三井住友「Trunk」とは? 「Olive」のノウハウを活かした法人向けのデジタル総合金融サービス
2025年4月16日(水)11時0分 マイナビニュース
三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は4月15日、法人向けの新たなデジタル総合金融サービス「Trunk」を5月から開始すると発表しました。個人向けの総合金融サービス「Olive」で培ったノウハウを活かして法人向けにデジタルやAIの技術などを駆使して、「全く新しいサービスを構築した」と言います。
SMBCグループ取締役執行役社長グループCEOの中島達氏は、「Trunkには2つの思いを込めた。お客様の事業を旅に見立てて、様々な機能を詰め込んで、いつでもどこでもご一緒して、使うほど馴染んでいく旅行カバン。このような存在でありたいという思い。もう1つはトランクには木の幹という意味もある。事業を支え続ける木の幹のような存在でありたいという思いも込めた」と語りました。
○Oliveのノウハウもつぎ込んだ法人向けサービス
Oliveは2023年2月にスタートした個人向けの金融サービスです。三井住友銀行と三井住友カードが一体となって開発したサービスは、モバイルとデジタルを重視して、様々な手続きがオンラインで完結し、銀行口座、カード決済、証券、保険などをアプリ上でシームレスに利用できるサービスとして設計されています。
1枚のカードでキャッシュカード機能に加えて、クレジットカード/デビットカード/ポイント払いをアプリ上で切り替えて使えるフレキシブルペイ機能を世界で初搭載。総合金融サービスとして順調に契約数を拡大し、2025年3月には500万口座を突破しました。
このOliveのノウハウもつぎ込んだのが新サービスのTrunkです。中島氏は、「法人版Olive」という表現は否定しており、実際はOliveと並行して開発を続けてきたサービスで、先行したOliveの良いところを取り込んだ上で設計したサービスということのようです。
Oliveと同様に、三井住友銀行と三井住友カードが一体となって開発。さらに2024年に資本業務提携したインフキュリオンも開発に参画しました。個人向けとは異なり、銀行口座や決済に加えて、経理、資金繰り支援など、「企業経営に欠かせないお金周りのサービスを、デジタル、モバイル、AIをキーワードにシームレスに提供する、新しい法人向けの総合金融サービス」だと、三井住友カードの大西幸彦社長は話します。
ターゲットは中小/零細企業を中心としています。中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2023/231213chukigyocnt.html)によれば、日本の企業のうち、99.7%に当たる約336万5,000社が中小企業とされています。ただ、これまでメガバンクの三井住友銀行は、こうした事業者に金融サービスを提供できていなかったと言います。
これまでも、中小企業向け融資の「ビジネスセレクトローン」のようなサービスはありましたが、中小企業をサポートする核となるサービスとしては育ててこれなかったと中島氏。「経済状況の変化や、特に日銀のマイナス金利政策などもあって、過去10年ほど、SMBCグループとして中小企業など幅広い事業者へのサービスに対して、十分な投資ができていなかった」と言います。
そもそもメガバンクとしてメインターゲットは比較的大手企業であったため、中小企業は地銀やネット銀行などがカバーするという状況になっていました。さらに、「過去何度も試みたが、うまくいかなかった」と中島氏は振り返ります。そうした中小向けの取り組みに対する反省の弁を語る中島氏ですが、デジタル、モバイル、AIといった新たな技術によって、中小企業に向けての取り組みが可能になったと判断。Trunkを投入することになりました。
○中小企業の課題解決を目指す「Trunk」
法人口座開設では、「メガバンク初」というオンライン申し込みから最短翌営業日で開設を可能にしました。申し込み時の本人確認としてマイナンバーカードのJPKI(公的個人認証)を利用し、さらに国税庁の法人番号システムWeb-API(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/webapi/index.html)を使って法人番号から自動で企業情報を取得します。さらに契約書などの事業の内容を示す書類のデータを送信することで申し込みができます。
最終的に面談が必要ですが、これもオンラインでのビデオ面談を可能にしました。事業の内容などを担当者とやりとりした上で、最短で翌営業日に口座が開設されます。これが、従来はかなり手間と時間がかかる手続きだったのですが、テクノロジーを駆使することで短縮化しました。
開設した口座はOliveと同じくデジタル口座になります。「近隣の支店」という概念がないため、近くに店舗がなくても開設できる点が特徴です。そもそも「メガバンクは全国展開しているわけではない」と中島氏は指摘しています。関東や関西、名古屋、福岡といった大都市圏に拠点を構えていますが、店舗網のないエリアも多くありました。
そうした場合、これまでは店舗網がなければ口座の開設もできませんでした。デジタル口座では、そうしたこともなく、全国どのエリアからでも申し込み、開設ができます。オンライン面談も、全国の担当者の中から空いているスケジュールを選べるので、待ち時間を最小化できると言います。
手数料も最小限にしています。契約料や月額の固定料などは不要。三井住友銀行宛の振り込みは手数料無料で、他行宛も送金金額を問わず、「国内最低水準」(大西氏)という145円に抑えました。
三井住友銀行口座は、法人/個人あわせると3,000万口座を突破しており、多くの口座に対して振込手数料が無料になるため、トータルのコスト削減になると大西氏は話します。また、Oliveにもあるような他行やクレジットカードなどの金融サービスの情報を登録して口座の状況を一元管理する機能も備えました。
