脳を“リバースエンジニアリング”、超高度な人工知能誕生か!? オバマが推進する脳研究「MICrONS」とは?

3月25日(金)17時0分 tocana

画像は「Thinkstock」より引用

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 約30年前、アメリカ政府はヒトゲノム解析プロジェクトに着手し、13年間にわたる努力の末に人の遺伝子マップを完成させた。このプロジェクトの成功は、旧来の遺伝子学を刷新し、今では人類史上最も成功した科学的業績の一つとも考えられている。そして今、再び壮大な挑戦が始まろうとしている。科学誌「Scientific American」のレポートによれば、現在、アメリカ政府主導のもと1億ドルの予算をもつ脳の解析プロジェクトが開始されるとのことである。

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■1立方ミリメートルの脳の働きを完全に解明する挑戦

 アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)のリサーチ部門の一つである情報先端研究プロジェクト活動(IARPA)は、MICrONS(The Machine Intelligence from Cortical Networks program ※日本語にしてみれば、「皮質ネットワークからの機械知性プログラム」と言う意味になるのだろうか)、と称された1億ドルの予算をもったプロジェクトに着手する。このプロジェクトの目的は、1立方ミリメートルの脳をリバースエンジニアリングして脳の認識方法や計算手順、評価方法などを分析し、人工知能のアルゴリズムに役立てようとするものであるという。

 このプロジェクト「MICrONS」は、オバマ大統領が推進している脳研究「BRAIN Initiative」の一環として、コンピュータを脳のように機能させようとする試みの一つでもあり、脳のアーキテクチャを解析し、人工知能が脳のように働けるようにするものとされている。現時点でも、たとえばiPhoneのSiriで音声を認識させたり、カーナビで目的地までの自動運転をしたり、Facebookで人間の顔を認識させるなどと、特定の情報の認識と分析は実行可能となっている。またアルゴリズムの側面からみれば、チェスや碁などもプログラムされたアルゴリズムが人間のものよりも単機能としては優れてきているとみなすケースもある。
 しかし、それは情報を分析、簡略化し、パターン化する1980年代に開発されたアルゴリズムの上に成り立っているものであり、曖昧な情報や、少ない情報下においては精度が極端に下がり、パフォーマンスが低下する傾向にあるという。例えば、人間ならば犬を1〜2匹見ただけで、犬を認識することができるが、まだコンピュータにはそれは難しいのである。

 すでにこのプロジェクトには3つの科学者チームが招集されていて、それぞれ5年にわたる研究のアプローチが提案されている。1つ目のチームは、ハーバード大学の生物学者でコンピュータサイエンティストのデビッド・コックス氏が率いるチーム、2つ目のチームはカーネギーメロン大学のコンピュータサイエンティストのタイ・シン・リー氏が率いるチーム、3つ目のチームはベイラー医科大学の神経科学者のアンドレアス・トリアス氏が率いるチームである。

 それぞれのチームは、異なる方法で1立方ミリメートルのげっ歯類の脳皮質の完全な回路マップを作ることを目標としている。げっ歯類の1立方ミリメートルの脳は、人間の脳全体を比べると100万分の1以下の容量ではあるが、脳のニューロンの活動を検査する技術は現時点で、1度に数個のニューロンの活動を検査するか、数千の活動を磁気共鳴法を利用してイメージングすることしかできていないのである。MICrONSの統括責任者であるフォーゲルシュタイン氏の言葉を借りれば、「アメリカ全土の地図を1インチ刻みに正確に作るようなもの」であるという。


■最終目標は人工知能の飛躍的な向上

 コックス氏のチームはモニタに写されたモノに反応するラットの脳を二光子顕微鏡術と呼ばれる技術を利用して、カルシウムに反応する蛍光たんぱく質がニューロンを移動する状況を、電話を盗聴するかのように観察することから始めるとしている。その後、その観察された脳は、ハーバード大学の生物神経学のリヒトマン研究所に送られ、限りなく薄くスライスされ、その神経のネットワークを分析するという手順で進められる。

 一方、トリアス氏のチームはコックス氏のチームのアプローチと似てはいるが、三光子顕微鏡術と呼ばれる技術を利用し、脳の奥深くの動きを探ろうとするものである。コックス氏の観察が表面的であるとすると、トリアス氏の観察は内部の観察にあたるというものらしい。

 リー氏のアプローチは前2者とは全く異なり、DNAバーコード化という技術を使う。ハーバード大学医学部のジョージ・チャーチ氏の協力を得て、ニューロンにあるDNAに含まれるヌクレオチドの配列をそれぞれバーコードのように特定化し、科学的にその配列を再構築していこうとする、全く新しい技術を利用するアプローチであるという。

 しかし、この3チームによる研究は、MICrONSの前半部分にしかすぎず、この調査によって解明される脳の働きを、アルゴリズムとしてプログラム化し、人工知能が自学自習できるようにしていくのが、プロジェクトの最終目的であるという。例えば、人間の視神経を例にとってみると、光を目の中にある網膜が受けると、それが電気信号となり、視神経を伝わり、脳でその光の情報を再構築するというプロセスがある。脳で映像が再構築されるまでは、網膜が受けた情報は2次元的な情報でしかないものが、脳内で再構築される映像は、3次元イメージとして再生されている。この2次元の情報から3次元のイメージを推測して構築する手順は、理論的には、数学的に変数を近似値化し、そのパターンを確立モデルに参照するというプロセスがあるのだが、脳はこの方法よりも効率良く処理をしているという。この脳がとる方法をアルゴリズム化することができれば、人工知能の能力が飛躍的に伸びることは明らかなのである。

 確かに、仮に脳のプロセスが解明されたとしても、それを人工知能に移植することは不可能ではないだろうかと、このプロジェクトに懐疑的な科学者がいないわけでもないらしいが、もし成功すれば、新しい人工知能がもたらす新しい世界が開かれるという希望もある。SF的に考えれば、それが人類に希望をもたらすか、絶望を運んでくるのかはわからなくなるが、このプロジェクト自体の成功は、コンピュータの世界に何かをもたらすことは間違いないだろう。未来を開く研究とでも呼べるのだろうか、この研究の進捗からは、当分目が離せないのではないだろうか。
(文=高夏五道)


※画像は「Thinkstock」より引用

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