就職氷河期世代に限らず低年金者を救うために - 明治安田総合研究所が調査レポートを公開
2025年4月16日(水)13時46分 マイナビニュース
明治安田総合研究所は4月11日、調査レポート「どこかしっくりこない低年金の救済策 〜就職氷河期世代に限らず救うために優先されるべきは何か〜」を公開した。
政府は、年金制度改正案の一つとして提示されている基礎年金底上げ策の通常国会での提出見送りなどを検討している。公的年金制度では、被保険者の減少率と平均余命の伸び率を基に年金額を賃金や物価の伸びから目減りさせるマクロ経済スライドを導入しているが、長期的に年金財政が安定する見通しが立った時点で終了させることになっており、基礎部分の調整が2057年度、報酬比例部分は2026年度に終了する見込みとなっていた。
調整期間が長期化することで、モデル年金(夫婦二人の基礎年金と夫に支給される報酬比例年金)の基礎部分における所得代替率は2024年度の36.2%(実質年金額13.4万円)から2057年度には25.5%(同10.7万円)へと大きく低下。第1号被保険者だけでなく、第2号被保険者(厚生年金加入者)で賃金が低い人にも影響が出ることになる。
こうした問題認識から、改正案では厚生年金の積立金の配分を変えることで、基礎部分の給付調整を早期に終了させる方法が提示されている。現行、厚生年金の積立金は基礎部分に105兆円、報酬比例部分に190兆円配分する予定となっているが、改正案では、基礎部分を170兆円に増やす。この結果、基礎部分・報酬比例部分ともに調整は2036年に終了し、基礎部分の所得代替率は25.5%から33.2%まで上昇する。
一方、この方法を採用する場合、報酬比例部分の調整が継続し、給付水準が現行制度より一時的に低下することもあり、厚生年金加入者から積立金の流用などといった批判が出ている。厚生年金の保険料には基礎部分も含まれており、基礎年金の給付原資として厚生年金財政から拠出金を出している。確かに積立金には個人の持ち分といった考え方はなく、現在の厚生年金加入者が積み立てたわけではないが、公平性の観点からは疑問符が付く。加えて、基礎年金の給付水準が上がることで、1/2を占める国庫負担の増加に対する財源確保も課題となる。
積立金の配分変更(65兆円)国庫負担増分基礎年金の水準引き上げが目的であれば、給付調整の早期終了以外にも方法はある。一つは、就労期間の延伸に合わせ、保険料拠出期間を40年から45年へ延長することで、基礎部分の所得代替率は現行制度の25.5%から29.5%まで上昇する。
もう一つは被用者保険の適用拡大。財政検証では拡大度合に応じた4つのケースによる試算が行なわれ、例えば、最も対象者が増える所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用する場合には基礎部分の調整期間は2038年に短縮し、所得代替率は33.2%まで上昇する。また、国民健康保険の加入者が減ることで、そこに入っている公費(国庫負担)が減少するため、基礎年金の給付水準上昇による国庫負担増がある程度相殺されることも大きい。今改正では、企業規模要件や収入要件を撤廃し、労働時間20時間以上のみとする案が検討されている。
基礎年金の給付水準を引き上げるのは、世代にかかわらず低年金となる人を減らすためである。それに異論はないが、給付調整の早期終了の議論では、なぜか氷河期世代の低年金を防ぐことにフォーカスが当たることが多い。65歳時点の平均年金月額(物価上昇率で2024年度に割り戻した実質値)は、氷河期世代にあたる1974年度生まれで年金月額が5万円未満となる割合は5.7%。1959年度生まれや1964年度生まれの割合より低く、これを見る限り、氷河期世代の救済を理由に給付調整の早期終了案の実施を急ぐのは違和感がある。
氷河期世代における低年金者の割合が前の世代に比べて減っているのは厚生年金期間中心(厚生年金の被保険者期間20年以上)の人が多くなることが背景にある。現役時代に厚生年金期間中心となる人の割合を見ると、男性では1959年度生まれの80.7%から82.8%へ、女性は37.7%から54.3%へ上昇する。であれば、被用者保険に少しでも多く入ってもらうのが低年金対策としては有効ということになる。さらなる適用拡大によって、第2号被保険者となる第3号被保険者のなかには負担増を懸念する向きもある。しかしながら、これまでも適用拡大を進めてきたことで第3号被保険者の人数は着実に減ってきている。将来の低年金者をおしなべて減らしたいのであれば、積立金の配分変更よりも、適用拡大による厚生年金のなかでの所得再分配強化を優先すべきだろう。