末期がんの僧侶 「生きることへの執着を捨てること」を説く

4月11日(月)11時0分 NEWSポストセブン

末期がんの僧侶・田中雅博さん

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 僧侶・田中雅博さん(70才)は、栃木県益子町・西明寺の住職でありながら、何人ものがん患者を看取ってきた内科医だ。


 2014年10月にステージ4の膵臓がんが見つかり、抗がん剤などの治療を続けている。3月末に古希を迎え、孫も生まれたばかり。しかし膵臓がんは肝臓にも転移していて、医学統計から「あと数か月しか生きられない可能性が高い」と自覚している。


「あぁ、自分の番が来たんだなぁ…」


 自分が進行がんで治らないとわかったとき、田中さんは冷静に受け止めることができたという。それは彼が医師として、現代の医学ではどうにもならない現場を幾度となく経験してきたからだ。


 そんな田中さんが「いのちがなくなるとき」の想いをまとめた著書『いのちの苦しみは消える』(小学館)が話題になっている。末期がんの僧侶で、医師という立場から、“いのちの苦しみ”との向き合い方を説く田中さんが言う。


「人は誰でも100%死にますが“いつか”であって、すぐではありません。ですが、限られたいのちだとわかると、死にたくない、死ぬのが怖いという気持ちが出てきます。それが、“いのちの苦しみ”です。“スピリチュアル・ペイン”ともいいます。人間誰しも生きていられるなら生きていたいと思いますし、いのちがなくなることに苦しみは感じます。でも、人の死は思い通りにはなりません」(田中さん・以下「」内同)


 沈黙の臓器といわれる膵臓はがんの症状も出にくく、初期で発見することは難しい。ただし、進行すれば背痛などの激しい痛みを伴う。


 田中さんはこれまで手術や数度にわたる抗がん剤治療を受けている。ただし、民間療法はいっさい受けていない。


「民間療法は、本当に正しい治療かどうか、効果が科学的に検証されていません。受けていいのは、ちゃんと臨床試験をして医学的に効果が証明された治療だけです。ですが、今の日本はいのちのケアに対する意識が低いため、現代医学で助からないと言われた患者さんたちが、心の行き場を失って救いを求めています。結果、“がんに効く水”とか未承認の免疫療法といった民間療法に頼ってしまう人が多いのが問題です」(田中さん)


 いのちの苦しみをやわらげるひとつの方法として、田中さんは“生きることへの執着を捨てる”ことを説く。人には“思い通りにしたい”という欲求があり、思い通りにならないことに対して苦しみを感じる。だからこそ、“生きたい”“死にたくない”といった欲求をコントロールすれば、苦しみがなくなるという。


 海外の病院には、いのちの苦しみを癒す「スピリチュアルケアワーカー」「チャプレン」という職業が存在している。患者や家族に寄り添い、いのちの苦しみを癒すその存在は、残念ながら、日本にはまだ浸透していない。だからこそ、医師や看護師しかいない病院では“余命宣告”が難しい。


「医者は延命のための治療をして患者の体の痛みを緩和することはできますが、いのちの苦しみを緩和することはできません。いのちの苦しみは非科学的な領域で、科学的な領域の医学とは関係ないからです。“いのちの苦しみを緩和する”という考え方が、もっともっと重要視されるべきです」(田中さん)


※女性セブン2016年4月21日号

NEWSポストセブン

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