新型コロナ:自らできる感染予測シミュレーション

3月27日(金)6時0分 JBpress

東京都の感染拡大について発表する小池百合子都知事(3月25日、写真:つのだよしお/アフロ)

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 IOC(国際オリンピック委員会)からの延期示唆で、本格的に2021年開催となりつつある東京オリンピック。

 五輪は社会、経済的な波及効果が大きいうえに、政局にも直結するので、そうしたウイルスや疾病と無関係な観点での観測、憶測などを多く目にします。

 アスリートはおよそファーストではなく、正論に言及したJOC理事に緘口令まがいのコメントなど、リアルな現状把握とかけ離れた、相当末期的な「ポストトゥルース」の状況にあります。

 そんななか、3月も下旬となり、4月からの新年度、新学期に向けて大学も学生たちも準備を進めています。

 東京大学でも、多くの授業を遠隔で行う方向で準備が進められており、私たち教員はその対策対応に追われています。

 都内の感染者数が激増し、本郷キャンパスでは赤門などの門が閉鎖され、自由な往来を制限しました。

 通学や入学手続きの必要のある新入生、東大病院の通院者などの特定の門からの出入りのみに制限しています。

 学内から感染者の報告も出ており、対策には入念を期しています。

 しかし、逆に考えるなら、遠隔授業ばかりになると、学生にいったい何が起こるのか。

 地方から東京に出てきて下宿している学生のケースを考えてみましょう。

1限  8:30-10:15 遠隔 下宿でパソコン
2限 10:25-12:10 遠隔 下宿でパソコン
3限 13:00-14:45 遠隔 下宿でパソコン
4限 15:55-16:40 遠隔 下宿でパソコン
5限 16:50-18:35 遠隔 下宿でパソコン

 夕方からバイトに出かけよっかな・・・というような生活になりかねません。これではいけない。

 一方で職場や学習の「テレワーク」「テレラーニング」化が進むことには利便もあると思います。

 しかし、上記のような度外れた「テレ」環境では、学生のモナド化、学園の実質的な機能不全ないし、崩壊に近いリスクも考えないわけにはいきません。

 とりわけ私は、都市のモナド化した環境のなか、オウム真理教のようなカルトが学生をマインドコントロール〜オルグして人生を失わせた経緯が念頭にあり、このような学生の孤立化、友達ができない様な環境に、深い憂慮を持っています。

 実際、調べてご覧になると分かると思いますが、オウムに持って行かれた「エリート」の大半は下宿生、自宅生の割合は限られており、ターゲットとして独り暮らしの学生が狙われた経緯があります。

 さらに言うなら、私自身は都内で育ちましたが、自宅を出て教養学部キャンパス内にあった寮に住むなどした経験もあり、学生時代に寝食を共にする友達の大切さを痛感しておりますので、ゼミ合宿を励行しています。

 35年ほど前、私自身が社会学の見田宗介先生の合宿ゼミで決定的な経験をしたことも背景にあります。

 本当は例年通り対面の授業、合宿などを行ってやりたいと思っています。そもそも私は音楽実技の教官、レッスン室で楽器があって話が始まる内容です。

 しかし、ウイルスの蔓延は目に見えません。このジレンマをどうするべきか・・・。

 東京大学作曲指揮研究室では、9年前、福島第一原子力発電所事故のとき「低線量被曝のモラル」と前後して学生に薦めたのと同様の、公開情報を定量的に考察することによって、自ら調べ、自ら考え、自ら判断して安全を守る

「高校生・音楽専攻生にも解る データ駆動型 ウイルス感染尤度逓減のススメ」

 を、東大生はもとより、合奏に参加する藝大生や中学高校生など、音楽専攻生を含む全員に周知共有しています。

 こうしたものの考え方は、最も初歩的でありますが「データ駆動科学」すなわち機械学習、AIなどが演算するのと同じ根をもつ「推定」の発想で、簡単な演習に組んでみたものです。以下、具体的に示してみましょう。


高校数学で「予測」する感染拡大の重篤度

 私はテレビを見ないのですが、昼食をとった店についていた民放バラエティで「実効再生産数」といった用語に関して、芸能人司会者が完全に間違った内容を振りまいているのを目撃しました。