これまで、振り込みや税支払いなどを銀行店頭に持ち込む法人ユーザーは多かったと中島氏は言います。既存の法人ユーザーでもオンラインサービスを使っていない20万程度の口座があるそうです。Trunkでは基本的にオンラインで完結するようなサービス設計にしているため、店頭の事務負担の拡大には繋がりません。中島氏は、こうしたオンラインを利用していない法人の移行にも期待していると言います。
全国のATM網、給与振り込みや総合振り込み、社会保険料、公庫などの口座振替機能といったメガバンクならではの機能も対応しています。
三井住友カードとインフキュリオンで共同開発した、最先端という新たなビジネスカードも発行します。Trunk申込時にワンストップで発行が可能になっており、口座と同時に最短翌営業日に発行できます。
新カードでは、新たにVisaと連携したAI与信エンジンを活用。新規の法人顧客に対しても大きな与信額を設定できるようにしたそうです。利用限度額も最大で10億円まで設定できるそうです。
銀行口座との連携も備え、請求金額と口座残高の一元管理もできます。会計システムと連携して仕訳の自動化も可能。UIにも配慮し、色々な機能をシームレスに直感的に使えるようにした、と大西氏はアピールします。
さらに「最高水準のガバナンス機能」(大西氏)を搭載しました。社長、経理担当者がカードの利用先、利用金額、利用期間などを個別に詳細に制御できるようになっています。不正に対する補償サービスもあり、安心して利用できるようにしたと言います。
現時点で、ビジネスカードとしてはそれほど多くの機能があるわけではありませんが、Vポイント還元などの特典を用意。今後、ニーズを見ながら機能向上も図っていきたい考えです。
なお、Oliveではクレジットカードやデビットカードなどをアプリで切り替えるフレキシブルペイ機能がありましたが、Trunkでは、「クレジットカードによって支払いを先延ばしするような使い方のニーズが強いとして、クレジットカードの発行にとどめました。
○請求書支払いや柔軟な資金繰り支援も
まずは2つの機能を主軸に提供しますが、他にも機能を用意しています。1つがモバイルベースの請求書支払い機能で、今まで紙やデータで来た請求書を目で見て支払登録をしていたのに対して、スマートフォンで請求書の写真を撮れば自動で内容を登録して振込予約まで設定してくれます。振込手数料145円のみでこのサービスも利用できます。
もう1つがフレキシブル・ファイナンス(仮称)で、これは請求に対する支払の一覧からカード払いを選択するだけで、支払時期を繰り延べできる機能です。支払先がカードに対応しているかどうかは問わず、1ボタンでカード支払にできる点が特徴です。
このフレキシブル・ファイナンスには他にも、売上債権を買い取って資金を振り込む将来債権ファクタリングサービスの「stera finance」や、2026年にも開始する「デジタルファクタリング」「スキップ払い」(いずれも仮称)といった資金調達手段を用意することで、中小企業の資金繰りをサポートします。
こうした複数の機能を用意しつつ、簡単にサービスを利用できるように、AIエージェント機能も盛り込みます。あらかじめ財務方針を入力しておくと、それに沿った資金調達手段をレコメンドしてくれる機能で、2026年度にも開始する予定です。
中島氏は、「ファイナンスは最低限」とコメント。融資でのビジネスではなく、決済やそれに伴う預金で収益化するビジネスモデルだとしています。
AIエージェントは、今後も継続して開発提供していきたい考えで、これまでの一部法人のように営業担当が直接支援をしない代わりに、AIによる支援を提供していく方針です。こうした機能は基本的には無料で提供していくとしています。
新規口座開設のキャンペーンも実施します。総額5万円相当の特典を提供し、まずは利用者の拡大を図りたい考えです。大西氏は、「企業経営の視点を徹底して追求し、口座、決済、業務のDX、ファイナンスなどを一気通貫で利用してもらえるサービスにした」とアピールしています。
今回、開発にインフキュリオンも携わっていますが、同社自身もベンチャーとして代表取締役社長CEOの丸山弘毅氏が創業した企業です。丸山氏自身、創業時はメガバンクで口座を開設できなかった過去があると言います。
当初は、請求書の増加、支払いの遅れ、入金遅延、資金繰りの調整などを自分で行い、金融機関に相談しても時間がかかり、バックオフィス業務を人に任せようとしても手が回らない時期があったそうです。
日本は銀行、カード、証券など、金融サービスごとに事業者が異なり、規制も監督官庁も異なるという、世界でも珍しい状況になっています。最近は垣根が取り払われるようになり、OliveやTrunkもそうした背景があって銀行とカードの一体開発が行われました。
丸山氏は、各社がサービスをそれぞれ提供してユーザー側が選択するという状況に対して、経営者としては「売上があって支払があり、銀行口座にいくらあって、資金調達はいくらできるのか、それによって仕入れができるのか、全てを一体で見ていく」というニーズがあると言います。
現状は、それが全てバラバラに提供され、データもバラバラになっている点を問題点として挙げる丸山氏。そうした中でTrunkは、「中小企業向けの総合金融サービスとしてとても革新的」と評価。「信頼できる番頭、経理部長が常に付き添っているイメージ」だと表現します。
Trunkは、まずは3年で30万口座の獲得を目指します。日本の中小企業の10%を獲得したい考えで、中島氏は、「無理な目標ではないが適度な難しさ」という認識を示しています。
SMBCグループでは、対面で担当者がついている法人顧客は20数万社、ついていない法人向け口座は40万程度と中島氏。それに対する3年で30万口座ということで、「頑張ってやるべきことをやれば達成できる」との自信を見せていました。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら