1秒差で箱根駅伝を逃した古豪・東農大に新寮が完成、純木造住宅で「松葉緑の革命」!エース前田和摩の状態は?

2025年3月26日(水)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


筆者も過ごした旧寮の思い出

 箱根駅伝で70回の出場を誇る古豪・東農大。昨年の箱根駅伝予選会は1秒差で落選したが、チームにとって待望の施設が誕生した。世田谷キャンパスのすぐ隣に「青雲寮」が竣工し、2月25日に落成式が行われたのだ。

 青雲寮は運動部の寮として、50年ほど前から存在していた。旧寮は現在60歳の小指徹監督も学生時代に過ごしている。

「1年時は旧・青雲寮に住んでいたんですけど、収容人数の関係で2年時からは近くのアパートで自炊生活。当時、一番困ったのが食事でした。走りながら今日は何を食べようか考えていました」と学生時代は苦い思い出がある。2018年にコーチとして母校に帰ってきたときも、「私の学生当時と同じ建物で、選手はずいぶん不便しているなと感じました」と振り返った。

 東農大陸上部OBの筆者も小指監督と同様、1年時は青雲寮で生活をした。1995年のことだ。当時は柔道部、空手部、ホッケー部なども一緒だった。陸上部は2階の6部屋が割り当てられており、畳が9枚敷かれた1部屋を3人でシェアした。エアコンはなく(なぜかエアコンがある部屋もあった)、テレビはひとり1台。あとは個々が折り畳み式のちゃぶ台を持っており、川の字で寝ていた。

 朝練習は6時30分、本練習は16時20分。1年生は朝練習が30分前、本練習が45分前集合で、昼休みにグラウンド整備(現在はオールウエザートラックだが、当時は土だった)があった。加えて、食事当番があり、陸上部寮生のおかず(肉と魚を交互)をお店に依頼して、副菜、野菜サラダ、納豆(と卵が交互)、味噌汁を自分たちで用意した。

 始めは戸惑うことが多かったが、住めば都でなんだかんだで、楽しかった記憶が強い。しかし、令和では明らかに時代遅れだった。


新寮は農大らしい純木造住宅

 新・青雲寮は住友林業が設計・施工した純木造3階建てで、約7割は国産材を活用。その約3割は学生が林業の研究や実習で利用している奥多摩演習林(のスギ180本)を伐採したという。そのため寮内は木々の香りに満ちている。

 落成式で初めて新寮に入ったという主将・菅原昇真(3年)は、「光が物凄く入ってきて明るいですし、心が温まる感じがします。農大らしい寮ですね。陸上部専用ですし、快適な生活ができそうなので、本当に楽しみです」と笑顔を見せた。

 木造住宅というと最先端とは真逆のイメージかもしれないが、脱炭素化に貢献しているだけでなく、ポジティブな効果が期待できるという。

「木」は視覚、触覚、嗅覚から得られる刺激を通して心理的ストレスの緩和、疲労軽減、免疫力向上の効果があり、心身ともに安らげる快適な空間になっているからだ。柔らかい木々の床が足腰への負担も軽減している。

 青雲寮では床の硬さ、光、温湿度、香り、それから寮生の心理的・生理的な状態を測定。既存のRC造の学生寮と比較して「木」が心身の健康、競技パフォーマンスなどに与える効果を検証していくという。その結果は2026年に発表予定だ。もしかすると、「木」の効果で強くなっているのかもしれない。


この1秒を忘れるな!

 昨年10月の箱根駅伝予選会は通過ラインに1秒届かず、東農大の選手たちは泣き崩れた。

「私自身もそうですけど、1秒差の悔しさを感じながらやっています」と小指監督。新年度は「全日本と箱根の選考会を突破したい」と意気込みを語った。

 箱根予選会を1秒差で逃したことが話題になったが、通過が確実視されていた東海大の選手が熱中症に苦しみ、ゴール直前で途中棄権した結果でもある。

「1秒差と言われていますけど、本当の差は1秒ではないことを理解しています。その差(約2分)を埋めないといけませんし、予選会を突破するだけでは本戦で勝負できません。予選会をトップ通過して、本戦でシード権を目指せるようなチームにしていきたい」と主将・菅原は力強かった。

 今年度の4年生は箱根駅伝にひとりも出場できなかった。夢かなわず、卒業したが、「先輩たちに給水係をお願いして、一緒に箱根を走ってもらいたい」(菅原)という目標もある。

 チームの状態は上々で、2月2日の日本学生ハーフマラソンで原田洋輔(3年)が農大歴代2位の1時間01分49秒をマーク。3月12日の立川シティハーフマラソンでは植月俊太(2年)が1時間04分06秒、磯光清(2年)が1時間04分14秒と自己ベストを更新している。また3月16日の新潟ハーフマラソンでは小島岳斗(4年)が1時間03分45秒の自己ベストで3位に入った。

 気になるのは10000mでU20日本記録を持つエース前田和摩(2年)の状態だ。昨年は5月の日本選手権10000mで3位に食い込んだが、夏に肺気胸を発症した影響で、箱根駅伝の予選会を欠場した。その後はレースに出場していない。

「前田はジョグをやっています。徐々に試合にも出していきたい。日本選手権10000mは間に合うか微妙ですが、ポテンシャルが高いのでわからないですね」と小指監督。前田は4月12日に熊本で行われる日本選手権10000mに出場意欲を見せているようだ。今年9月に開催される東京世界陸上代表を狙える位置にいるだけに、その動向が注目される。

 新チームは「松葉緑の革命」をスローガンに掲げており、箱根駅伝に復帰するだけでなく、上を目指していく。OBとしては新寮の“効果”を期待せずにはいられない。

筆者:酒井 政人

JBpress

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