八(八割)が2つもある。

じーちゃんの言葉が頭の中でリフレインする。

十割をあきらめたじーちゃん。二八に限ると言う社長。そして私の尊敬する製麺所の「二八」へのこだわり。

正解なんて、ない。

最適解なんて、ない。

だが。

「十割だからうまい」みたいな先入観は、十割ではない更科蕎麦屋で修行してきた私にとっては元々ない観点だが、あらためて捨てた方が良いなと思う出来事だった。

それぞれの信念こそが、それぞれの正義。

そんなことを思い出しつつ、今回の『国内産 挽きたて打ちたてそば』のパケ裏を覗いてみると……

社長こだわりの二八じゃないんか〜い!(笑)

小麦粉の方が多い蕎麦、つまり二八ではない蕎麦。とはいえ、そんなことを言い始めたら、太切りに更科にわんこに山芋……なんて作れなくなる。

この臨機応変さこそが、北舘製麺の特徴であるような気がした。

長い長い前置き、これで終わり。

──それでは……

デカい鍋にたっぷりの湯を沸かし……

4分ゆでて……

はい完成。

して、そのお味は──

さっぱりしてて更科っぽい。

良く言えば「さわやか」。悪く言えば「薄い」というか。

ん〜、むずかしい。美味しいのだけれど、そこまでのパンチはないというか。

サラッとイケるみたいな。チュルリンと。ある意味、ひやむぎ的とも言える。

もしもこの蕎麦を「温」で食べたら、より柔らかくなって煮麺(にゅうめん)に近づいてしまう気もする。なのでキリっと「冷」でいくのが良いかなと。

「家そば」か「外そば」かで言えば「外」ではあるが、ちょっと気品高すぎて、かつ、繊細すぎて、良さがよくわからない……と感じる人も多いような気もする。

やはり最終的に感じるのは、更科っぽいといえば更科な蕎麦であるということだった。

──久しぶりに、私が修行した更科のお蕎麦屋さんに行ってみようかなと思った。

昼の部のまかないは蕎麦だった。それが楽しみで昼のシフトを入れたりもした。

もうとっくに代替わりして、私にとっての若旦那は旦那さんに。若旦那の息子さんが若旦那になっていると思うのだけれど、久しぶりに食べたいな。

わたしの生涯、一番食べた更科蕎麦を。

執筆:干し蕎麦評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24

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