100年前にカリフォルニアから姿を消したハイイログマの再導入が検討されている

2025年4月19日(土)12時0分 カラパイア


Photo by:iStock


 アメリカ、カリフォルニア州の州旗には、力強く歩く一頭のクマが描かれている。これは約100年前に絶滅したカリフォルニアハイイログマだ。


 カリフォルニアハイイログマは、ハイイログマ(グリズリーベア)の一種で、かつては州のあちこちにすんでいた。だが、1924年にセコイア国立公園で目撃されたのを最後に完全に姿を消した。


 そして最近、ハイイログマを再びカリフォルニアに戻すべきかどうかの検証がなされている。


 再導入候補は北米本土に生き残る一般的なハイイログマだ。生物学的、生態学的、経済的、法的、政策的なあらゆる面において、再導入を阻むような問題はないこと示す、査読済みの研究報告書が発表された。


 野生動物と人間の共存は再び可能となるのか?壮大な実証実験がいま、カリフォルニアで動き出そうとしている。


州の象徴だったクマはなぜいなくなったのか?


 カリフォルニアハイイログマ(Ursus arctos californicus)は、かつてカリフォルニア州の山や草原、海岸沿いの森など、さまざまな場所に広く生息しており、カリフォルニア州旗の中央には堂々たるクマが描かれている。


 カリフォルニアハイイログマの体長は2.4〜2.7mほど、体重は通常で約270〜680kgにもなり、特に大きな個体ではそれ以上に達することもあった。


 北アメリカでも最大級の動物のひとつで、力強くがっしりとした体つきが特徴だ。植物や果実、小動物まで何でも食べる雑食性で、自然の中で重要な役割を果たしていた。


 だがその存在の大きさが、やがて命取りになっていった。


 ゴールドラッシュが始まった19世紀半ば、カリフォルニアには多くの開拓者たちが押し寄せた。


 彼らが森を切り開いて農地をつくり、家畜を放牧するようになると、グマとの接触も増えていった。牛や羊が襲われたという報告も相次ぎ、「人間の暮らしを脅かす危険な動物」として、次第にハイイログマは目の敵にされるようになる。


 さらに、毛皮を取るための乱獲も深刻だった。そしてもうひとつ、人間の娯楽のためにクマが利用されていた事実もある。捕まえられたハイイログマは闘牛のように牛と戦わせられ、見世物として使われたのだ。


 こうした状況の中で、クマの数は一気に減っていった。


 自然の中で生きる場所を失い、人間に追われ、そして娯楽の道具にまでされていった結果、1924年、セコイア国立公園で最後に目撃されたのを最後に、カリフォルニアハイイログマはこの地から完全に姿を消した。



サンタバーバラ自然史博物館に展示されているカリフォルニアハイイログマの標本 Vahe Martirosyan[https://www.flickr.com/photos/vahemart/49185352476/] / WIKI commons[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ursus_arctos_californicus,_Santa_Barbara,_Natural_History_Museum.jpg]


クマを再びカリフォルニアに戻すことは可能なのか?


 それから約100年の時が流れ、クマの姿を実際に見ることはなくなった今でも、カリフォルニアの人々の心にはハイイログマの存在が生き続けている。


 その証拠に、州旗や公的なシンボルには今もクマが描かれているし、州内の大学ではマスコットとして使われることもある。



カリフォルニア州の州旗に描かれたハイイログマ Photo by:iStock


再導入に関する研究報告書では問題ないとの判断


 そうした中で動き出したのが、カリフォルニア・グリズリー・アライアンス(California Grizzly Alliance)[https://www.calgrizzly.org/]という団体だ。この団体は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の環境研究教授、ピーター・アラゴナ博士を中心に結成され、ハイイログマの再導入についての総合的な研究を進めてきた。


 その研究の土台となっているのが、カリフォルニア・グリズリー研究ネットワーク[https://californiagrizzlyresearchnetwork.org/]である。このネットワークは過去10年にわたり、ハイイログマの歴史、生態、文化的意義、人との関係などを広範に調査してきた。


 そして2024年、この2つの組織の協力により、200ページ以上におよぶ本格的な査読済みの実現可能性調査報告書(PDF)[http://chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://docs.calgrizzly.org/docs/CGA-Feasibility-Study-2025.pdf]が発表された。


 その内容によれば、ハイイログマの再導入は「生態学的にも法的にも経済的にも、致命的な障害はない」という結論が導き出されている。


 報告書によると、生態学的には十分な生息地が今も残っており、再導入の候補として「トランスバース山脈」「シエラネバダ山脈の南部」「北西部のクレマス山地とトリニティ・アルプス」の3地域が挙げられている。


 また、現在の法律や政策のもとでも、適切な保護措置を講じれば導入は可能とされている。


 ただし、ここで導入が検討されているのは、すでに絶滅してしまったカリフォルニアハイイログマそのものではない。


 代わりに、現在もアメリカ西部やカナダ、アラスカなどに生息する一般的なハイイログマ(Ursus arctos horribilis)が対象となっている。



ハイイログマ image credit:Pixabay


 この2種はともにヒグマ(Ursus arctos)の仲間であり、カリフォルニアハイイログマはその地域個体群(または亜種)として知られていた。


 体格や性格には多少の違いがあったものの、生態的な役割や食性は似ており、自然の中で同じような役割を果たせると期待されている。


 研究者のあいだでは、カリフォルニアハイイログマを独立した「亜種」と見なすかどうかについて議論もあるが、文化的・象徴的な意味では、今も「カリフォルニアのクマ」として多くの人に親しまれている存在だ。



Photo by:iStock


人とクマは、もう一度共に生きられるのか


 再導入に対して、カリフォルニア州の人々の多くは前向きだ。カリフォルニア・グリズリー研究ネットワーク[https://static1.squarespace.com/static/59026d356b8f5be39ddfc2ca/t/5d02a392eb098100014b8e08/1560454041806/Hiroyasu+et+al.+2019.pdf]が2019年に行ったアンケートでは、およそ3分の2の州民が再導入に賛成しており、反対は14%にとどまっていた。


 特に先住民族のあいだでは、ハイイログマの復活に強い思いを持っている人たちが多い。テホン族のオクタビオ・エスコベド三世[https://www.calgrizzly.org/post/new-study-demonstrates-potential-for-returning-grizzly-bears-to-california]首長は、「グリズリーはただの旗の模様ではなく、この土地の自然と文化に深く関わっていた存在だ。カリフォルニアの生態系を形作り、州全体の部族国家にとって深い意味を持つ」と語っている。


 もちろん、クマと人との共生には課題もある。人里に出てくるリスク、家畜とのトラブル、観光地での安全対策など、慎重に考えるべきことはたくさんある。


 それでも様々な要因を分析することで、可能かどうか、可能なら戻したいと前向きに考える人々がいる。元の自然を取り戻すことに価値を感じているのだ。


References: Calgrizzly[https://www.calgrizzly.org/post/new-study-demonstrates-potential-for-returning-grizzly-bears-to-california]

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