縄文時代から現代のアニメまで、日本美術史を一気にひも解く…東京国立博物館初の「イマーシブ展覧会」
2025年4月5日(土)6時0分 JBpress
(ライター、構成作家:川岸 徹)
東京国立博物館の本館特別5室で「イマーシブシアター 新ジャポニズム 〜縄文から浮世絵 そしてアニメへ〜」が開幕。国宝・重文を中心に日本を代表する美術品が次々に登場する。
イマーシブ展覧会が花盛り
新しいスタイルのアートエンタテインメント「イマーシブ(没入型)展覧会」の人気が拡大している。イマーシブ(没入型)展覧会とは、既存のアート作品を素材にして新たに制作したデジタル映像を上映。展覧会によっては音楽や光、香りなどの演出を加え、鑑賞者に没入感を体験してもらおうとするプログラムだ。2018年にフランス・パリに開館した「アトリエ・デ・リュミエール」がイマーシブ展の発祥といわれている。
その後、世界各地でイマーシブ展覧会が制作され、ヒット作の多くは日本にも上陸。また日本の企業も展覧会制作に乗り出し、今では常に日本のどこかでイマーシブ展覧会が開催されているという状況だ。
JBpressではこれまで主だったイマーシブ(没入型)展覧会をレポートしてきたが、イマーシブ展誕生から約7年が経過し、そのレベルは急速に高まったと感じている。この1年でいうと、華やかな映像と音楽に圧倒されるオーストラリア発「モネ&フレンズ・アライブ」、学術的な要素を織り込みミュシャの画業を新たな視点で分析するフランス発「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」が印象に残る出来映え。日本制作の展覧会ではスクリーンに映し出される映像に合わせて床が振動し、風が吹く新感覚のイマーシブ・エンタテインメント「HOKUSAI:ANOTHER STORY in TOKYO」展に驚かされた。
そんな花盛りといえるイマーシブ展覧会に、東京国立博物館が参入。3月25日、「イマーシブシアター 新ジャポニズム 〜縄文から浮世絵 そしてアニメへ〜」が開幕した。
NHKの高精度映像を堪能
会場である本館特別5室に入ると、がらんとした空間の正面に高さ約7メートルの巨大な正方形LEDモニター。左右壁面と背後の壁にもLEDモニターが設置され、鑑賞者は360度、映像に囲まれて過ごすことができる。
さて、まずはその映像についてだが、クオリティは申し分ない。NHKの高精度映像技術が用いられており、次々に映し出される東博所蔵の国宝や重要文化財を中心にした日本の美術品がなんとも美しい。カメラアングルもよく、土器や土偶の映像ではその立体感がつかめ、ズームアップによって絵画や絵巻の細部にわたる繊細な表現を楽しむこともできる。
では、ストーリーと構成はどうか。「〜縄文から浮世絵 そしてアニメへ〜」という展覧会のサブタイトル通り、縄文時代から現代のアニメ作品までの日本美術史が網羅されている。とはいえ、各時代の美術品をバランスよく紹介するのではなく、かなり大胆にアニメに寄せた構成になっている。
映像に出てくる作品は、縄文時代の土器・土偶、弥生時代のはにわ、平安時代の絵巻、室町時代の能面、江戸時代の浮世絵など、アニメとの共通性が見られるものや、「どこかアニメっぽい」と感じられるものが中心。アニメ映画監督のインタビューも盛り込まれており、高畑勲監督は映画『かぐや姫の物語』と平安時代後期に制作された《信貴山縁起絵巻》の関係性を、細田守監督は映画『竜とそばかすの姫』と安土桃山時代の長谷川等伯《松林図屏風》の共通性を語っている。さらに名作アニメ『鉄腕アトム』と12〜13世紀に成立したといわれる国宝《鳥獣人物戯画》の比較もあり、興味深く鑑賞できる。
外国人観光客におすすめしたい
ただし、映像の上映時間は約24分しかない。あっという間に終わってしまう。取り扱う範囲があまりにも広過ぎて、これだけの内容を約24分に収めるのは所詮無理な話ではないか。
だが、よく考えてみると、これはこれでいいのかもしれない。コンパクトに「日本のアニメの源流探し」を楽しみたい人に向いているし、現存する日本最古のアニメ作品といわれる『なまくら刀』(1917年)、宮崎駿の実質的な監督デビュー作『未来少年コナン』(1978年)など、お宝映像・懐かし映像も満載だ。
外国人観光客にもおすすめしたい。「なぜ日本のアニメは世界一なのか?」と疑問を感じている人は、ぜひこの展覧会へ。映像のナレーションや、現在放映中の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で蔦屋重三郎役を演じ、本展のナビゲーターをつとめる横浜流星のコメントにはしっかりと英語字幕がついている。約24分という上映時間は観光の合間にさらっと見るのにふさわしいだろう。
東京国立博物館のある上野公園は花見シーズン真っ只中。外国人観光客の姿が目立つ。
「イマーシブシアター 新ジャポニズム 〜縄文から浮世絵 そしてアニメへ〜」
会期:開催中〜2025年8月3日(日)
会場:東京国立博物館本館特別5室
開館時間:9:30〜17:00(毎週金・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)、7月20日(日)は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(水)、7月22日(火)(ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)、7月21日(月・祝)は開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(
https://immersive-tohaku.jp/
筆者:川岸 徹