麻原彰晃とは何だったのか? 〜オウム真理教のアジトに潜入して思ったこと〜

3月24日(火)7時0分 tocana

画像は、「YouTube」より。サリン事件から15年時の放送/ANNnewsCH

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 1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生してから、はや20年。麻原彰晃を教祖とする宗教団体オウム真理教が、数カ所の地下鉄駅でサリンを撒いた同時多発テロ事件は、死者13人、負傷者は約6300人の大惨事となった。

 筆者は1980年代に麻原がマスコミに登場した当初から雑誌などを通して、注目していた。そしてサリン事件の後、期せずしてオウムのアジトに潜入するという貴重な体験をしている。今回はその経験をもとに、オウムとは、麻原とは何だったのかをこの機に今一度考えてみることにしたい。

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■メディアに登場した麻原

 1980年代半ば頃、麻原彰晃がオカルト雑誌で紹介されたことで、筆者はその存在を知った。

 当時は「オウム神仙の会」の代表として紹介されており、まだ宗教団体は設立していなかった。当時筆者は、オウムとはまったく無関係に密教ヨガの修行を行ったこともあり、麻原の存在に目を留めていた。だが、「超能力の出ない修行はニセモノ」と称する麻原に師事したいと思うことはなく、ただ傍観していた。興味をもてなかった理由としては、麻原の周囲にはなぜか美人の弟子が多く、どこか「胡散臭い」という印象を拭えなかったことと、麻原が見せる表情に自己愛的なものが窺えたこともあって、自分で言うような"高い境地に達した人間"ではないだろうと思ったことだった。

 85年に麻原の「空中浮揚」写真を公開して話題を読んだ雑誌『トワイライトゾーン』(1987年12月号)という当時のオカルト誌に、宗教団体設立後の麻原自身が占星学的手法を取り入れて予言した「私の予言は世界的規模でひとつずつ現実になっている!」という寄稿文がある。この記事では「富士山噴火」や「日米経済戦争」を匂わせるような予言を行っているが、両方とも現実にはなっていない。


■宗教者の後ろ盾

 こうして、マスコミを活用して少しずつ信者を増やしていった麻原は、教団設立の少し前には、ヒマラヤの「パイロット・ババ」というヨガ行者に会いに行って師事し、そのグルは麻原を「釈迦牟尼のような人になった」と讃えたという。また、その後にダライ・ラマ14世にも会いに行き、麻原は「君が日本に本当の宗教を広めなさい。君はボーディチッタ(仏陀の心)を持っている」と称賛されたと称している。こうした高名な人物との会見が、後に教団の宣伝として利用されることになる。パイロット・ババ師にしてもダライ・ラマ師にしても、残念ながら「インチキ尊師」を見抜く眼力は無かったということになる。


■麻原を称賛した日本の文化人たち

 当時の日本に目を向けると、麻原に心酔していた文化人たちも少なくはなかった。その例を何人か紹介しよう。まず、故吉本隆明氏(評論家)は、当初から麻原を原始仏教修行者として高く評価していて、サリン事件後も、「宗教家としての麻原彰晃は評価する」(産経新聞、1995年9月5日)といった麻原擁護と解釈できるような発言を行っていた。栗本慎一郎氏(経済人類学者)は、麻原との対談で「麻原さんのように煩悩を越えられた方は非常に素晴らしいし、そこからの教えを説いていっていただきたいと思います」(サンサーラ、1992年1月号)と称賛していた。

 荒俣宏氏(博物学者)は、『ゼロサン』1991年6月号で、「私は麻原尊師に限りない好感を抱いた。恐らく解脱した者は幼児のように他愛もないか、あるいは阿修羅のように熱狂的であるかの、どちらかだろう」と絶賛していた。島田裕巳氏(宗教学者)は、「(オウムが)仏教の伝統を正しく受け継いでいる」(週刊朝日、1991年10月11日号)などとオウムに対して終始好意的な評価をし、サリン事件発生後もオウム真理教を擁護する言動を繰り返していた。

 中沢新一氏(宗教学者)は、1980年代の末からオウムへの関心を示す発言をし、またオウムのテロリズムをも肯定すると受け取られる言動によって批判されていた。たとえば、週刊ポスト(1989年12月8日号)の「オウム真理教のどこが悪いのか」と題した記事では、「僕は彼が顔に似合わずとても高度なことを考えている人で高い意識状態を体験している人だと認めています。日本の今いるいろいろな宗教家のなかでも知性においてかなり上等なレベルにいる人だと思いました」と手放しで絶賛していた。

 お笑いの世界では、ビートたけし氏がテレビ番組や雑誌で麻原と対談を行い、麻原と通じ合うものが多かったと好意的な感想を語っていた。

 言ってみれば、これらの高名な文化人たちも、麻原がグルとしては「ニセモノ」だということを見抜けなかったことになる。本人たちは自分も騙されていたのだと言うだろうが、社会に悪影響を与えた自分たちの言動に対して十分な釈明を行っているとは言いがたい。オウム真理教の興隆は、文化人なども取り込んだ巧妙なマスコミ活用戦略にも要因があったといえるだろう。


