伊藤若冲を見出した相国寺、《鹿苑寺(金閣寺)大書院障壁画》他、長谷川等伯、円山応挙、雪舟の名品が東京に集結

2025年4月8日(火)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

創建から640年あまりの歴史を持つ相国寺。国宝・重要文化財40件以上を含む相国寺派の名品を中心に紹介する展覧会「相国寺展—金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」が東京藝術大学大学美術館で開幕した。


金閣、銀閣を擁する相国寺

 金閣寺、銀閣寺の通称で知られる鹿苑寺、慈照寺を擁する臨済宗相国寺派の大本山「相国寺」。室町幕府三代将軍・足利義満が1382(永徳2)年に発願し、夢窓派の祖・夢窓疎石を勧請開山に迎え、疎石の高弟である春屋妙葩を実質上の開山として創建された。

 今も相国寺は京都御所の北側に大寺の姿を誇り、禅宗の古刹として名高い。その一方で、相国寺は美術の発展にも尽力。640年以上の歴史の中で数々の芸術家を育て上げ、名作の誕生を導いてきた。1984年には相国寺をはじめ、鹿苑寺、慈照寺などに伝わる文化財の保存修理、展示公開、禅文化の普及を目的に相国寺承天閣美術館を創設。現在、国宝5点、重要文化財145点を含む優れた作品を収蔵する美術館として、国内外から多くの来館者を迎えている。

 この相国寺承天閣美術館の開館40周年を記念して企画されたのが、東京藝術大学大学美術館で開幕した「相国寺展—金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」だ。室町幕府の御用絵師とされる相国寺の画僧・如拙と周文。室町水墨画の巨匠と称される雪舟。江戸時代の相国寺文化に深く関わった狩野探幽。そして、奇想の画家・伊藤若冲、原在中、円山応挙。相国寺に受け継がれる名品が、その作品がもつ物語とともに紹介される。


相国寺が見出した絵師・伊藤若冲

 相国寺と縁が深い絵師の筆頭に挙げられるのが伊藤若冲だ。若冲は京都・錦市場の青物問屋「枡屋」の長男として生まれ、絵を描くことが好きだったものの、40歳まで枡屋当主として家業に励んだ。

 そんな若冲の才能をいち早く見出し、絵の世界へ導いたのが相国寺第113世住持の梅荘顕常(ばいそうけんじょう)。梅荘は若冲に中国絵画を模写する機会を与え、さらに「若冲」という画号を授けたという。

 やがて若冲は梅荘の尽力によって、鹿苑寺大書院を飾る襖絵50面を描くという大プロジェクトを任される。当時、若冲は44歳の無名絵師。梅荘の存在がなければ、これほどの大仕事を得られることはなかっただろう。

 無名絵師だったとはいえ、その画力はすでに年季を感じさせるもの。今回、展覧会に襖絵50面の中から9面が展示されているが、特に4面から成る《鹿苑寺大書院障壁画 一之間襖絵 葡萄小禽図》に見惚れた。右上から左下へと葡萄が枝を伸ばし、蔓の先はくるくると螺旋を描いている。余白を大胆に使った構図といい、生命力にあふれた枝と蔓の表現といい、これぞ若冲と言いたくなる筆の冴え。大書院で最も格式の高い一之間を飾っていたのも頷ける。


若冲の人物像が浮かび上がる

 ほかにも若冲の作品が多く展示され、若冲と相国寺の縁の深さを感じさせてくれる。《竹虎図》は伊藤若冲の「竹虎図」一幅と、梅荘顕常の「賛」一幅が対になった作品。若冲の「竹虎図」は伝李公麟「猛虎図」(朝鮮・朝鮮時代)に依拠して描かれており、虎のユーモラスな表情、猫のように拳を舐める仕草、体躯の力強い表現が印象的だ。虎の背後には風に揺れる竹の葉が筆勢の強い墨線で表されている。

 一方、梅荘顕常の賛は「いずこの竹林、長く嘯く声の中。突如もの寂しげな夕刻の風が巻き起こる」と詠む。虎嘯風生(こしょうふうしょう)の故事「虎の遠吠えが風を生む」にちなんだもので、「英雄が出現すると天下に風雲が巻き起こる」という喩えでもある。若冲と梅荘は、虎が巻き起こす風をそれぞれの手法で表現している。

 さらに、箒と戯れて遊ぶ子犬の姿がかわいらしい《厖児戯帚図(ぼうじぎほうず)》、亀の尾から生えた緑毛が画面から一度はみ出して戻り、上方へ勢いよく伸びる構図がおもしろい《亀図》など、若冲の洒脱なセンスが感じられる作品も。巨大な画箋紙に宝珠、打ち出の小槌、隠れ蓑の3つを描いた宝尽くしの図《玉熨斗図(たまのしず)》は、今も鹿苑寺の正月に欠かせない縁起物だ。

 数多くの名品を残した伊藤若冲。いったい、どんな人物だったのだろう。展覧会には明治時代に活躍した日本画家・久保田米僊《伊藤若冲像》が出品されている。米僊は若冲の生家に近い錦小路に生まれ、古老の追憶談をもとに本作を描いたと伝えられている。若冲の鋭い眼光が印象的。また、若冲が生前に建てた墓碑の銘文を拓本にした《若冲寿塔銘(拓本)》には「頭を剃り、肉や生臭い野菜を食べないようにし、妻子を持たなかった」と記されている。若冲は頑ななまでにこだわりの強い人物だったのだろう。


等伯、応挙の名品も必見

 若冲は本展のひとつのハイライト。ただし、ほかにも見逃せない名品が並ぶ。文正筆《鳴鶴図》(前期3/29〜4/27展示)は中国・元〜明時代の作で、相国寺6世絶海中津が持ち帰ったと伝えられている。狩野探幽や伊藤若冲が手本にした作品だという。

 長谷川等伯《萩芒図屏風(はぎすすきずびょうぶ)》(前期3/29〜4/27展示)は金地着色画の大作。花を咲かせた萩が風になびく右隻、芒の茂みに野菊が顔を覗かせる左隻、どちらもいい。シンプルで明快な構図ながら、繊細な情緒にあふれている。

 円山応挙《七難七福図巻》(会期中、部分巻替え)は、人の世の苦難と寿福とを絵解きするために制作された絵巻。応挙は制作に3年を費やし、三巻の全長は39メートルに及ぶ。人々が天災や大蛇から逃げまどう様子などがリアルに、時にユーモラスに描かれている。

 展覧会後期(4/29〜5/25)には雪舟《毘沙門天像》、伝俵屋宗達《蔦の細道図屏風》などが登場。相国寺の美の世界を堪能する、またとない機会だ。

「相国寺展—金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」
会期:開催中〜2025年5月25日(日)前期:〜4月27日(日)、後期:4月29日(火・祝)〜5月25日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(水)(5月5日(月・祝)は開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://shokokuji.exhn.jp/

筆者:川岸 徹

JBpress

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