日銀の利上げで金利上昇、住宅ローンは変動・固定どちらがいい?
2025年3月24日(月)17時0分 マイナビニュース
2024年3月にマイナス金利が解除されたことで、金利は上昇局面に入り、住宅ローンを取り巻く状況に変化が生じています。これから住宅ローンを組む場合、「変動金利」と「固定金利」のどちらを選んだ方がいいのか悩む人は多いと思います。
そこで、「変動金利」を選んだ場合と「固定金利」を選んだ場合で総返済額にどのくらいの差が出るのか、2つのシナリオを作ってシミュレーションをしてみました。金利タイプを選ぶ際の参考にしてみてください。
住宅ローンの金利の仕組み
まずは、住宅ローンの金利の仕組みについて、重要なポイントを解説します。
住宅ローンの金利の決まり方
住宅ローンの金利は、市場の金利を基準にして、金融機関がそれぞれの方針のもと設定します。
固定金利は、「新発10年物国債」の利回りに連動する長期金利の影響を受け、変動金利は、日銀が金融政策として定める基準となる短期金利(政策金利)の影響を受けます。
「新発10年物国債」は、2025年3月現在、2009年以来約16年ぶりの高水準となる1.5%を超えています。こうした状況から、主要金融機関の固定金利は全体的に緩やかに上昇しています。
変動金利は、日銀の政策金利に左右されるため、政策金利の利上げと同程度、基準金利が上がることが多くなります。昨年のマイナス金利の解除から0.5%程度利上げされていることから、各銀行の基準金利も同程度に上がっていますが、実際に支払いに適用される「適用金利」はそこまで上げずに低い金利で据え置く金融機関が多くなっています。
基準金利は、いわゆる「定価」のようなもので、そこから各銀行の集客戦略によって決定される「引き下げ幅(優遇幅)」を差し引いたものが「適用金利」になります。
激化する住宅ローンの獲得競争に勝つために、金利の引き下げ幅を大きくして、適用金利を低く保っている金融機関が多いのが現状ですが、今後も利上げが継続すれば、適用金利も上がっていくことが予想されます。
2025年3月現在、主要銀行の変動金利は0.3%〜0.5%程度、固定金利(フラット35最頻金利)は1.94%となっています。
変動金利のルール
元利均等返済の変動金利住宅ローンには、年2回の金利の見直しで金利が上昇しても、毎月の返済額は5年間変わらない「5年ルール」があります。また、毎月の返済額が増えたとしても以前の125%までという「125%ルール」があるため、急激な返済額の増加はありません。ただし、これらのルールの適用がない金融機関もあります。
ルールが適用されると、金利の上昇によってすぐに返済が困難になることはありませんが、返済額を抑えたことで、返済額に占める利息の割合が増え、元本部分の返済が繰り越されることで総返済額は増えてしまいます。これらのルールは急激な返済額の増加を抑えるためのもので、金利上昇分が免除されるわけではないことを理解しておきましょう。
金利上昇時の「変動金利」VS「固定金利」シミュレーション
住宅ローンを新規で借りるケースで、「変動金利」と「固定金利」のどちらを選んだ方が総支払額が少なくて済むかは、将来の金利動向によります。ここでは2つのシナリオを想定してシミュレーションしてみたいと思います。
【ケース1】 5年ごとに0.5%ずつ金利が上昇
借入額4000万円、返済期間35年、元利均等返済
固定金利1.94%(フラット35最頻金利2025年3月)
変動金利0.4%(5年ごとに0.5%ずつ金利上昇)
変動金利が5年ごとに0.5%上昇するケースでは、20年後に金利が逆転します。しかし、ローン残高が半分以下に減っていることもあり、トータルでは、固定金利で組んだ場合より総返済額は500万円ほど少なく済んでいます。
5年ごとに0.5%上昇するシナリオは、金利上昇局面では楽観的と考える人もいると思います。そこで、5年ごとに1%ずつ上昇するケースも試算してみました。
【ケース2】5年ごとに1%ずつ金利が上昇
借入額4000万円、返済期間35年、元利均等返済
固定金利1.94%(フラット35最頻金利2025年3月)
変動金利0.4%(5年ごとに1%ずつ金利上昇)
変動金利が5年ごとに1%上昇するケースでは、10年後に固定金利を上回ります。その後も金利は上がっていき、最終的に6.4%の金利となります。変動金利の総返済額は5,883万円となり、固定金利の5,514万円よりも369万円支払いが増える結果となりました。
変動金利が上がってから固定金利への借り換えは難しい
ケース2のシミュレーションをみると、金利が上がり続ける中で、何もアクションを起こさない方が不自然と感じるかもしれません。15年後に固定金利との金利差が1%以上になった時点で固定金利に借り換えをすれば、その後の上昇は避けられると思いがちです。
しかし、金利の上昇には順序があり、まずは10年国債の利回りに連動する長期金利が上昇し始め、そのあとで、政策金利が追従する形で上昇するのが一般的です。長期金利は市場の金利動向を先取りして動く傾向があり、政策金利は経済への影響を考慮して慎重に調整する必要があるため遅れて変動します。そのため、変動金利が上昇したタイミングでは、すでに固定金利は上がっている可能性が高いのです。
借り換えを考えたときには、その時点で契約できる固定金利の金利はさらに上がっているので、借り換えの効果はあまり期待できません。これが変動金利から固定金利への借り換えが難しいと言われるゆえんです。
最初の10年の低金利が大事
元利均等返済の場合、借入残高が多い初期の頃ほど、返済額に占める利息の割合が多くなります。返済期間35年の場合、最初の10年間で全利息のおよそ半分を支払う計算になります。
たとえば、借入金額3,000万円、固定金利1%、返済期間35年の場合、年間の返済額約102万円のうち、1年目の利息は約30万円ですが、10年目になると、利息は約22万円になります。20年目では約14万円、30年目は約5万円、最終年は約6,000円です。
最初の10年間で支払う利息は約286万円、最終的に支払う利息の総額は約557万円なので、最初の10年間で利息の約51%を支払っています。
このように時間が経過するほど利息の割合は低くなるので、最初の10年間を低金利で乗り切ることができれば、支払う利息の総額を抑えることができます。
「変動金利」と「固定金利」どちらを選ぶか
「変動金利と固定金利、どちらを選んだ方が得なのか」は、結局のところ、支払いが終わってみないとわかりません。将来金利が大きく上がると予想すれば固定金利を、それほどは上がらないと予想すれば変動金利を選ぶのが正解になりますが、将来の金利の動きは誰にも予測できないので、その人の状況やタイプ、将来設計をもとに判断するのがいいでしょう。
対策が取れる人は変動金利
変動金利を選択した場合、変動リスクにどれだけ対処できるかが重要です。貯蓄があって、金利上昇に対応できる人、繰り上げ返済や借り換えなどを検討できる人は変動金利を選ぶことで、低金利のメリットを享受することができます。また、借入額が少ない人、返済期間が短い人も変動金利が向いています。
安心を重視する人は固定金利
将来の金利上昇を心配したくない、計画的に返済したい人は固定金利が向いています。家計に余裕がなく返済額アップに対応できない人も、返済額が変わらない固定金利がいいでしょう。長期で住宅ローンを組む場合も、金利上昇リスクが高くなるので固定金利にすると安心です。
住宅ローンは、利息をいかに少なくするかよりも、将来にわたって無理のない返済を続けられるかの方が大事です。家計状況と今後のライフプランを考えて自分にあった返済方法を選びましょう。
石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら