性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集… 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

2023年4月16日(日)17時0分 tocana


「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。


 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。


 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。


ゲンシシャもイチオシ!? 別府のオシャレスポット

——前回は見世物というテーマで関連書籍を紹介してもらいましたが、昔は別府にも見世物小屋はあったんですよね?


藤井慎二(以下、藤井):はい。私は行ったことありませんが、別府の公園でも見世物が披露されていたようです。博多の三大祭のひとつ「放生会」で「見世物小屋を見た」という人もいました。


——もはや、昔話になりつつもありますが、かつては日本全国を巡業していたのでしょうね。


藤井:野蛮な話ですが、戦時中の日本では中国大陸から奇形の人々を連れて来て、展示していたこともあるようです。そのような歴史もありますが、最近はある意味「レトロブーム」のように、見世物小屋を見たことのない若者たちが、フリークスや見世物小屋に関する書籍に興味を持っているようです。


——果たして見世物小屋も純喫茶プリンやシティポップと、一緒くたにしてもいいのでしょうか……。一方で、レトロブームで人気を博している丸尾末広のマンガ、『少女椿』も見世物小屋が舞台ですよね。


藤井:そもそも、丸尾末広のルーツを辿ると、大正時代の画家・高畠華宵(たかばたけ・かしょう)に行き着きます。


——そんな、レトロブームの恩恵を、別府の温泉街も受けていると思いますが、最近、別府で若者に人気のスポットなどはありますか?


藤井:ゲンシシャの隣には別府公園があり、その公園内にあるスターバックスは、APU(立命館アジア太平洋大学)の学生たちが集まる盛り場になっています。このスタバは広くて、大きなガラス窓から見える夕日がキレイなんですよね。たぶん、別府で今、一番のオシャレスポットといえるでしょう。


——まさかのスタバ(笑)。でも、別府にスタバは2店舗しかないから、トレンドに敏感な若者たちにしてみれば、非常に大事なスポットなのでしょうね。


藤井:今度3店舗目もできる予定です。新型コロナウイルス感染症が流行して以降、別府にオシャレなお店が増えてきた気がします。というのも、APUには「起業部」があって、学生の起業を支援しています。在学生や卒業生たちが始めたカフェや飲食店は、若者を中心に人気があります。さらに、別府は今“カレーの街”というPR活動もしており、カレーが大流行しています。あまりの人気で、居酒屋や花屋までカレーを作り始めたぐらいです。


——温泉街の名物にスタバとカレーが追加されたのですね。


「アンタッチャブル・ヴァギナ」とは一体……?

 


——今回紹介していただく本のテーマは「性」なのですが、いくらTOCANAとはいえ、レギュレーションはあるので、なるべく掲載可能な書籍の紹介をお願いします(笑)。


藤井:それでは、2020年にTOCANAの姉妹メディアである「月刊サイゾー」でも紹介した、『Le pénis Atlas』というフランスの男性器図鑑から紹介しましょう。同書は科学者や牧師など、さまざまな職業の男性のペニスを、あらゆる角度から撮影し、100枚近く収めた、まるで「ペニスの百科事典」です。界隈では非常に人気がある本で、「プレミア価格で手を出せなかった」と、お客さんからはよくいわれます。


——「界隈」とは、こうした珍しい写真集を目当てに、来店されるお客さんのことを指すのだと思いますが、一応補足すると、これは医学書なんですよね?


藤井:ノルウェーの性科学者らが作成したものです。ペニスの太さや勃起時の角度など、さまざまな分析がされているため、図鑑として楽しめます。裏表紙がお尻になっていたり、パンツの表紙をめくるとペニスが現れたり、なかなか凝った装丁です。さらに、同書には大量のペニスが描かれたポスターが付録で付いているのですが、これがまたフランスっぽいオシャレなセンスを感じさせます。


——デザインというのは大切ですね……。以前、「サイゾー」で取り上げたときの価格は9000円程度でしたが、改めてAmazonで調べたところ今はハードカバーが240ドルするようなので、相当値上がりしているようです。


藤井:同書と対になる写真集として『101 Vagina』を紹介しましょう。ヴァギナといっても“もろヴァギナ”ではなく、正面から101人の女性の下半身を捉えた写真集です。


——それはそれでフェチっぽいですけどね。同書には必ずしも若くてスタイルのいいモデルばかりではなく、年齢も体重もさまざまな女性のヴァギナが載っているんですね。


藤井:毛が生えてなかったり、タトゥーがあったり……。写真の隣のページにモデルの女性にまつわる文章も書かれているため、ヴァギナを見ながら被写体に思いを馳せられます。こちらも入手困難な一冊です。


——オーストラリアの自費出版本のようですが、モデルにまつわる文章はどのようなことが書かれているのでしょうか?


