77歳水彩画のおじいちゃん先生・柴崎春通「チャンネル登録者数185万人。作った動画は約1000本。描くのって楽しいぜ、と世界に向けて配信中」

2025年4月2日(水)12時30分 婦人公論.jp


YouTubeで絵を描く楽しさを配信している柴崎春通さん(撮影:大河内禎)

小さい頃、絵の描き方は独学で身につけたという柴崎春通さん。息子さんの勧めで始めたユーチューブも、撮影から編集まですべてひとりでこなしました。日本だけでなく海外でも大人気となったチャンネルへの投稿に加え、毎年欠かさず個展を開くなど、77歳にして精力的な日々を送っています(構成:山田真理 撮影:大河内禎)

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「透明水彩」の魅力に取りつかれて


チャンネル名:Watercolor by Shibasaki

はい、こんにちは。柴崎のアトリエへようこそ。ここから世界に向けて発信する動画はまもなく1000本に。チャンネル登録者数も国内外合わせて185万人を超えました。

子どもの頃から、絵を描いたり、ものを作ることが大好きでした。小学校3年生の時だったかな、学校の催しで『路傍の石』という映画を観たんです。主人公のという貧しい少年を、担任の先生が「お前の名前は、『はこの世に一人しかいない』という意味だ」と励ますシーンに、感銘を受けました。

そうか、自分というものは世界で一人だけの存在なんだと。その後しばらくはアルバムに自分の写真を貼るたび、横に「吾は一人」と書くほど影響を受けた言葉です。

自分は自分。やりたいと思ったことを、試行錯誤しながら進めていく。それが僕の人生のテーマかもしれません。中学生の時に油彩画セットを買ってもらいましたが、周りに使い方がわかる人がおらず、独学で風景画を描き始めて。

高校では休部状態だった美術部に人を集め、手分けして情報を仕入れては、描き方を研究する3年間でした。

大学卒業後は普通に就職する気になれず、教授から紹介された絵画の通信講座で講師を務めることに。本国のアメリカから送られてくる資料で勉強できるので、夢のような職場でしたね。

当初は油絵を教えていましたが、本国から教えにくるアーティストたちの描く「透明水彩」に魅了されて。世の画材の多くは、色を重ねると下の色が隠れる不透明のもの。それに対し、下の色も上の色もお互いが透けて見え、淡く繊細な表現ができるのが透明水彩の特徴です。

たとえば油絵であれば、多少失敗しても、上に違う色を重ねたり削り取ったりすれば修正ができます。透明水彩はそれができないので、描く人の技量がもろに出てしまう。にじみやぼかしの効果を生かすには、濡らした紙が乾かないうちに色をどんどん載せていかなければならない、即断即決の難しさもある。

ただ、水彩画はあっという間に描けるので、数をこなせます。つまり、たくさん勉強ができるんですね。画材の特徴やテクニックを学べば、どんどん上達します。自分で試行錯誤しながら学んだことを教えたおかげか、僕の講座は人気がありました。

同時に、自分の作品を売ることも続けていて、50代からは、毎年必ず個展を開いています。多い時は年3回、また2000年にはアメリカのプラザホテルでも開催して好評を得ました。

再び海外で絵を見てもらいたい。でも海外の個展には、輸送の手間や税関の手続きなど面倒なことも多い……と思っていた時、ふらっと個展に訪れた息子から、「ユーチューブで描いてみれば?」と言われたのです。

再生回数が伸びずグチったことも


もの作りが好きなので、庭造りとか、職人さんがお煎餅を焼く動画などを日頃から楽しんでいて、ユーチューブには馴染みがありました。その時は70歳になっていましたが、通信講座でビデオ撮影をしながら絵を描いた経験がありましたし、面白そうだからやってみようかと。

そこでさっそくカメラと照明機材を買ってきて撮影を始めましたが、真っ暗で何も映っていなかったり、ナレーションが録音できていなかったりと失敗ばかり。やっと撮影に成功しても、慣れない動画編集作業がまた大変でした。