 あんなものなら撒かない方がよいと思いつつ、3.11原発事故の直後を思い出しました。

 あのとき、被曝を避けるべく、私が強調したのは

1 公開されている、正しく計られている線量計データなどを小まめに確認する

2 自分自身の隣接環境の汚染などをできるだけ客観的・正確に評価・認識する

3 むやみに避難しようとして、かえって内部被曝のリスクなどを高めない

 といったポイントでした。ほとんどこれと同じことが「目に見えない放射性物質」にも「目に見えないウイルス」にも言えると思います。すなわち

1 公開されている、正しく計られている感染者数データを小まめに確認する

2 自分自身の隣接環境の汚染、発症可能性を出来るだけ客観的・正確に評価・認識する

3 むやみに避難しようとして、かえってウイルス罹患リスクなどを高めない

 全く同じです。かみ砕いて言うなら

1 正確と思われる患者数統計のチェック全国ならびに自分の住む自治体などの患者数推移のデータをチェックする

2 自身の健康チェック、自分や家族、友達の体温検温など、周辺の健康環境をファクトで押さえること

3 医院・病院や保険センターなど、感染者が高確率で現れそうな場所にわざわざ赴かない。学校や職場などで実際に患者が出た場合は、関係建物その他には近づかない

 このような状況で、得られるデータを自分の手で客観的に分析、評価しつつ、安全の確率を高めるよう自分の行動も判断しようと、学生諸君に話しています。

 話すだけでなく、有言実行が大事ですから、以下では公開情報と、「MS Excel」だけを道具に、つまり世の中にありふれた道具と、高校1、2年生までで習う算数だけで、コロナウイルス禍とどのように向き合うか、を実際にやってみせましょう。

 新年度に入ったら、学生向けにこの手の話をしてやろうと思っています。東京大学教養学部展開科目「情報」(文理共通科目なので高校までの準備を前提)のオリエンテーションに同じものを以下で展開してみましょう。


公開データから考えてみる

 私の研究室の学生、ゼミナールやレッスンなどの生徒たちに与えたのと同様、2020年に入ってからの東京都のデータを用いて、具体的に評価してみます。

 計算は全部手製ですので、間違いに気づかれましたら、ご指摘ください。感謝とともに確認します。

 まず、リンク(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/03/20/02.html)のような東京都の公開情報から、1月下旬に最初の感染者が発見されてからの東京都内での感染者数の統計データを得ます。

 結果をグラフにすると以下のようになっているのが分かります。

 ここで、折れ線グラフが右肩上がりで、患者数がうなぎのぼりになっていることが分かるでしょう。

 ここで、私自身を含め、疫学も感染のメカニズムも、何も知らない人間が「データだけ」を念頭に何をどのように予測できるか、を考えてみます。

 これは、本質的には何も知らない機会が、ビッグデータだけから何が予測できるか、というAIのプロセスを極めて初歩的にかみ砕く「データ駆動科学」ゼロのゼロ、と思って見ていただけると適切かと思います。

 私たちが知りたいのは、来週、対面授業を大学で行う判断をどう安全にくだせるか、といった未来の予測です。

 そこで直近の2つのデータだけを取り出して(スモール・データですね)2通りの未来予測をしてみましょう。

3月 6日金曜日時点での都内感染者数は  77人
3月13日金曜日時点での都内感染者数は 129人

 増えています。この増加を2つの異なる考え方で「評価」してみます。

 第1は 77+n人=129 と 感染の増加を差分で考えるアプロ—チで

 実際に計算するなら n=129−77=52

 つまり1週間で東京都内の感染者は実数52人増えたとデータは言っている。ここには感染のメカニズムとか、一切の他の知識は関係ありません。

 観測されたもの(observable)の現象面だけを純然と見るのがポイントです。現象論的な見方、と呼ぶことがあります。

 第2は 77×r(率)=129 と 感染の増加を割合、比で考えるアプローチ

 計算すれば r=129÷77=1.675・・・≒1.68程度

 すなわち1週間で東京都内の感染者は増加率1.68倍という割合で増加している、とこのデータは語っている。同様にここには、疫学の知恵は何も含まれていません。

 ここから私たちは、極めて初歩的な形で2つの未来予測を行う事が可能でしょう。

 3月13〜20日の間に増えたのと同じ人数だけ、新たに感染するとすれば

 129(3月20日時点での感染者数)+52(増分)=181(3月27日の予測数1)

 また3月13〜20日の間に増えたのと同じ割合で、新たに感染するとすれば

 129×1.68≒216(3月27日の予測数2)

・・・「こんな計算をして何の意味があるんだ? あてにならない数遊びではないか」と言うような人は、目の前にあるデータを生かすことができないことになります。

 現実に3月27日の夕刻(この原稿は27日の朝公開を念頭に3月24日に書いています)にどのような感染者数になっているか・・・「真の値」は、再び観測してみるしか方法はありません。

 しかし、第1のような「等差的」な感染力であれば180人程度、第2のような「等比的」な感染力であれば216人程度、と具体的な数、つまり「定量性」をもって未来予測、この場合は感染者数の増加という、シリアスな数を「評価」できることが重要なのです。

