「選択における責任」こそが子供を伸ばす…アグネス・チャン氏が語る『0歳教育』

2022年4月12日(火)9時45分 リセマム

「選択における責任」こそが子供を伸ばす…アグネス・チャン氏が語る『0歳教育』

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2022年に歌手デビュー50周年を迎えたアグネス・チャンさん。エッセイストやユニセフ協会大使としても幅広く活躍し、第1子出産後にはスタンフォード大学で教育学博士号を取得するなど、教育に深く関わってきたアグネスさんに、幼少期からのコミュニケーションのコツや、大人の心構えについて話を聞いた。

--著書『0歳教育』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が、発刊早々ベストセラーになっていますね。「言葉でのコミュニケーション」「親子それぞれの主体性」「相手への思いやり」の3つがキーワードになるように感じました。赤ちゃんの時期にとどまらず、ご自身の子育てにおけるお子さまへのコミュニケーションで心がけていたことはありますか。 

 子供が悪いことをしたときに「ルールだからダメ」「社会の決まりだからダメ」という表現は避けるように心がけていました。ルールや決まりを理由に叱るという行為は「違反すると罰則がある」と伝えることにも繋がります。罰則はある種の「力」です。

 また、同様に「まだ子供なんだから」と伝えるのも、親から子への上下関係による「力」を示すことになります。力で従わせる方法は永遠には通用しませんし、子供にとっても納得できません。成長して、子供自身が大きくなり、親に力がないのがわかると、途端に言うことを聞かなくなります。

 親のメッセージの伝え方として、心理学で効果的だと言われている方法は2つあります。

<効果的な伝え方、理解の促し方>
1、 子供の「相手を傷つけたくない」気持ちを生かす
2、 まるで子供が自ら改善案を考えついたかのように刷り込む

 子供は親や、周囲の大好きな人たちを悲しませたくないと思っています。子供が親の愛を信じていることが前提ですが、親が「こういうことをされると悲しいな」と伝えると、子供の心にもとても響きます。言葉が伝わらない赤ちゃんにも、悲しい表情を見せればちゃんと伝わりますよ。

 また、繰り返し親に言われたり、親がやっていることをマネしたりするうちに、あたかも自分で正しい考えを見出したかのように思い込むようになります。子供の無意識に根付かせることで、わざわざ親から言われなくても自分で決められた、行動できたという自信につながります。

--親の言葉がけとしても「嬉しい」や「悲しい」といった感情を表現することが大切ですね。

 「相手を従わせたい」という下心があると、なかなか子供には響きません。前提として、日常的に信頼関係が築けているかが鍵になります。親が目一杯子供と向き合い、子供が親の愛を信じていれば、多少強い表現をしても大丈夫。子供に注意したり、指示をしたりする前に、まずは子供への愛情がしっかり伝わっているか、そしてその「愛情」が条件をつけない真っ直ぐなものであるかを振り返ってみてください。さらに言うと、力で抑えるのではなく、信頼関係のうえで感情に訴えかける方法は、子供だけでなく大人にも有効なんですよ。「情に訴えかける」ということを実感したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

--赤ちゃんの自主性・自己決定力を育むトレーニングとして「おもちゃを赤ちゃんに選んでもらう」というエピソードが紹介されていましたね。「自分で決める」ことを促すためのコミュニケーションや声かけのコツを教えてください。

 乳幼児期から自分で選ぶ練習をすることは、人生のあらゆる場面で、結果に責任をもつ練習として大きな意味があると思っています。物事は、1つ選択すれば必ず結果がついてきて、道が開けます。「運が良い」と言われる子は、たくさんの選択肢の中から賢く選び取れる子なんです。

 この練習において、親がすべきことは「どっちが良い?」と2択で選ばせることではありません。子供自身で今もっているチャンスや能力をすべて考えたうえで、以前の過ちを繰り返さないよう、子供自身が考えるための材料を提供し、最適な選択をできるような環境を整えることです。