今は編集を専門のスタッフに頼んでいますが、基本的には自分のことは自分でしたい性分。大変といえば大変でしたが、少しずつ映像として見られるものができると、どんどん面白くなってきたのです。

動画では、水彩画の面白さを一人でも多くの人に伝えたいと考えました。「俺が先生だ」と大上段に構えるのではなく、簡単な言葉で、わかりやすい例を出しつつ説明する。冗談を言ったり歌ったりしながら描き、楽しく教えることを心がけました。

初めは生徒さんなどから「観ましたよ」と言われる程度だったのが、少しずつ登録者数が増えて。耳の不自由な方や僕の早口についていけない人のための日本語字幕に加え、海外の人向けに英語の字幕もつけたのがよかったのでしょうか。

アメリカでかつて人気だったテレビ番組『ボブの絵画教室』になぞらえ、「日本にもボブがいた!」と紹介されたのを機に、海外でも観てくれる人が増えたのです。

しかし、ユーチューブを始めて2年目頃に、「このまま続けていいのか」と悩んだこともありました。「再生回数が伸びないのはなぜだろう」「絵を練習する役に立っているのかな」と弱気になったのです。

よせばいいのにそれをグチる動画を出してしまいましてね。すると視聴者の皆さんから、「柴崎さんの動画を観ると幸せになるんです」「楽しいから続けてほしい」といった応援コメントがたくさん届きました。

それまで僕は、「自分の知っていることを教えてあげれば、皆が喜んでくれる」と思っていた。でもそれは一種の傲慢で、「絵を描くのってこんなに楽しいぜ。ものを作るって素敵だよ」と素直に伝えることのほうが大切なんだと気づけました。

大人のためのクレヨンを開発


そんなふうに気持ちを切り替えた頃、世界中を席捲したのがコロナ禍です。子どもも大人も外出自粛で、「余った時間に何をしたらいいかわからない」というニュースが流れてきたとき、僕は今こそチャンスと思い、「家で一緒にやってみよう」という動画を作りました。

画材は誰もが持っているわけではないから、まずは鉛筆一本で。色を使いたいから、子どもの使い古しのクレヨンで描いてみてはどうか。そうして間口を広げるうち、観てくれる人がますます増えて。

最近は個展でも、3歳くらいの子が「ファンです」と抱きついてくれます(笑)。俳優の杏さんや評論家の山田五郎さんとコラボ動画を撮ったりもしました。

もう一つ嬉しかったのは、アートクレヨンという新しい画材の開発に関わらせてもらったこと。ユーチューブを観た文具メーカーの人が「話を聞きたい」とアトリエにいらしたので、「子ども向けだけに作っていても未来がない。大人も楽しめるクレヨンを開発しなきゃ」と発破をかけました。すると「ぜひ監修を」と頼まれて(笑)。

重ね塗りが自由にできて、かつ油彩のように鮮やかな色が出せるのが特徴。セットには基本色に加え、ピンクを入れました。箱を開けたとき、「わあ可愛い」と思ったら、すぐ描きたくなるでしょう。柴崎のチャンネルで、描き方のヒントも学びながらね。(笑)

絵を描いていると、自分に何ができて何ができないかがよくわかります。言葉は喋ったそばから消えてしまうけれど、絵は自分の描いた積み重ねがひと目でわかる。自分と向き合う緊張感と楽しさが、絵の醍醐味です。

最初は、家にある紙一枚、ペン一本でいい。「私は何を描きたいかな?」と考えた瞬間から、一人だけの時間が始まります。今まで家族や仕事のために使ってきた時間を、自分のためだけに使う。それはきっとわくわくする体験になると思います。

柴崎も日々、新しい作品を描き続けていますよ。編集待ちの動画素材がもう何十本もたまっている(笑)。これからも皆さんを笑顔にできるような動画を発信していくので、ぜひ応援よろしくお願いします。

婦人公論.jp

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