 ある種のお役人や、大半の政治家にしばしば見る姿勢ですが、受け身で、何となく予測の数字を口にするというのは、丸腰でデータに翻弄される、望ましからざる姿勢です。

 これからAIを駆使して2030年代以降の未来を開拓していく「Beyond AI」世代の若い人たちは、こんなことでは仕事が務まりません。

 結果は予測しなくては・・・。

 もし、3月27日時点での感染者累計数が170人程度である、つまり等比的な増加よりも少ないなら・・・感染拡大は収束しつつあるとはっきり判断されるでしょう。

 また、等比的な増加、216人よりも多ければ、被害が増大しているだけでなく、感染そのものが加速している(文字通り加速度がプラスの値をもつ)と、直ちに判断することができます。

(PS 追記 上記は3月23日時点で記したものでしたが、26日の本稿校正時点で感染者数は212人となっており、等比予測を上回ることはまず間違いありません。すなわち「感染の勢いそのものが加速している」ことが定量的に確認できます)

 つまり、漠然とテレビの垂れ流す数字を受け流すのではなく、そこから鋭敏にリスクを感じ取り、対処を考えることができるはずです。

 このような観点から、3月6〜13日 & 3月13〜20日の2つの「スモールデータ」だけで3週間程度を最も初歩的に予測すると、以下のようなグラフが書けるでしょう。

 こんな具合で、報道で誰もが見る数字から、高等学校で多くの人が習う算数だけで、自分の手元で「評価」を計算することのメリット、ならびに考え方を誤ると発生しかねないデメリットを記しておきます。

 少なくとも伊東研究室では、音楽専攻の学生を含め、全員に目の前の報道の数字を鵜呑みにして杞憂すべきでないと教えます。また自分の計算はあくまで自分の目安のため、とも強調もしている。ここは大事です。

 まずデメリットの防止から明記しておきます。

 自分の予測評価を決して妄信しないこと。こうした目安について、物理屋は「フェルミ算」という言葉を使います。粗い見積もりといった意味合いです。

 これは、メカニズム不明で得られる、新たなデータがどの程度のものであるか、あるいは度外れたことを示していないか、などを定量的に感得する「ヒント」であって、それ自身を信用するようなものではないことを、まずわきまえておきましょう。

 次にメリットについて、ですが、2011〜12年、福島でも経験したポイントとして、「目に見えない**の恐怖」といったものに、受け身の姿勢で無用に怯えるのでなく、客観的なデータを能動的に検討することで、自身の周囲の環境や行動を評価し、積極果敢に判断を下すことが可能になることが、圧倒的に価値があると考えています。

 例えば大学が「来週から対面授業を再開します」とアナウンスしたとしましょう。

 そのとき「学校がそういうのだから、出て行こうか」というのも、「学校はそういうけれど、不安でならない」というのも、知の府であるべき大学で適切な姿勢と私は考えません。

「学校はこのように言っているが、自分はこのような客観データに基づく推論でリスクを評価するので、在宅とさせてもらいたい」

 あるいは

「学校はこのように言っているが、自分はこのような客観データに基づく推論で安全性が高まっている評価するので、注意しつつ対面授業参加の方向で判断、行動したい」

 といった姿勢が望ましいものと考えます。


データの増加/精度の上昇

 原稿の上記部分を記したのは3月23日月曜日、午後のことでした。

 研究室の学生たちに、物事への向き合い方を含めて、こうした内容を連絡し、新学期に向けた諸般の準備、気をつけるべき点など、学事を連絡したものです。

 3月23日月曜日の夕方になると、この日に増加した患者数が加わったデータが公開されました。

 前の週末3月20日時点で129人であったものが

21日(土曜日) 7人増加
22日(日曜日) 2人増加
23日(月曜日) 15人増加

 と増えている。ここで、お気づきと思いますが「日曜日」の増加数が少ないのは、役所の事務が関係していると思われ、ウイルス感染の生物統計的な側面だけで変化を一律に言うことはできないでしょう。

 しかし、3月20日時点で129人であったものが、23日時点では25人増加して154人になっている。

 この3日間の「立ち上がり」を「等差的」に評価してみると

 前の週52人増:1週間

 という割合と比較して

 25人増:3日間 = 58.3人増:1週間

 となり、感染の勢いは(関係諸機関の努力があるといえ、現状では)決して衰えていないことが見てとれます。

 さらに、この3日間の増分 129人⇒154人は1.19倍になりますので、比をとって3分の7乗(3乗根をとって7乗する)すると、1週間後の予測感染者数は約1.51倍、実数にして195人程度と見積もることができます。

