占い師・しいたけが芥川賞作家・村田沙耶香を占ったら……トーク編

4月6日(金)11時0分 文春オンライン

 若い女性の間で「心に沁みる」「当たる」と火がついた 「しいたけ占い」 は、今ではビジネスマンをはじめ、ふだんあまり占いを見ない層までが「ゆるい雰囲気なのに腑に落ちる」とハマり中。しいたけさんの最新著書 『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』 は増刷を重ね、10万部を超えるベストセラーに。


 あの芥川賞作家の村田沙耶香さんもチェックしているらしい、という噂を聞きつけて今回が初対面というお二人をお誘いしました。



「しいたけ占い」は、占い師・しいたけ、イラストレーター・タロアウト、「VOGUE GIRL」のコラボレーションによって生まれたコンテンツ。©TAROUT


学生時代に週5で励んだファミレスのアルバイト


しいたけ 僕はふだんあまり小説を読まないんですが、 『コンビニ人間』 はページをめくる手が止まらず、久しぶりに小説を読む喜びというものを味わいました。


 人間の暗い部分、社会に吐き出せない、吐き出しちゃいけないような暗さが、明るい照明が光り続けるコンビニと対照的に描かれていて。僕自身が暗い人間だから、暗いものに惹かれるんです……って、いきなりこんなことを、すみません(笑)。


村田 いえ、ありがとうございます(笑)。



しいたけ 村田さんはずっとコンビニで働いているとのことですが、僕は18歳から30歳までファミレスで12年間アルバイトをしていました。時々入ってくるんですよね、作品に登場する白羽(しらは)さんみたいな、生きづらそうな人が……。みんなで売り上げ目標とかを立ててチーム一丸となってやっているところに、異物のような存在ですよね。35歳でコンビニにアルバイトしにきた目的が「婚活」っていう(笑)。


村田 ふふふ。


>>>第155回芥川賞受賞作『コンビニ人間』をおさらい



 36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目だ。これまで彼氏なし。

オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。


 仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる——。


 ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。



しいたけ 読みながら過去のいろんな情景を思い出しました。ああ、こうだったなぁと。大学時代の僕は、サークルや恋愛などのハッピーライフとは縁がなくて、他に行き場所もなかったから週5でシフトに入ったりしていたんです。だから村田さんも、もしや自分と同じタイプの人なのでは? と思ったりもしたのですが、主人公の女性、古倉さんがこれまたぶっとんだ人ですよね。子供時代に男子生徒をスコップでぶん殴っちゃうという。


村田 はい、そうです。


しいたけ どうしてああしようと思いついたんですか?


村田 以前の私の小説の主人公はそれこそものすごく暗い人ばっかりだったんですけど、もう少し明るい人で、悪気がなくてただ合理的に生きているだけなんだけど、周囲に「なんで?」と糾弾されてしまう、という人にしたくて。


 子供時代の彼女は死んでいる小鳥を「焼き鳥にして食べよう」と言います。もしも野生の動物だったらとった動物を食べるのは普通のことだと彼女は考えている。でも、まわりからは残酷だと言われてしまいます。「人間のルール」にぱっとなじめないんです。すごく変かもしれないけど、その人側から見ると他の人たちが変、という。いつもと違うところにカメラが置いてあるような小説を書いてみたかったんです。



『コンビニ人間』の主人公は村田さんのヒーロー


しいたけ 「人間のルール」の中での幸せって、たとえば友達がたくさんいて、周りの人に羨ましがられるような恋人もいて、仕事ではやりがいが追求できて、みたいなことですよね。


 僕は最近、人はその幸せのレールに乗るために、ある意味「不感症」でいることを選んでいるんだろうなと思うことがあります。自分の利益にならなそうなことは遠ざけたり、時には「ごめんなさい」と要領よく断ったりして、一見スムーズにいっているようだけど、実は裏で誰かが迷惑を引き受けていたり、傷ついているかもしれない。でも、あえてそれは感じないようにしてる。


 そういう目線で見たとき、この小説では誰が傷ついたんだろう?と考えてしまいました。主人公にちゃんとしてほしいと思ってアドバイスする妹や、コンビニをうまくまわそうとする店長やスタッフなど、周囲の人も含めて。



村田 そうですね、ある意味全員が傷ついている部分もあるけれど、特にこの人が、というのはないかもしれないです。「お姉ちゃんはどうすれば治るの?」と嘆く妹も傷ついてはいますが、そのぶん傷つけてもいますし。


 主人公が一番あっけらかんとしていて、私にとってはヒーロー的な存在なんです。私はどちらかというと白羽さんみたいに、傷ついて、落ち込んで、というタイプなので。主人公はまっすぐだし、傷ついているのかもしれないけど、少なくともそのことに自覚的でないというのは、憧れでもありました。


しいたけ 実は今日、僕は村田さんと「暗い話」ができたらいいなぁと思って来たんです。いつもならある程度、考えをまとめて来たりするんですが、作ったストーリーを用意しても見抜かれちゃって、通用しないんじゃないかと思って。


村田 そうなんですか。


しいたけ だから焚き火を眺めるような、バイト先の控え室のような感じで……。


村田 へへへ(笑)。


「なぜ自分はあの人が嫌いなのか」と向き合う


しいたけ 僕、そのファミレスでアルバイトをしていた学生時代に、目に映る嫌いなものについて、ノートにまとめていたんですよ。


村田 えっ!(驚)



しいたけ どうして嫌いなのか、とかを分析して、すごく暗いですよね……(笑)。でも、すごく嫌いな人でも、何か深い理由があって、もしかしたら自分のほうが考え違いをしているのかもしれない。だから徹底的に嫌いな対象について突き詰めて考えたいと思ったんです。その活動はすごく自分の中で盛り上がったんですが、人に話すと「なんでそんなこと考えてるの?」と理解されませんでした。


 ところが、この小説ではそんな「暗さ」が正面玄関に飾ってある! と思ったんです。「これが気持ち悪いと思ったらどうぞお引き取りください」という感じで。


村田 なるほど。


しいたけ 僕の暗い部分は、物置に隠してあります。完全に捨てることはできないので、たまに見に行くくらい。ただ、誰にでも「誰かのことが嫌いで嫌いでしょうがない」となってしまうとき、周囲に気遣いする余裕もなくそう思ってしまうときって、人生のどこかのタイミングであるような気がしているんですよね。


村田 はい。



「悪口」を言わないのは「言えない」から


しいたけ 僕はそういうネガティブな面も、必ずしも悪ではないと思っていて。たとえば結婚する相手って、好きなものが一緒の人より悪口が似ている人、「あの人はいい人だけどちょっと疲れるね」みたいなことが共有できる人がいいんじゃないかと思っているんです。「蜜」よりも「毒」が分かり合える人のほうが、本質的なところで繋がれる気がしていて。



 村田さんは作品を通して「毒」の部分を出しているかもしれないとも思うんですが、もし本気で人の悪口を言ったらどうなるんでしょうか……? 興味があります。


村田 そうですね、うーん……(しばらく考える)。私、悪口を言う才能があんまりなくて。


しいたけ 才能、というと?


村田 悪口が言える人って、何か「基準」がありますよね、人を裁く……。


しいたけ 確かに、裁きますね。


村田 基準があれば、それを乗り越えてくるから失礼だと言える。ちゃんと自分の考えを持っているから、悪口が言えるのだと思うんですが、私の場合は小さい頃にその基準みたいなものが壊れてしまったんです。人に対して悪い感情を持ったとき、なぜそういう感情を持ったのかをすごく分析する子供で、特に小中学生の頃にそういうことを考えすぎて、わからなくなっちゃったんですよね、誰かを悪く言う基準というのが。



しいたけ 誰かに怒ったり、何かに怒ったりすることってないんですか。


村田 ちゃんと怒ったりできることに憧れがあって、ハラスメントとか差別的なことに対して、きちんと怒れる人になりたいと思うんです。でも基準が壊れてしまっているので……たとえば浮気なんかについても、ひょっとして一夫多妻制の国から来た人だと何も思わないかもしれない、と考えてしまうと、どう裁いていいのかわからなくなってしまう。子供の頃に基準をなくしてしまった、そのことは自分の「歪み」だとも思うのですが。


しいたけ どうしてそうなったんでしょうか。


村田 小学生の頃から小説を書いていたせいもあるかもしれません。自分の中で起こること、周囲で起こることを観察して、ずっと分析していました。


 たとえばみんなが同じ先生のことを「気持ち悪い」と言うのは何なのか、容姿なのか言動なのか、確かに私も似た感情を持っているけれど、それはどこから来るのか、何かに似ているから嫌われているだけなのか……あまりに突き詰めていたら、嫌だと思う感覚がよくわからなくなってしまいました。



SNSやネット記事で悩み、寝込む


しいたけ それで思い出したんですが、あるときSNS上で「こういうおじさんのSNS投稿は嫌だ」というようなアンケート企画があったんです。その結果が、自撮りもってのほか、食事の写真もってのほか、ペットと一緒に写ってかわいいアピールもってのほか……。


村田 えっ!


しいたけ ゴルフもってのほか。



村田 そんな……。


しいたけ 全部だめじゃん、となったんです。じゃあ何だったらいいのかといえば、ペットの「ねこ単体」。おじさんがSNS上での自己アピールをするのは見たくない、と。その結果を見て僕、1週間くらい悩みましたよね……。


村田 私も「こういう行動はNG」とか、「こういうふうに振舞う人は嫌い」というふうに誰かの存在を糾弾するようなネット記事を読んで、寝込んでしまうことがあります。


しいたけ SNSではあらゆる世代が、それぞれの速度や価値観でコミュニケーションをとっているので、一方はウケ狙いのつもりでも一方は深く傷ついてしまったりしますよね。


 僕は占い師として仕事をしていて、最近、人間関係やコミュニケーションの悩みにSNSが介入していることがとても多いと感じています。先日刊行した本(『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』)では、12星座それぞれの性格をふまえたSNSの使い方を提案したりしています。


 あっ、そろそろ占いをはじめないと時間がなくなってしまいますね。これから、村田さんを占っていきたいと思います。


村田 はい、よろしくお願いします。




(次回「占い師・しいたけが芥川賞作家・村田沙耶香を占ったら……実践編」へ続く)




しいたけ

占い師。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら占いを学問として勉強。2014年から「VOGUE GIRL」で連載開始、毎週月曜更新の「WEEKLY! しいたけ占い」で注目を集める。「しいたけ」という名前の由来は、唯一苦手な食べ物が「しいたけ」であり、それを克服したかったから。著書に『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』(KADOKAWA)、『しいたけ占い  12星座でわかるどんな人ともうまくいく方法』(マガジンハウス)がある。





村田沙耶香

小説家。1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部卒業。2003年「授乳」が第46回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。09年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。16年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。




写真・榎本麻美





(「文春オンライン」編集部)

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