■オウムのアジトに潜入した

 前述のように、筆者は当初から麻原に教えを乞いたいといった気持ちはなく、もちろんオウム真理教とも無縁であり続けたが、ある時に、オウムのアジトに潜入するという貴重な経験をしている。といっても、自ら望んで行ったのではなく、そうとは知らずに潜入してしまったのだ。

 1990年代の後半のある時、筆者が当時運営していたWebサイトの掲示板で知り合った若い女性が、「百瀬さんに会いたいと言っている人がいます」と言うので、彼女について行くと、中央線のある駅から徒歩で数分のところにあるヨガ道場に着いた。

 そこの女性指導者が、筆者に会いたいと言っていた人だった。筆者がその女性としばらく話していると、「実はここはオウム真理教の道場なのだ」ということを告げられた。もちろん、サリン事件の後のことだ。つまり、知らずのうちに、凶悪事件の首謀団体のアジトに案内され、幹部と話をしていたことになる。

「このまま居ては強制加入させられたり脅迫されたりするのでは?」と内心不安に思いながらも、平静を装って彼女と話を続けた。話しているうちに、彼女の修行や来世に対する考え方が非常に真面目かつ真剣であることに驚いた。そう感じたままを伝えると、「そりゃ、カルマがかかってますから!」と、彼女は非常に強い口調で言った。つまり、彼らが厳しい修行を行うのは、自分たちの悪いカルマを浄化してより良い世界へ昇華するための切実な手段であるのだ。

 だが、彼らの考え方や修行がどんなに高尚なものであっても、殺人が倫理的に許されるわけはない。そこで、勇気をもって、麻原の殺人についてどう思うかを彼女に尋ねたところ、「今のあなたには、どんなに説明してもわからないでしょう」と言われてしまった。

 その後、彼女は筆者に霊的素質があるなどと持ち上げて、オウム真理教への勧誘を始めた。だが、もちろん凶悪犯罪を首謀する宗教団体とは関わり合えない。また、当時筆者にはヨガで師事する人物がいたので、その旨を伝えて、毅然とした態度で断った。すると、彼女は私の師に関心を持った様子だったので、師の著作を紹介しておいた。そして、穏やかな雰囲気で無事に帰ることが許された。

 もちろん、犯罪集団であるオウムの幹部である彼女と、根本的な価値観を共有することはできない。だが、お互いに本音ベースで語り合うことによって、人間同士の対話ができたと感じたものだった。気が向いたらまた遊びに来るようにと言われたが、その後に訪れることはなかった。


■麻原は詐病か?

 事件後に明らかになった麻原の素顔は、信者を失望させなかったのだろうか?

 1995年5月16日、山梨県上九一色村のオウム教団施設に強制捜査が入り、麻原彰晃が逮捕された。現金960万円の札束と寝袋を抱えて、階段天井の隠し部屋に隠れていた。隠し部屋を発見した警視庁の牛島寛昭警部補がインタビューに応じ、「麻 原 は お び え た よ う に が く が く と 震 え て い た 」(時事通信、2015/03/17)と当時の様子を語っている。さらに拘置所では、失禁するためにオムツを履かされるなど無様な姿をさらしてしまった"尊師"。

 しかし、それでも信者たちは信仰を捨てないほどに洗脳されているのだろう。

 2004年2月に死刑判決を言い渡された麻原だが、10年以上たった今でも、死刑執行されていない。その理由としてまことしやかに囁かれているのは、麻原が精神病だから死刑執行できないとか、執行権限をもつ法務大臣が信者からの報復行為を恐れて判を押さないのだといったことだ。だが実際は、高橋克也や平田信などの共犯者の公判が続いているため、執行を待っているというところが妥当かもしれない。

 前述の精神障害説だが、麻原の四女である松本聡香が執筆した『私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか〜地下鉄サリン事件から15年目の告白〜』(徳間書店)では、彼女が拘置所の父と面会した時の様子が書かれている。2007年3月のことだったが、彼女はそれまで麻原に対して一方的に語りかけるだけだったが、麻原は突然に看守に悟られないようにして彼女の名前を呼んだのだという。それで聡香氏は、「父はやっぱり詐病だ」と悟ったというのだ。これに対して、やはり精神障害だという意見もあり、真相は闇に包まれたままだが、松本聡香氏の意見は肉親が感じたこととして、説得力があるかもしれない。

 筆者がオウムのアジトで幹部と話して思ったのは、洗脳というものは本当に恐ろしいものだということだ。この人達はもう一生洗脳状態から解かれる可能性はないのだろうか、考えたものだった。世に言われる「洗脳」の中にもいろいろあるが、麻原によるオウム信者たちへの宗教的洗脳は、その最たるものであり、一筋縄では解けないものだと身を持って感じたものだった。読者の方々も、カルト教団による洗脳にはくれぐれも気をつけていただきたい。
(文=百瀬直也)


※画像は、「YouTube」より。サリン事件から15年時の放送/ANNnewsCH

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