青木祐奈「現役続行」を決めた覚悟、念願のアイスショー「滑走屋」の余韻と「ファンタジー・オン・アイス」への期待
2024年4月1日(月)9時0分 JBpress
文=松原孝臣 撮影=積紫乃
高橋大輔プロデュースの「滑走屋」に出演
2月上旬に出演したアイスショー「滑走屋」に触れたとき——。
「すっごい楽しかったです」
青木祐奈の声がまた弾んだ。
「10月か11月あたりにお話をいただきました。アイスショーに出たい気持ちがすごく強かったので、中庭先生から電話をいただいたときは外にいたんですけど、そこで泣いて喜んでしまって」
ショーをプロデュースした高橋大輔は「滑走屋」に出演してもらうスケーターを探して東日本選手権にも訪れていた。
「(高橋)大輔くんとは(2014年の)『クリスマス・オン・アイス』でご一緒させていただいて、そのあとはあまり会う機会がなかったんですけど、東日本選手権の試合が終わった直後、たまたまお会いして『すごい素敵だった』と言ってくださって。でも来ている理由は知らなかったです」
年が明けて、準備が進められた。
「1月に大輔くんと(村元)哉中ちゃんが振付を作った動画を送ってくださって、それを見て、まずたくさん量があったので大丈夫かなと不安でした。それこそアイスショーに1回も出たことのないスケーターが多かったのでみんなも不安はあったんですけど、みんな予習をちゃんとしていて、リハーサルが始まるとこれはこうだよね、あれはこうだよねってお互いに助け合いながらできたと思います」
今まで経験していない構成にも取り組んだ。
「振り付けの鈴木ゆまさんが作ってくださったフォーメーションの動画があって、それを見ながら1個1個丁寧に自分の配置を覚えるだけじゃなくて、周りとの間隔だったり、照明との調整だったり新鮮で、自分としては楽しかったです」
「たくさんの人数で作り上げていく作業をしたことがあまりなかったので、それで得られる達成感は大きかったなと思いますし、メインのスケーターとして呼んでいただいたのでみんなをサポートしていきたいなと思ってたんですけど、自分は全然そんな力がなかったので、(友野)一希くんとかがまとめているのを見て、しっかり引っ張っていく力っていうのが大事だなと思いました」
ときにアクシデントもありながら3日間計9公演を滑り切った。準備の時間を含め濃密かつ充実した時間を過ごしたことは次の言葉にもあふれていた。
「現実に全然戻れなくて(笑)。ずっと『滑走屋』の曲を聴いていて、暇さえあれば踊って、みたいな感じでずっと過ごしていて、オランダに出発しました」
そしてオランダのチャレンジカップで会心の演技を披露し2位となった。
実はオランダに出発する2日前に怪我をしていたという。
「夜の出発だったので、ちょっと練習してから行こうと思ったんですけど、でも痛くて。大丈夫かな、と思ったんですけど、『滑走屋』の楽しかった思い出がすごい力になって、そのパワーで乗り越えた感じです」
チャレンジカップでは青木がこだわり続けた高難度のコンビネーションジャンプ、トリプルルッツ−トルプルループをショートプログラム、フリーのいずれでも成功させた。それもまた、これまでの歩みを象徴するかのようだった。
2015、2016年以来の出演となる「ファンタジー・オン・アイス」
5月に開幕する「ファンタジー・オン・アイス」(幕張、愛知)への出演も決定している。2015、2016年に参加してから久しぶりに立つ舞台だ。
「お母さんにも『よかったね』と喜んでもらえました。自分でもそのときの写真をたまに見返したり、いつかまた出たいという気持ちが強かったので、今回呼んでいただいてありがたいです」
念願のアイスショー出演も次々に現実となった今シーズン。
「自分が楽しんでスケートできているのがいちばん大きいかなと思っています。いろいろ葛藤している時期とか精神的に不安定というか、いらいらしたり落ち込んだりということが多かったので、環境を変えてリフレッシュしたのか、落ち着いて自分をコントロールできるようになったと思うので、そこが成長につながったのかなと思います」
そのシーズンは恩返しにもなった時間だ。
「(都築)先生は喜んで、いろいろな試合のあとなどにメールをくださっているんです」
うれしそうに青木は語った。
充実したシーズンやプログラムについて話す中で、青木は何度か「最後のシーズン」という言葉を使っている。試合のあとに今後を尋ねられることもあった。シーズンを過ごしてきて、心境も変化しつつある。
「自分に合った練習がやっとこの歳になってみつけられたのかなって思いますし、それがやっぱり結果にもつながってきています。今やめたら『まだできたのに』って思うことがあるかもしれないなって、今は前向きに考えています。1年間続けるということが、もちろん経済的にもですけど、自分の体と心にどれだけ大変なのかはほんとうに分かっているので、それをやりきれるって自分の覚悟がしっかりついたら決断できるのかなって思います」
最後に尋ねた。
——青木祐奈とは?
「スケートの、表現することの楽しさを知っている人、と思います。もちろんたくさんそういうスケーターはいますけど、自分はその気持ちが強いかなと思います」
——青木祐奈というスケーターの魅力は?
「音楽を1つ1つ捉えて表現できるスケーターです」
長く苦しい時間が続いてもあきらめることはなかった。ジャンプに、表現に惹かれ、スケートを追求してきた。不屈の精神の根底にあるスケートへの強い愛着とともに歩み、演技で観る人々を惹きつけ、自身も笑顔で終えられるシーズンがある。
3月25日、青木祐奈は現役続行を発表。
もっと羽ばたいていくストーリーを描くために、笑顔とともに進んでいく。
筆者:松原 孝臣