頭痛で起きたら“英国なまり”になっていた米国人! モノマネではない… 奇病「外国語様アクセント症候群」の謎とは?

2024年4月12日(金)8時0分 tocana

 米メディアABCのニュース系列社「KNXV」は、2018年2月に興味深いある症候群に関するレポートを報じた。それは「外国語様アクセント症候群(Foreign Accent Syndrome)」と呼ばれる病気で、ある日を境に突然患者の発声が外国語なまりのようになるという珍しい医学的症状を呈するものだ。



■突然外国語なまりになる「外国語様アクセント症候群」とは


 外国語様アクセント症候群は通常、脳の損傷などの神経学的外傷や脳梗塞によって発症する。1907年に初めて記録され、現在までに研究者は数百以上の事例を研究発表してきた。


 例えば、この症候群の患者であるアリゾナ州出身のミシェル・マイヤーズ(45歳)さんのケースだ。ミシェルは過去7年間に3回、ひどい頭痛が起き、そのまま眠りに落ちた。初めの眠りから覚めると、彼女のアメリカ英語はアイルランドなまりの英語になっていた。


 その次の眠りの後にはオーストラリアなまりの英語になり、これらはそれぞれ約1週間続いた。そして今から2年前、またしても彼女はひどい頭痛に襲われたが、それ以来ずっと、彼女の英語は英国なまりになっている。しかし、ミシェルさんはアメリカを出たことは、かつて一度もなく、それらのアクセントを持つ人々と接触したこともない。


 彼女は精神疾患でないことを確認する目的で、精神科医に送られた。専門家は、彼女は精神疾患でなく、またアクセントを真似しているわけではないと診断し、彼女は正式に外国語様アクセント症候群と診断された。


 もともと彼女には、あざが出来やすく、血管の破裂を引き起こす「エーラス-ダンロス症候群」という難病があったが、その病気と「外国語様アクセント症候群」の関連はわかっていない。ミッシェルは自分の昔のビデオを見て、こう言う。


「私が昔は『普通に』話していたのを見ると、とても悲しいです。今では自分が全く別人になったような気がします」(ミシェル・マイヤーズさん)


 「外国語様アクセント症候群」が最初に公式に記録されたのは、1941年、第二次世界大戦中、ドイツがノルウェーを占領していた時のことである。爆撃を受けたノルウェー人女性のアストリッド・Lの脳に、爆弾の破片が突き刺さってしまった。彼女が意識を回復した時、彼女のノルウェー語はなぜか敵のアクセントであるドイツなまりになっていたのだ。


 「外国語様アクセント症候群」に関する初の詳細な論文を書いた神経学者のゲオルク・ハーマン・モナード=クローン博士は「彼女は、自分が買い物に行くと店員に敵のドイツ人と思われてしまい、何も売ってくれないと不満を訴えていた」と述べている。


 外国語様アクセント症候群を研究している米テキサス大学によれば、この症候群は世界で数百件記録されているとのこと。中には、日本語アクセントの英語から韓国語アクセントの英語へ、イギリスアクセントの英語からフランス語アクセントの英語へ、アメリカ英語からイギリスアクセントの英語へ、そしてスペイン語アクセントの英語からハンガリー語アクセントの英語への変化が記録されている。


Buckeye woman wakes up with British accent 動画は「ABC15 Arizona」より

 この症例の中には、統合失調症等の精神医学的な疾患によって引き起こされた可能性のあるケースもあるという。しかし精神疾患のみで、外国語様アクセント症候群を引き起こす要因として十分であるかどうかは不明である。


 外国語様アクセント症候群と統合失調症の症状を併せ持つ34歳の女性のケースでは、新しいアクセントは精神病症状が持続している間は継続し、その症状が沈静化した後に消滅したという。


■モノマネとは明らかに異なる


 また、外国語様アクセント症候群などという病気は実在せず、患者が外国人のアクセントを真似ているだけだと疑う人も多い。しかし、この症候群の人と、単にアクセントを真似しようとする人の間には明確な差がある。


 各言語には、発音に独自の特徴がある。例えばある言語を母国語とする人は、「R」の音を非常に強く発音したり、ある母音を発音する時に巻き舌になったり、唇を閉じて発音したり、子音を飲み込んで発音しなかったりする。それらの特徴によって、その人の話す言葉は外国語様アクセントになる。


 この症候群の人は話す時に一字一句間違いなく、全ての母音、子音と特定の音に毎回、その特徴が出る。それが「外国アクセント様症候群」であって、アクセントを単に真似しようとする人とは明らかに区別できると研究者は説明する。


 そしてこの症候群は、患者の母国語が出現したアクセントの言語にいくらか類似している場合に生じるケースがほとんどらしい。(例として、アメリカ英語を話すミッシェルがイギリス英語やオーストラリアなまりの英語になったように)。


 アメリカは人種のるつぼなので、その人の英語のアクセントを聞くと国の内外にかかわらずだいたいの出身地がわかる。それがその人のアイデンティティでもあるのだが、もし自分とは縁もゆかりもない国のアクセントになってしまったら、やはりかなり困惑することは間違いない。


 研究によって脳に何らかのダメージが加わることによって発症することまでは解明しているが、いまだに詳細なメカニズムは不明だ。人間の脳には、まだまだ人知の及ばない不可思議な部分が多いようだ。


参考:「Science Alert」、ほか


 


※当記事は2018年の記事を再掲しています。

tocana

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