栗山監督は、いつも遠巻きに選手を眺めている

3月27日(水)6時6分 JBpress

バッティング練習のボールを拾う栗山監督(筆者撮影9

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 いよいよプロ野球が開幕する。

 清宮幸太郎の離脱などもあり、オープン戦最下位と結果を残せなかった北海道日本ハムファイターズだが、それでも高い評価を得ていることには間違いない。

 金子弌大や王柏融らの獲得など例年にない積極的な補強もさることながら、現役最長となる8年目を迎える栗山英樹監督の存在も大きいだろう。

 大谷翔平の二刀流をはじめ、いつだって常識を疑い、実行に移してきた指揮官。いかにして、チームを見ているのか。実際の「現場」での行動から探ってみたい。


石井裕也にかけた言葉

 練習を、遠巻きに眺めるのはいつものことなのだろう。

 就任以来、(多くはないが)何度か足を運んだキャンプやシーズン中の練習で、特にここ数年、栗山英樹監督が選手と近い場所——たとえばバッティングゲージの真裏、などに「とどまる」のをあまり見たことがない。

 この日は、外野だった。

 沖縄県国頭村で行われていたキャンプ最終日。10時50分から始まったバッティング練習を、栗山監督はライト、センター、レフトと、ほとんどフェンス際で眺めていた。ときに、転がってくる打球を拾っては、ボール拾いを手伝ってくれている地元の子たちへと投げ渡す。彼らと言葉を交わすシーンもあった。

 もちろん、チームとコミュニケーションを取らないわけではない。

 LiveBPが始まれば(この日マウンドに上がったのは斎藤佑樹だった)、コーチ陣となにやら神妙に話し込む。あとで聞けば、打順について話し合っていたそうだ。また練習中には、野手では西川遥輝と、投手では宮西尚生と数分、ときに笑顔を交えながら言葉を交わす。

 こんなシーンもあった。

 練習開始から1時間が過ぎ、打撃練習も7〜8割がた消化したころのこと。ショートとレフトの中間あたりにいた栗山監督がおもむろに歩き出す。視線の先には、バッティングピッチャーの役目を終え、ボール拾いをするために外野へと向かう石井裕也がいた。そして、すれ違いざまに声を掛ける。一言、一言がわかりやすいように、大きく口を広げて。

「石井ちゃん、ナイスキャンプ。ありがとう」

 自分自身に向かってきているとは気づかなかったのか、一瞬驚いた素振りを見せた石井裕也は一言、二言、口を開くと帽子を取り破顔した。

 昨シーズン限りで14年のプロ生活から退いた石井裕也は、今シーズンからファイターズの打撃投手を務める。先天性の難聴を抱える石井は左耳の聴力がなく、右耳も補聴器をつけてわずかに聞こえるほど。そんなハンディキャップを乗り越え、中日ドラゴンズ、横浜ベイスターズ(現・DeNA)、北海道日本ハムファイターズと渡り歩き、330試合に登板した。


近くにいなくても、誰より詳しい

 遠巻きに、栗山監督は選手たちを見ている。

 一方で、その頭の中は選手たちの思いに踏み込むほど詳しい。先の石井については自著『稚心を去る』で、引退試合を引き合いに出しこう綴っている。

「試合後のスピーチも本当に素晴らしかった。これまであれだけ苦しんできて、自分のこともなかなか表現できなかった彼が、あそこまで頑張って、ひとり、マイクの前でしゃべり切ったという、あれには本当に泣けた。20年後も30年後も、あの引退試合のことを誰かに話しているような気がする」

 語弊のある言い方になるが、監督自らバッティングピッチャーにグラウンドで「ナイスキャンプ、ありがとう」と伝えたり、ひとりの選手の引退試合で涙をするのを聞いたことがない。

