「好きという思いを大切に」13歳の新星・上薗恋奈、世界ジュニア選手権で3位となった飛躍の理由と来季への展望

2024年3月27日(水)8時0分 JBpress

文=松原孝臣 撮影=積紫乃


全日本フィギュアで4位、世界ジュニア選手権では銅メダル

 2023-2024シーズン、上薗恋奈は大きな脚光を浴びた。

 国際大会デビューとなったジュニアグランプリシリーズ初戦のイスタンブール大会で2位になると、2戦目のポーランド大会では優勝。ジュニアグランプリファイナルに進出し銅メダルを獲得。全日本選手権ではそうそうたる名前がそろう中で4位、世界ジュニア選手権では銅メダルと表彰台に上がった。

 13歳、中学1年生で残した成績なのだから、注目を集めるのは自然なことだった。

「ジュニアグランプリに出ることが目標で、2戦の出場が決まったときすごくびっくりしましたし、すごくうれしかったです。ここまで成績が残せたり、自分の演技を海外の試合でできるとは思っていませんでした。自分の魅力を皆さんに伝えられたかなと思っています」

 飛躍を遂げることができた理由を上薗はこのように語る。

「先生方に教えてもらったおかげなので、すごく感謝しています」

 成績もさることながら、上薗が多くの人の関心を呼んだのは、13歳という年齢を考えれば、抜きん出た表現面の魅力だった。

「ジャンプもすごい大切だと思うんですけど、自分が好きなのは表現ですし、自分の魅力を皆さんに伝えられるようにすることを大切にしたいです」

「自分の魅力」、と2度言葉にした。その内容についてはこう答えた。

「表現ができるところだったり、踊りも好きだったり。そういうところをもっと見せられるように、いろいろなプログラムを踊りこなせるようにしたいなと思っています」

 見せる、いや、「魅せる」と表していいかもしれない。


きっかけは浅田真央

 輝きを放つスケーターの出発点は、ある選手との出来事にあった。

「もともと家族がスケートが好きだったので滑りにいったりしていました」上薗は、3歳のとき「名古屋フィギュアスケートフェスティバル」に行った。2014年4月のことだ。ソチオリンピックから2カ月後のアイスショーには、オリンピックに出場した選手たちをはじめ華やかな顔ぶれが並んだ。

 その演技を楽しんだフィナーレで、手を振ってくれたのは浅田真央だった。

「目が合ったような感じでした」

 そのときスケートをしたいと思い、教室に入った。

「小さい頃は友達と楽しくやっていて、自分はジャンプが好きだったので、ジャンプばっかりやっていたと思います」

 スケートに励む中で小学生の頃から大会で好成績を残し階段を上がっていった。

「ジャンプばっかり」だったところから、いつしか表現にも目を向けるようになった。教えてもらっていたのが表現力も大切にする樋口美穂子コーチだったこともあるだろう。


いつも本番と思ってやらないとだめ

 樋口コーチは2022年にグランプリ東海クラブから独立し、自身のクラブ「LYSフィギュアスケートクラブ」を立ち上げる。そのとき上薗もLYSに加入した。

「先生が好きだったので、教えていただきたかったので迷いはなかったです」

 樋口コーチの印象を尋ねるとこう答えた。

「きれいでおしゃれで、すごく愛がある先生だなと思います。厳しいところは厳しいと思うんですけど、その厳しさが優しさにつながっているのですごく好きです」

 成長を促したのは、周囲ばかりではない。上薗自身の姿勢にもあった。

 ——練習は好きですか? 

 尋ねると即答した。

「はい」

 そして続ける。

「調子が上がらないときとかは悔しいこともあるんですけど、それでもやるって決めたらやらないと駄目だと思っています。やっぱり練習でやってきたことが試合に出ると思うし、練習していないと試合を気持ちよく終えられないので、練習は大事にするようにしています」

 以前、樋口コーチに尋ねたとき、上薗についてこう語っていたのを思い出す。

「素直であることがよさです。一見素直だけど本心では受け入れていないだろうな、という子もいますが、あの子はほんとうに素直に受け入れる。みんなに『本番だけ頑張るんじゃなく練習通りやればいいと思ったほうが気が楽でしょう、だったら練習でいつも本番と思ってやらないとだめ』と言っていますが、そのまま受け入れられる」

 教えられた言葉をまっすぐ受け止めて練習に取り組み吸収してきたからこそ、今日まで階段を上がってきた。上薗自身は、ここまでの歩みをこう語る。

「ジャンプの跳び方だったり、スケーティングだったり、1つずつ丁寧に教えてくださって、崩れたときでもすぐに修正してくださったり、教わったことをやることで今があるんじゃないかなって感じています」

 華やかに彩られたシーズンを過ごし、今、その先へ向かおうと取り組んでいる。

「まだ降りられていませんが、トリプルアクセルの練習をしています」

 むろん、ジャンプに限らない。もっと表現も、スケーティングも、あらゆる面を伸ばしたいと考えている。理想として思い描くスケーター像があるからだ。

「皆さんに見てもらえるのが好きなので、表現もできて人に感動を与えられる選手になりたいと思っています。フィギュアスケートが好きという思いを大切にしたいです」

 3月30日に始まる「スターズ・オン・アイス」、5月からの「ファンタジー・オン・アイス」(幕張、愛知公演)への出演も決定した。国内外のトップスケーターとの共演もきっと糧にするだろう。

 まっすぐな心とともに歩む上薗恋奈の前には、広がる未来がある。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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