藤井:その女性とヴァギナに関するエピソードですね。たとえば「子どもの頃、カトリックの母親からヴァギナに触れることを許されなかった」女性には、 “ The untouchable vagina”という見出しがつけられています。


——直訳すると「触れられざる女性器」という……。当たり前ですが、「エロ目的」というより、「性に関する価値観」を学ぶ側面が強いですね。


藤井:ヴァギナに関しては『Cent photographies choisies dans la série Deux mille photographies du sexe d’une femme』もオススメですね。フランスの写真家であるアンリ・マッケローニが、あるひとりの女性のヴァギナを2000枚撮影し、その中から100枚を厳選した写真集です。最近お買い上げいただいたので、今はお店にありませんが、近々再入荷予定です。


 


——いまさらですが、ゲンシシャは古書店でもあるので、コレクションは購入することができるんですよね。



藤井:そうです。ちなみに、『Cent photographies choisies dans la série Deux mille photographies du sexe d’une femme』は今でこそ普通に輸入できますが、完全に女性器が露出しているため、かつては正規ルートでは輸入できず、長らく伝説の写真集となっていました。過去には、アンリ・マッケローニの展覧会を開催した、アート・スペース・美蕾樹の『アンリ・マッケローニ作品集』を見るほかありませんでした。


——文字通り伝説の写真集ですね。


藤井:人間だけではなく、動物の性器についての書籍もあります。『Phallological Museum』には、アイスランドペニス博物館のコレクションの写真が収められています。英語の読み物で図版はほとんど白黒ですが、ホルマリンにつけられたいろんな動物のペニスから、ペニスを模したものにランプシェードがついた照明まで、さまざまなペニスが収録されています。


ナチス政権下のドイツで撮られたポルノグラフィ

藤井:以前「サイゾー」でも紹介しましたが、『HEADSHOTS』は女性カメラマンが撮影した、「射精したときの男性の顔写真」を集めた写真集です。女性のお客さんがこの本を読みながら、ゲラゲラ笑っているのが、ゲンシシャの日常的な風景です。


——なんというか、男子校の放課後みたいですね。


藤井:若い女性のお客さんたちは、こういった本を読みたくて当店に訪れているわけですからね。以前、やはり女性のお客さんから「男性同士がセックスしている写真集が見たい」と言われたので探してみたところ、実際にそのような写真集はありましたが、10万円を超えるプレミア価格がついていました。


——お客さんからのリクエストを聞いて、藤井さんが仕入れる本を探すパターンもあるんですね。


藤井:ご要望があれば。特に性に関してはさまざまな嗜好がありますからね。このお店をやっていると、多様性というのは非常に大事だということを考えさせられます。


——そして、その需要に応えてくれる本も、この広い世界を探せばあるということですね。海外には昔からそのような特殊な嗜好の写真集があったのでしょうか?


藤井:『Jeux De Dames Cruelles 1850-1960』は1900年頃の「スパンキング写真」を集めた、出版社・Taschen(タッシェン)から出た書籍で、写真コレクターであるセルジュ・ナザリエフが編集したものです。女性が女性のお尻を叩く写真がひたすら載っています。かつて男女のポルノグラフィの規制が厳しい時代に、そうした規制を回避するために、女性同士のポルノグラフィのような写真が多く撮られていたようです。


——スパンキングもモノクロ写真だと、なんだか「治療」の様子にも見えますが、普通にエロいことをしているんですよね。


藤井:『Private Pornography in the Third Reich』は、題名通り第三帝国時代のドイツのポルノグラフィを集めた一冊です。諸説ありますが、ナチス・ドイツは健康な肉体を賛美し、当時のドイツは性に対して開放的だったという話があります。同書には女性が3人で交わる写真も載っています。


——乱交ですね。


藤井:先ほどと同じく出版社・Taschen(タッシェン)から出された『Forbidden Erotica』という写真集もおすすめです。ニューヨークのブルックリンに捨てられていた、ポルノ写真の山と出会ったことをきっかけに、エロティックな写真を収集し始めたマーク・ローテンバーグのコレクションを収録しています。100年ほど前のポルノグラフィが多数収録されており、性器も無修正です。


——モノクロでもモザイク処理がされていないポルノグラフィは結構エグいですね。でも、日本の成人向けコンテンツではおなじみのモザイク修正というのは、世界的に見ると特殊なガラパゴス文化なのでしょうね。


藤井:同じく約100年前、大正2年の日本では、特殊性癖の本が出版されています。それが『変態性慾心理』(大日本文明協会)です。こちらもお買い上げいただいたので、今は手元にありませんが、同書は明治時代にサディズム/マゾヒズムの名付け親である精神科医クラフト・エビングが書いたもので、この本をきっかけに日本では「変態性欲」ブームが起こったといわれています。


——とんでもない本ですね(笑)。ちなみに、2002年に原書房から特殊翻訳家・柳下毅一郎氏が訳した復刻版が出ています。


藤井:その界隈では有名な一冊です。当然、同時期に生きていた江戸川乱歩は読んでいただろうと推測されますし、谷崎純一郎も自身の小説「饒太郎」に、同書を読んで自分と同じような性癖の人がいると知ってショックを受けるキャラクターを登場させています。同書によって性的なニュアンスとしての“ヘンタイ”が広まったともいわれています。


——今では「Hentai」も世界に通用する言葉ですからね。性癖の数だけ関連する書籍はたくさんあるようですから、「性」に関するコレクションは尽きることがなさそうです。


書肆ゲンシシャ大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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