 これを4日分、5日分、6日分と進めていって、最終的に7日目つまり1週間後の値を用いれば「真の値」と一致することになります。

 データの数が増えていくことで、予測精度が上がる可能性があるでしょう。

 しかし、どこかで突発的な事態が発生すれば、急に感染者数が増加することだって、考えられないわけではありません。

 この極微の部分データだけをグラフにすると、このような形になり、見た目だけでは大して違いは目立たない。受け身で見ていたら、同じようなものだなどと早計に誤解してしまうかもしれない。

 しかし「神は細部に宿る」と言います。

 同じデータをもとに、同じ初歩的なモデルでも中期予測に拡大すると、等差モデルと等比モデルでは、以下のように顕著な違いが出てしまいます。

 逆に言うなら、きちんと自分で手を動かしていれば、極微の数値の違いからも、この先に起こりうる天地ほどの違いをいち早く予測することも可能であること。

 若い人は、何かと進んだ演算を好み、機械学習で**モデルに××性を取り込んだらああなったこうなった・・・といったAIのトピックスを好みます。

 しかし、手計算でもでき、病床の大物理学者(エンリコ・フェルミ)が点滴を見つめつつ暗算でも可能だったような初等的なモデルと演算からでも、複数のシナリオを検討して戦略を幾重にも案出、比較できる。

 そういう「簡単なこと」から始めるのが、とりわけ「Beyond AI」世代の初等・中等教育を念頭に置くとき、重要であるように思われてなりません。

 何にせよ、アクセス可能なデータをまともに見なかったり、そもそもまともにアタマを働かせるつもりがないまま、役所の発表でもAIの出力でも受け身で傍観するのは、感染その他の被害リスクを高めることはあっても、決して安全の期待値を高めることはない。

 文系理系、あるいは芸術系の別なく、大学生、社会人から中学高校生まで分け隔てなく、目の前の数字を使って誰でも計算できるように提示した私の研究室での話題からご紹介しました。

追記(3月24日/25日)

 3月24日、残念なニュースが発表されました。東京都の3月24日の発症者が17人に上り、北海道の163人を脱いで171人、全国一になったという報道です。さらに25日には212人まで急増しています。

 上の予測に新しいデータを外挿して比較してみましょう。

 単に報道を文字で見るだけでなく、上の予想に外挿してみると、等比予測を上回るものであることが分かります。

「コロナの蔓延は勢いを増している可能性がある。注意して推移を見守ろう」ということになるでしょう。

 この範囲で私を含む素人、つまりごく当たり前の意味で、普通の日本人、東京都民が掌で計算できるフェルミ算計算で言えることは「要注意」そこまでだと思います。

「東京が北海道を抜いてパンデミックの中心に」などと慌てるのではなく、今以上に感染力を増大させないよう、冷静な対処が重要です。

 本稿は、あえて3月25日までの計算を入稿、27日公開前提で進めますが、26日以降のデータ推移はここには載せません。

 簡単な計算、数行のプログラムでできることです。手を動かさなくても暗算でもできる。皆さんご自分の頭を使って、外挿してご覧になることをお勧めします。

 何にしろ漫然とマスコミ報道の数字を眺めるのではなく、その数字が何を語っているのか、自ら考え、自ら評価する姿勢が、とりわけ中学高校生、また大学生はもとより一般社会人含め、社会全体に求められると思います。

追記2(3月26日19:30)

 各自計算と本文に記しましたが、そうも言っていられない可能性があり、念校加筆しました。

 26日の都内感染者数の伸びは少なく見積もって47人、と夕刻時点で出ています。

これに対して、東京都が発表した3月24日と25日の感染者数増加、つまり前2日のデータをもとに極めてシンプルに患者数が伸びていると考えると、3月26日の患者数予測は262人程度となります。

 先ほど26日の夕刻に発表された患者数は212+47+α=259+αとなり、残念ながら、上の予想とほぼ一致しています。

 つまり勢いを増す勢いを一定程度で増やしながら感染者数が増えていると考えると、一定納得がゆく数字になってしまっています。

 こんな単純な予測がほぼ当たってしまうなら、懸念される第一は何かと言えば、有効な感染率の減少策が取れていない可能性になるでしょう。

 もし27日の晩の感染者数増加が50人を超え、累計感染者数が310を超えるような状態であれば、マクロな抑え込み策が機能していないことを広く認識し、慎重に対処する必要があると思われます。

 かなりの用心が必要になると考えるのが安全です。週末の不用意な「3密」外出などは、くれぐれも避けるようにすべきと思います。慎重な行動を!

(つづく)

筆者:伊東 乾

JBpress

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