ポップアップ式のコーヒースタンドがつなぐ。

3月27日(金)6時0分 ソトコト

あっちこっちSTAND

2019年の「茨城県北ローカルベンチャースクール」で最優秀賞を受賞した『チームあっちこっち』。そのメンバーが手がけるのが『あっちこっちSTAND』です。おいしいコーヒーを軸に、地域に人を集め、つないでいくプロジェクト。取り組みへの思いを伺いました。

コーヒーを軸に、「つながるをつくる」。

 ポップアップ式の移動コーヒー店『あっちこっちSTAND』を手がける『チームあっちこっち』。メンバーは共同代表の和田まりあさんと中村聖さん、根谷泰順さん、小又孝正さん(取材時不在)の4名。発足のきっかけは「茨城県北ローカルベンチャースクール」だ。これは茨城県が主宰する起業家育成講座で、県北地域の5市1町を舞台に、すでに地域で事業家として活躍する「ローカルヒーロー」たちを講師に、全5回の講座やフィールドワークを通して、地域と関わりながら事業プランを模索していくというもの。20名ほどが参加した中、方向性や想いを共有した和田さんや中村さんたちは、『チームあっちこっち』を結成。スクールの最後、受講生は自らが考案したプランのプレゼンテーションを審査委員の前で行い、そこで『チームあっちこっち』は2019年度の最優秀賞を受賞した。

1月19日に阿字ヶ浦海岸で行われた「eco fes.Ajigaura」というビーチクリーン・イベントにも出展。
1月19日に阿字ヶ浦海岸で行われた「eco fes.Ajigaura」というビーチクリーン・イベントにも出展。

 このスクールでの事業プランをカタチにしたものが『あっちこっちSTAND』だ。コーヒー好きが高じてコーヒー豆専門店で働く和田さんと、コミュニティづくりに主眼を置いた建築家である中村さんの出会いから生まれたもので、コンセプトは「あたたかい場をつくる」こと。移動式のテーブルを立て、おいしいコーヒーを淹れ、地域の産物を使ったスイーツなどを提供し、そこにさまざまな人が集まり、人と人、そして地域とのつながりを期待するというもの。

コーヒードリッパーなどを置くスタンドは中村さんの作。
コーヒードリッパーなどを置くスタンドは中村さんの作。

 『あっちこっちSTAND』の取り組みは2019年末から始まり、プレ・イベントを含め、この2月までに3回開催された。場所は大子町やひたちなか市など、いずれも茨城県内で、スクールなどで関わりのあった人や町など、「縁」を大事に、各地のイベントなどへ出展しているのだそう。

コーヒーをツールに、コミュニティをつくる。(写真提供:宮地綾希子)
コーヒーをツールに、コミュニティをつくる。(写真提供:宮地綾希子)

 そして興味深いのは、和田さんと中村さんが地域おこし協力隊隊員として、この春から大子町に赴任、移住することが決まったことだ。今後は大子町をベースに、活動の幅はさらに深まり、かつ変化していくことだろう。「ゆくゆくは地域に拠点を構えることも視野にはあります。ただ、実際に『あっちこっちSTAND』をやってみての感想ではあるんですけど、自分たちが行くことで生まれる『なにか』がいいなって実感しているので、この活動はできる限り続けていきたいですね」と和田さん。中村さんも、「メンバーそれぞれがベースを持ちつつ、イベントなどでチームが集まれれば。『あっちこっちSTAND』は人のつながりをつくるのが強いプロジェクト。空間と人を結びつけたりなど、場づくりのきっかけの部分でいろいろな地域やコミュニティと関わっていきたいと思っています」。

和田 まりあ

コーヒーを飲みながら、地域のあたたかさも感じてもらえる場をつくれたら。

 「実際に地域や、地域の人と関わってみて、とてもあたたかいと感じました。自分自身が大子町への移住を決断するくらいに。でも、その感覚って行ってみないとわからない。ただ、その地域を知っている人が、知らない人に言葉で伝えても、『じゃあ行きます』とはならない。そこをどうにかできないかなって。たまたま私はコーヒーが好きで、コーヒー屋に勤めているので、そのコーヒーだったら、なにかフックになるんじゃないかなって」