 たとえば夕食のメニューを聞く場面。漠然と「今日晩ごはんに何食べたい?」と聞いてしまうと「何でもいい」と答える子供が多いと思います。でも「今日何食べようか」と子供と一緒に冷蔵庫を開けてみると、子供自身が「こんな野菜があるね」「このお肉はなに?」と関心をもってくれます。そこで「昨日は唐揚げを食べて、明日はみんなで外食にいくから今日のメニューは何がいいと思う?冷蔵庫の中の材料で何ができるかな」と、過去と現在と未来を組み合わせて情報を提供してあげれば、子供たちから「そうだ!カレーはどう?」など、アイデアを引き出すことができます。

 子供が良いアイデアを思いついたり、良い選択をしたときは「それは最高の夕食メニューだね」「あなたの提案のおかげで美味しい料理が作れたよ」と最大限褒めてあげます。そうすることで「次はもっと良い提案をしよう」と思うようになりますし、次第に選択することが楽しくなっていきます。

 交通ルールなど生命の危険が関わることは大人が判断して指示する必要がありますが、それを除いて、子供の年齢に応じて選択の範囲を広げ、1つずつの選択には、必ず結果が伴うのだと認識させていくことが大切です。

--「自分がしたことによって、何かの結果が生まれると言う因果関係を理解させる」のですね。選択したことの結果や状況を、親が言葉で伝えてあげることで、子供も自分の行動を整理することができますね。

 伝える際には、表情もポイントです。子供が物を投げて壊したとき、赤ちゃんであっても親が悲しい顔をすれば事の重大さが伝わります。さらに言葉のわかる幼児以上であれば「大切なおもちゃ、どうする?」「直せるかな?触ると危ないね」と声をかけ、時間をかけて伝えます。そこで本当に物が直るかどうかは関係なく、自分がしたことの結果を考える時間をつくることが大事です。壊れたからといって、親がすぐに片付けてあげるのは良くないですね。

 自分の子供がケンカやいじめなどの加害者になってしまったときにも、全部問題を片付けて解決しようとする大人がいますが、それも望ましくありません。大人が解決してしまうと、何が悪かったのか子供に考える時間がありませんし、罪の意識をもちません。子供自身が、責任や犯した罪を考えたうえで「どうしたら良いかわからない」と言うのであれば「あなたの代わりに謝ることはできないけれど、一緒に行くことはできるよ」と支えてあげましょう。自分で責任を取り、信頼回復につながることを経験させることが大切です。

--先手を打って問題を解決したい親心も理解できますが、子供自身に考えさせることが大事なんですね。

 決定権のボールを子供に持たせることが、自主性につながります。親はあくまで「どうする?」と提案する姿勢でいましょう。よく「子供には逃げ場が必要」と言われますが、人間としての基本的なモラルに関して逃げ場を作ってしまうと、大人になっても責任逃れをしようとします。故意ではなくても、悪いことをして恥ずかしい思いをしても「直していけば必ず改善できるよ」と伝えることです。

--『0歳教育』では、デジタル機器と子供の接点についても書かれていますね。幼少期は極力触れさせない方が良いというお立場ですが、デジタル機器に出会わせるタイミングとして、いつごろが適当だと思われますか。

 少なくとも2歳まではデジタル機器との接点はない方が良いと思っています。興味深いプログラムやアプリがあれば、たまに触れるのは構いませんが、言葉でコミュニケーションが取れる3歳以降になっても親子一緒に観るのが良いですね。ゲームやテレビなどは中毒性が高いものも多いので、大人が子供に与える内容を選ぶことが大切です。

 とはいえ、現代社会ではデジタル機器を使う必要が出てきますので、ツールとして使いこなせるよう、その機器の仕組みや機能にも興味をもたせるなど工夫が必要です。あくまで使われる側ではなくて使う側に、遊ばれるのではなくて遊ぶ側になってほしいですね。

 また、インターネットはいろんな危険がある世界とも簡単に繋がっているので、プライバシー保護は必須です。カーテンもロックもない部屋に裸で生活しているのと同じぐらい、個人情報が晒される危険があります。幼いうちは大人がサポートしてあげる必要がありますね。

 インターネット上にはフェイクニュースを含め「メイクをしておしゃれをしないといけない」「これを買った方が良い」「これが上手くないといけない」といったプレッシャーが常にあふれています。その情報と自分を比較して、焦ったり、落ち込んだり、平常心を保つのが危うくなることもあります。情報リテラシーやインターネットのデメリットを子供に伝えて、デジタル機器と上手に付き合っていく必要がありますね。

--30年ほど前「アグネスの子連れ論争」で、母親が働くことについて一石を投じられたアグネスさん。働く姿や大学院で学ぶ姿を見せたことは、息子さんたちの成長に大きく寄与していると思います。当時から意図していらっしゃいましたか。

 下心はありませんでしたが、「子供は必ず親の背中を見ている」とは常々思っていました。必ずしも親が働き、学ばなければいけないというわけではありません。結局のところ、子供が1番好きなのは、親が一生懸命、生き生きと毎日を生きている姿です。自らが生き生きする場面は、仕事だけでなく、家事、農業、ボランティア、趣味などそれぞれ違うはずで、学位やキャリアといった世間でのいわゆる「成功」は、子供にとっては価値がありません。逆に、人生をサボっている親は良くないモデルになってしまいます。

--コロナ禍、リモートワークする大人が増え、子供たちにとって親が働く姿が身近になったように思います。

 働く姿は普段なかなか子供に見せられないので、「親の背中」を見せる貴重な機会だと思います。親が失敗したり、すごく悩んだり、疲れている姿を子供に見せても良いのです。子供はその姿から、仕事の大変さを学びますし、一生懸命頑張っている姿を子供は認めてくれます。

 一方、大人にとっても仕事中に子供の姿が見えることは、良いことだと思います。オンラインでの打ち合わせ中に子供が入ってきてしまっても、職場では見えてこないその人の家庭での姿がわかりますし、その人への理解が深まるのではないでしょうか。

 コロナの影響で、親子ともに在宅時間が増えて、イライラも募り、悪いことばかり考えてしまいがちの方も多いと思いますが、メリットもあります。子供のオンライン授業であっても、子供が授業を受ける姿をそばで見れますし、先生のようすも画面越しに確認できます。「あの時は大変だったけど、良い思い出にもなったよね」と将来言い合うための親のチャレンジの期間だと思って乗り越えたいですね。

--いまだに根強い「母親幻想」ゆえ、「保育園に子供を預けること」や「専業主婦」への後ろめたさが母親にはつきまとっているように思います。子育て中の読者に向けて、応援メッセージをいただけますか。

 もっとも大事なことは、まっすぐな愛情をもって育てているか、その愛情が子供に伝わっているかどうかで、親としてはそれだけを考えていれば大丈夫です。自分の愛情が子供に伝わっているか不安なのであれば、言葉がけやスキンシップで伝え方を工夫してみましょう。

 子育ても、自分育ても同じで、それぞれの人生なので他人と比べる必要はまったくありません。それぞれ状況も条件も能力も違います。働かなければいけない人もいれば、自分の意思で働きたい人もいますし、好き嫌いも違います。現在の状況は偶然ではなく、すべて自分の選択なので、今の状況から何ができるか、次の選択をどうすべきかを考えることが大切ですね。

--お忙しいところ、本日はありがとうございました。

 多彩に活躍しながらの各国での子育て生活は大変なことも多かったはず。それにもかかわらず「3人の子育てはとても楽しかった」とチャーミングな笑顔で振り返ったアグネス・チャンさん。

 親が先回りして子供に最適な選択を見つけ、問題を解決することは、実は「安心」を得たいだけの親のエゴなのかもしれない。「ひとつひとつ子供に選択させ、その結果に責任をもたせる」というアグネス・チャンさんの子育ての姿勢には、強い軸と真っすぐな愛情を感じ、3人の息子さんそれぞれが主体性を持って世界に羽ばたいている理由が垣間見えた気がした。

スタンフォード大学に3人の息子を入れた 賢い頭としなやかな心が育つ 0歳教育 発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン
3人の息子をスタンフォード大学に合格させたアグネス・チャン 独自の子育て法の原点
 「0歳教育」と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか。「0歳から教育なんてありえない!」そう思う人もいるかもしれませんね。教育=勉強ではありません。子供がもともと生まれながらにして持っている才能や可能性を最大限に伸ばしてあげること。それが教育です。脳の発育が80%完了する3歳までにすべき、子供とのコミュニケーションを説いた教育博士アグネス・チャン氏のベストセラー。

リセマム

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