「東京に来ないで、でも五輪は開催」どういうこと?

4月18日(日)7時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった2013年9月7日のアルゼンチン・ブエノスアイレスでのIOC(国際オリンピック委員会)総会。プレゼンテーションに立った滝川クリステルの言葉を覚えているだろうか。

「お・も・て・な・し」

 この言葉が世界だけでなく、日本にも強烈な印象を残し、同年の新語・流行語大賞にも選ばれている。


変異株が猛威振るい始めている中での五輪開催、可能とお思いか?

 では、現状はどうか。新型コロナウイルスの蔓延で1年延期された東京大会まで100日を切った。だが、とても「おもてなし」ができる状態ではない。先月には、海外からの観客の受け入れを断念している。

 それどころか、2回目の緊急事態宣言の解除と前後して、都市部での1日の新規感染者数が急速に増えはじめ、4月5日には大阪、兵庫、それに宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が適応されると、12日には東京、京都、沖縄に、そして20日からは埼玉、千葉、神奈川、愛知にも適応される。

 しかも大阪では、13日から1日の新規感染者数が5日連続で1000人を超え、16日には1209人と過去最高を記録している。1000人を超えることは、「第3波」の緊急事態宣言中にもなかったことだ。もはや「まん延防止」に失敗していることは明らかで、変異ウイルスの拡散とこれまでにない医療体制の逼迫からすれば、ここで3回目とは言え、緊急事態宣言を出さなければ、いったいいつ出すのか、わけがわからなくなる。

 そのあとを追うように、東京でも着実に新規感染者が増え続けている。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は、14日に「『第4波』と言って差し支えない」と明言。小池百合子東京都知事は15日に、「可能なかぎり東京に来ないでほしい」などと言いだし、続く16日の記者会見でも、「都との県境を越える移動は控えてほしい」「特に都外にお住まいの皆様方には、エッセンシャルワーカーなど、どうしても出勤が必要な方以外は、可能な限り東京に来ないでください」と断言している。

 こんな状況で東京オリンピックの開催が現実的なのか。


二階氏の五輪中止発言は「叱咤激励」のメッセージ?

 自民党の二階俊博幹事長は15日、東京オリンピックの中止の可能性に言及。テレビ番組の収録で、新型コロナウイルスの感染状況次第では「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない」と述べて波紋を広げた。

 ところが小池都知事は、この発言について同日、「それも選択肢だという発言だったというふうに聞いている。叱咤激励、ここはコロナを抑えていきましょうというメッセージだと受け止めている」と発言。「東京に来るな」という一方で、開催まで100日を切ったオリンピックの準備は進めるつもりらしい。

 そもそも、菅義偉首相は今年1月の施政方針演説でこう断言していた。

「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います」

 その様相も次第に変わってきた。というより、安直な化けの皮が剥がれてきている。

 2月20日未明、はじめての主要7カ国(G7)のオンライン首脳会議(サミット)を終えたあとの菅首相は、記者団にこう述べた。

「東京オリンピック・パラリンピックでありますけれども、今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として、安全・安心の大会を実現したい、そうしたことを私から発言いたしまして、G7首脳全員の支持を得ることができました」


巧妙な「言い換え」

 ところが、外務省がHP上で公表している「G7首脳声明」を見ると、菅首相が言うように「東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」ではなく、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の結束の証」として、あくまで「日本の決意」がG7に支持されているだけだ。打ち勝った結果ではなく、未来への結束の証としているのだから、まったく意味が違う。

 そして4月16日(日本時間17日未明)、菅首相が訪米してはじめてバイデン大統領と対面した日米首脳会談。その直後の記者会見で、菅首相はこのように言及している。

「私から、今年の夏、世界の団結の象徴として、東京オリンピック・パラリンピックの開催を実現する決意であることを伝えた。バイデン大統領からは、この決意に対する支持を改めて表明していただいた」

 いつの間にか「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」が「世界の団結の象徴」に置き換わっている。

 しかも、同時に発表された「日米首脳共同声明」によると、「バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する」とだけある。バイデン大統領が支持しているのは、日本の首相の「努力」なのだ。それなら「無駄な努力」に終わっても大統領が批難されることはない。

 13日には、東京電力福島第1原子力発電所で貯まり続ける処理水を海洋放出することを決めた。「復興オリンピック」どころか、地元福島の漁業関係者の失望は既に書いた。

(参考記事)「五輪後に処理水放出」が政府の肚、何が復興五輪か
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64473

 それどころか、新型コロナウイルス感染拡大の「第4波」の影響を受けて、聖火リレーは全国各地で「中止」が相次ぐ。「競技開催や聖火リレー等、被災地の方々に身近に感じていただける取組を通じて、被災地の方々を勇気付けること」が「復興五輪」の位置づけだと、復興庁のHPでは明示されているのに。


単に五輪を「開催した」という形を作ることが目的化していないか

「おもてなし」にはじまって、当初表明していた東京大会の意味合いが次から次へと変貌していく。いまや、打ち勝つどころか、新型コロナウイルスを念頭に「安全、安心な大会」の実現に主眼が置かれつつあるが、開催に当たっては参加選手の感染対策に当たる医療従事者を確保する必要がある。ところが、急増する新型コロナ患者の治療や先進国と比べてワクチン接種が遅れていることで、人手は不足している。この両立はまず困難だ。

 これだけの状況を並べても、まだ東京オリンピックを開催する大義がどこにあるのか。

 ただ「やった」という歴史を残すことへの意固地が、無理強いを迫る。

 だとしたら、それは先の大戦に突き進んだ日本の姿とかわらない。国際情勢を見誤り、物量では叶わない相手に精神論で戦いを挑む。本土が空襲され、犠牲者が増える一方でも、戦争指導者は、なかなかこの戦争を止めようとは言い出さなかった。打ち勝つ、必ず勝利する、といっていた言葉がどこかへ飛んでいってしまったのも同じだ。

 まして、与党幹事長の中止発言を「叱咤激励」としてしまう都知事の感覚は、あの時代を彷彿とさせる。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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