和田まりあさん

 そして、提供するコーヒーにも並々ならぬ想いがあった。「自分がお世話になっているコーヒー店の豆と、もう一つがドミニカの豆。これは途上国支援の仕事で10年以上ドミニカと関わる父が、縁あってつながった農園主と信頼関係を築いてきたからからこそ、手に入るようになったもの。私も2か月ホームステイさせてもらったんですけど、大子町と同じで人があたたかい国。そういうつながりや想いを、『あっちこっちSTAND』や、地域おこし協力隊隊員として関わる大子町でも大切にしていきたいと思っています」。

ていねいに1杯ずつハンドドリップで淹れるコーヒーが活動の柱だ。
ていねいに1杯ずつハンドドリップで淹れるコーヒーが活動の柱だ。

中村 聖

人との出会い、距離感、そして関係性。つながりを大切に、居心地のいい空間をつくりたい。

 7年間勤めていた建築設計事務所を辞め、独立への道を模索していた中村さん。「学生時代から、まちづくりや、地域のコミュニティを考えた建築などを専門にしていたので、独立するならその方向をやりたくて。観光客と地域をつなげる、さらに観光客が地域と関われるようなコトをしていきたい」。

中村聖

 『あっちこっちSTAND』の初回、11月に大子町で行われたプレイベントが、中村さんは忘れられない。「最初にテスト販売させてもらったのが、藤田観光りんご園さん。場所だけでなく、コーヒーと一緒に出すアップルパイを、その場で急遽提供してくださることに。そのつながりから、先日行われたイベントでは藤田観光りんご園さんのリンゴを使ったケーキを出させていただけることになり、さらにそのレシピはスクールの仲間である元・パティシエが教えてくれたり。地域の人のやさしさが基点ではありますが、僕たちがその場所に行って、コーヒーを淹れることで生まれる掛け算みたいなものがあったらうれしいですね」。

コーヒースタンドで使用するテーブルも中村さんがDIY。
コーヒースタンドで使用するテーブルも中村さんがDIY。

根谷 泰順

帰郷後のキャリアイメージを抱きつつ、茨城のビジネスをサポートする。

 ウェブの制作、運用などの分野でキャリアを重ねてきた根谷さん。「僕、そもそも出身が新潟県で、茨城県とは縁もゆかりもないんです……(笑)」。いずれ帰郷し、起業を考えていた矢先に、スクールの話をたまたま見つけて興味を持ったという。

根谷泰順

 「県の方からもローカルビジネスを立ち上げるヒントがたくさんあるので、ぜひと声がけいただき、応募させていただきました。もともと僕が新潟に帰ってからやりたかったのは、本当はいいものを持っているけど、見せ方がわからない、発信の仕方がわからないといった会社や個人を応援すること。スクールを受講し、『磨いて発信する』ということを学び、事業プランでもローカルベンチャーを志す起業家を応援するサービスを、と考えていましたが、大子町を実際に盛り上げようとしている和田さんと中村さんを応援すること自体が、自分がやりたいことを体現できることだなって気づき、一緒にやらせてもらうようになりました」。

『チームあっちこっち』

『チームあっちこっち』のみなさん、関係人口についてどう思いますか?

 関係人口のド真ん中から、関係人口を醸成し、受け入れる側へ向かっている感のある『チームあっちこっち』。自身の取り組み、そして今後について伺いました。

『チームあっちこっち』のみなさん、関係人口についてどう思いますか?

ソトコト編集部(以下、S) 「関係人口」について、みなさんはどう捉えていますか?

中村 聖(以下、中村) 一昨日、みんなで話していたんですけど、関係人口って、例えば地域にものすごく人が集まるゲストハウスがあったとして、そこが地域における大きな関係人口を持っていますよね? それが、この『あっちこっちSTAND』の場合、各地のイベントに出展させていただく、つまり場所が動き回ることで、各地で築いた関係人口を連れていくというか、ごちゃ混ぜにする感じというか……。

和田まりあ(以下、和田) 例えば大子町での関係やコミュニティが大きくなっていったとして、それを例えば違うコミュニティ、今日インタビューの場として使わせていただいている街の交流拠点『マチノイズミ』に集まる人と掛け合わせるような……。

中村 そうすれば、いろいろな場所で新しい出会いがたくさん生まれますし、人同士もどんどんつながっていくんじゃないかなって思っています。それが『チームあっちこっち』の活動における関係人口のあり方かなって。

S ファンと一緒にさまざまな地域を巡り、関係を築いていく、と。とてもおもしろい考え方だと感じます。まだ活動は始まったばかりですが、実際に手応えはありますか?

和田 1月19日に阿字ヶ浦海岸で行われた『eco fes.Ajigaura』というビーチクリーン・イベントに呼んでいただいたんですけど、そこで実際に、別の地域、コミュニティの人同士がつながるというのを目の当たりにして。

中村 一人は昨年11月に大子町の藤田観光りんご園のプレイベントに来てくれた方。千葉県出身で、災害ボランティアをきっかけに、大子町にあるゲストハウスで働いています。もう一人は、この『マチノイズミ』で出会った方で、イベントのことを話したら、本当に来てくれて。

和田 その二人が私たちのスタンドで出会い、そこでずっと話しているんですよ。コーヒーを飲みながら1時間くらい!

S そんなに!(笑)。まだ活動を始めて間もないのに、すごい成果が生まれていますね。

和田 私たちが積極的に介入しているわけではなくて、そういうつながりが生まれていく。私たちは二人が話しているのをニヤニヤ見ているだけ(笑)。でも、そういうこともすでに起きていて、「これいけるんじゃない!」って。

根谷泰順(以下、根谷)実はこの三人で、関係人口について話し合ったことがなくて……。だから今回の取材はいいきっかけでした。二人は関係人口を超え、今度は移住という段階に進みました。僕はといえば、今年中には新潟県に戻る予定で、新潟からお手伝いしていくんだろうなと思っています。それこそ関係人口っぽい立ち位置で動いていく感じです。東京の仕事もやるし、新潟の仕事も。そしてもちろん『チームあっちこっち』の仕事もやっていくようなイメージですね。

S 多拠点生活、そしてリモートワーク的な働き方です。今ではWi-Fiさえあれば、どこでも仕事ができますからね。

根谷 関係人口自体については、関係人口が生まれることで、人と人のスキルが掛け合わさって、地域の課題を解決する可能性が生まれてくることがメリットだと感じています。

S それは『チームあっちこっち』で感じたことですか?

根谷 はい。「情報発信型のコーヒースタンドをやりたいんだけど、みんなが協力したらできそうだよね?」って言って、さっと動けちゃうところなんかはまさに。実際、茨城県北ローカルベンチャースクールに参加した20名は関係人口ですよね。彼ら一人一人が持つ多様なスキルが混じり合ったら、それこそチャンスしかないと個人的には思っています。

中村 みんな得意なことがバラバラだから、思ってもみない変化が起こりそうですしね。

S 今後の展望についてもお聞かせください。

和田 まずは『あっちこっちSTAND』の月2回の開催ですね。はじめのうちは、声をかけてくださるところにはできるだけ行きたいなって。

中村 僕たちはこれから大子町に行ってしまうので、まずは大子町から行ける距離にある街のイベントやフェス、マルシェへ。今のところは大子町をベースに、水戸と日立。人のつながりがそこしかないので。

根谷 ワークショップやイベントなどをうまく活用してマネタイズできるようになりたいと思っています。

和田 マネタイズは、今の私たちにとってめちゃめちゃ大きな課題で……。つながりを広げていきたいし、そこが一番楽しいと思っているけど、でもそもそもお金がないよねって……(笑)。気持ちはフリーコーヒーでやりたいけど、事業としては成り立たないから、今後のことではありますが、ワークショップ、例えば私だったら、コーヒーの淹れ方教室とか、手網焙煎の体験とかを開催したりして、マネタイズしていければって。

『チームあっちこっち』共同代表・和田まりあさんに聞きました。

Q:関係人口が増えると、地域はどう変わる?

A:地域が元気になる。

 「自分もなにか地域のために応援したい!」って人が増えていけば地域を盛り上げる人が増え、仲間が増えます。結果、地域が元気になります。

Q:関係人口を増やすコツは?

A:おいしいコーヒー!

 コーヒーのおいしさは人それぞれ。でも、ロケーションや、その場の雰囲気、一緒に飲む人だったり、周りの環境をうまく整えることが大事です。

記者の目

関係人口の現場を取材して。

 想いのある中心メンバーと、それを支える役割、そして地域の協力者。関係人口を醸成するプロジェクトの基本を垣間見た気がしました。

記事は雑誌ソトコト2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

ソトコト

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