ICTで進化するカモの食害対策 - ボート型ドローンによる実証実験が開始

2025年4月11日(金)16時0分 マイナビニュース


NTT西日本 佐賀支店とNTT西日本のグループ会社・ジャパン・インフラ・ウェイマーク(JIW)は、『Waymark Boat(ボート型ドローン)を使用したカモ食害対策実証実験』を、3月19日に佐賀県鹿島市で実施した。
カモによる農作物被害が深刻化している同市。カモによる食害の行動を抑制する新たな対策として、ボート型ドローン「Waymark Boat」の導入が検討されている背景を取材した。
○■カモによる農作物被害が深刻化
佐賀県の西南端に位置する鹿島市は、東には有明海が広がり、西は多良岳山系に囲まれ、有明海での海苔養殖や米・麦の生産が盛んな地域。
自然環境に恵まれた同地域だが、近年は淡水系のカモによる海苔や麦の食害が深刻化しており、カモは海と畑を自由に往来することから、効率的・効果的な対策の推進が必要となっている。
佐賀県鹿島市と太良町で立ち上げた「鹿島・太良広域連携SDGs推進協議会」は、内閣府の広域連携SDGsモデル事業に採択されている。今回、「肥前鹿島干潟SDGs推進パートナー」に加入しているNTT西日本 佐賀支店は、JIWとともに、協議会および地域の農業関係者と連携し、ドローンなどの新技術やICTを組み合わせた新たな対策の実証を行うこととなった。
3月19日には生態系の保全とカモによる農業被害の軽減を目的とする取り組みの一環で、「『Waymark Boat』(ボート型ドローン)を使用したカモ食害対策実証実験」を実施。ボート型ドローンを、鹿島市・新籠海岸の肥前鹿島干潟に隣接する農業用地のクリーク内で航行させ、LEDライトやドローンのプロペラ音などでカモを追い払い、飛び立ったカモの追跡なども行なった。
鹿島市では飛行ドローンを活用し、すでに海苔の養殖場からカモを追い払う実証実験を実施済み。そこから派生するかたちで、より取り扱いの簡単なボート型ドローンで、麦畑におけるカモの食害対策を検討するに至ったという。
また、NTT西日本が参画した背景には、飛行ドローンを活用した広葉樹の森林の分析業務を鹿島市のゼロカーボン推進室と行なってきたことなどもあるようだ。
実証実験の計画策定や実証フィールドの提供は鹿島・太良広域連携SDGs推進協議会が担当しており、実際のドローン航行と実証実験は「JIW」がその役割を担っている。
○■ボート型ドローンを活用するメリット
ボート型ドローンを運用したJIWは、橋などのインフラメンテナンスをドローンやAI等のデジタル技術で効率化支援をする会社だ。
「空撮ドローンでは点検が困難な、橋脚の水中部や蓋がされてトンネルになっている水路内の点検作業のため、独自にボート型の水上ドローンを開発しました。ボートの甲板に4枚のプロペラをつけるタイプの水上ドローンは同社が特許を取得しており、さまざまな分野・用途からの引き合いがあり、活用が進んでいます」と、同社の福田早希氏。
ボート型ドローンは飛行ドローンよりも操縦者の操作スキルが必要なく、取り扱いしやすいことが最大の利点だという。カモ対策のための「天糸(てぐす)」などに接触するリスクも低減できる。
「普段、業務で使っているボートをそのまま持ってきていますが、橋脚の水中部を可視化するためのソナーを取り外し、上に機器を置きやすいようにしました。水路に点在するポールなどにプロペラが当たってプロペラを破損しないように、ボートの形状を変えることも将来的には必要かもしれません」(JIW 福田氏)
JIW社の「Waymark Boat」は、4枚のプロペラを上部につけることで水深が10センチほどの水路でも航行可能。水草や落ちているゴミを、水中のスクリューが巻き込んでしまう心配がなく、農業用水路でも扱いやすいことも特長だ。
「今回持ち込んだボート型ドローンは、車と同じような動きをするものですが、普段、我々が業務で使っているボート型ドローンは、その場で360度旋回もできます。操縦に慣れていない人でも少し練習すれば縦横無尽に動かせるということで、非常に扱いやすいドローンです」(JIW 福田氏)
雨天で行われた今回の実証実験だが、NTT西日本では雨が止んだ際に飛行ドローンを飛ばし、ボート型ドローンの走行で逃げたカモの羽数や飛び立った方向・時間、走行後に戻ってきたカモの数などを記録。人間に慣れているカモは人がある程度近づいても逃げることはないそうだが、ボート型ドローンの走行中はカモの群れがドローンを警戒し、そのまま空を旋回して麦畑に着地せず飛び去る場面もあった。
○■「カモにやさしい」被害対策の設計
今回の実証実験では、パトライトやLEDライト、鷹の模型などを搭載したボート型ドローンを走行させて、カモの食害対策としての有効性の検証が第一のポイント。同時に水路や周辺にいるカモをいかに傷つけず追い払うかも重要な検証ポイントとなっている。
「肥前鹿島干潟はラムサール条約の登録湿地帯ですので、鹿島市のラムサール条約推進室にもヒアリングしながら、今回はカモに優しい被害対策を企画・検討させてもらいました。今回の実証の結果を踏まえ、より効率的なカモ対策の内容をブラッシュアップして農業被害の軽減に貢献したいです」(NTT西日本 内村祐貴氏)
年間を通してカモ被害が起きており、麦畑にはカモ対策のための旗が数多く設置されていた。同じくカモ対策の「天糸(てぐす)」も張り巡らされていたが、「天糸」に引っ掛かるとカモが怪我する可能性もあるという。
「空撮ドローンでは、お掃除ロボットのように充電ステーションから自動で飛び立って、決められた飛行ルートを飛んで、また戻ってくるといった仕組みで、畜産などの鳥獣被害の対策として定期的にパトロールさせる構想もあります。水場が舞台となるカモ食害対策で、より効率的な運用が考えられるのか。機材なども含めて2025年度以降、少しずつ具体的なソリューションのかたちを考えていきたいです」(NTT西日本 内村祐貴氏)
地域循環共生圏におけるローカルSDGs推進の一環として実施された今回の取り組み。NTT西日本ではドローンをはじめとするICTを活用し、山や海といった自然環境の整備や生態系の保全と、農業・林業・漁業といった地域産業の活性化の両立による、持続可能なまちづくりに貢献していくという。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら

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