 他にもたとえば、宮西尚生について尋ねたとき。

「うちの中でもプロフェッショナルと言うと、僕のなかでは宮西って名前が挙がります。ふつうのピッチャーの状態だと投げられないときでも、なんとか工夫して投げてくれる。できる限りのことをすべてやり尽くしてくれる。ピッチャーってどうしても自分のことが前面に出てきてしまうことがあるんですけど、ミヤ(宮西)の中ではチーム全体のことが見えていて、たとえば自分が嫌だなって思うようなことでも、僕がこういう感覚でやっているんだろうな、ということを、想像力を働かせてやってくれる。困ったときに、本当にミヤ悪い、って(こっちが思っているとき)、そこの理解を一番してくれます」

「去年もその前年も、(体の状態が)あんまりよくなくて、(でも)練習方法から何から何まで変えられる、あれだけの実績がある(選手の)勝負の仕方っていうのはすごい」

 投手としての能力だけでなくその調整や、マウンドでの感覚をよどみなく言葉にできる。

 選手ひとりひとりのことをよく知り、感情まで共有できる心の近さがあってこそだろう。


栗山監督がいつも探しているもの

 遠巻きに何を見ているのだろうか。そう思ったとき、ある言葉を思い出した。

「兆しを見逃さない」

 栗山監督の先の新刊『稚心を去る』にある言葉だ。一部を引用する。

「兆しは、見える人にしか見えないという。いくら見ようとしても、見えない人には見えない。だとしたらもっと必死に見ようとするしかないのではないだろうか〈中略〉兆しを感じるアンテナをいつも張り巡らせ、敏感な状態を保っておかなければならない」

 本書にはファイターズの哲学であり、栗山監督の信念が綴られている箇所もある。

「すべてはチームの勝利のためでなければならない。それはプロスポーツである以上、当然のことだ。ただ、ファイターズの場合、そこへのアプローチがやや独特だ。監督、コーチだけではなく、チーム全体が選手ひとり一人のために100%向っていくことが、一番チームを勝ちやすくすることだと我々は認識している。「チームの勝利のため」に、「選手ひとり一人のため」を徹底する。そこはいっさいブレることがない」

 選手ひとり一人のためになること、その兆しをつねに探し続けて——遠くから、ずっと見ているのではないか。

 キャンプに話を戻す。この日は、最終日ということもあり、チームは和やかな雰囲気に包まれていた。

 それでも、レギュラー争いが熾烈なサードで、近藤健介、大田泰示、横尾俊建らが声を上げながらノックを受け、ピッチャー陣では、ダッシュする先頭を先発ローテーション入りを期する上原健太が快走し、ブルペンでは宮西が課題を口に出しながら、力強い投球をみせる。

 栗山監督は、そんな姿を遠くからひとりで見て回っていた。

 最後の手締めは、副選手会長の近藤健介。ひととおり、キャンプを手伝い、助けてくれた方々への感謝の言葉を述べた後の言葉は、チームメイトへ向けた「手紙」のようで素晴らしかった。

「この名護に移り、実戦が続き、いい結果が出た選手、そうでなかった選手がいたと思います。開幕まで、一カ月しかありません。個々がレベルアップし、それがチームの勝利に必ずつながってくると思います。このメンバーを見渡せば12球団1、強いチームだと思っています。全員で力を合わせて、最強のファイターズを作りましょう」

 その後の取材で「名前で使わないと宣言したキャンプ、手ごたえは」と聞かれた栗山監督は、この言葉を引用しながら言った。

「(そういう)意識づけはさせてもらったと思っている。ただ、僕以上に、選手が今年優勝したい、っていう気持ち(があることを)をね、やっていてて感じるので。それで充分なんで。選手が一番、勝ちたがってくれるっていうのは、一番チームが方向性出る。近ちゃんの挨拶にあったように、みんながそれを意識してくれてると思うんで、僕らはそういうふうに思ってくれるのであれば、あとは手伝っていくだけだから。しっかり、こっちが判断を間違えないようにやっていきたいと思います」

 選手が誰よりも「勝ちたい」という思いを持っている、その「兆し」を感じたのだろうか。

 ひとおり取材が終わると、囲んだ記者にまで脱帽、一礼をして「キャンプ、お疲れ様でした」と声を掛けた。

 遠くから見えた「兆し」はシーズンにどんな形として現れるのか、楽しみで仕方がない。(敬称略)

筆者:黒田 俊

JBpress

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