人前で性器を触る知的障がいの弟に、姉(25)は「私が性欲を処理してあげれば」…“障がい者専門風俗”の利用者が直面する“現実”
2025年4月20日(日)12時0分 文春オンライン
デリヘルで学費を稼ぎ、念願の看護師になった主人公・南つくし。病院で働きながら「患者の性欲」について考えるようになった彼女はある日、動画配信サイトで「障がい者専門の風俗嬢」の存在を知る。
動画に出演していたのは、障がい者専門風俗「またたき」の代表・七居しずく。彼女が語っていたのは、タブー視される「障がい者の性」の実態だった。七居の発言に共感したつくしは、看護師を辞めて障がい者専門風俗嬢として働き始めるが——。(全3回の1回目/ 2回目 に続く)

【マンガ】『障がい者専門風俗嬢のわたし 』本編を読む
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“障がい者専門の風俗嬢”の世界をマンガにしたワケ
「障がい者専門の風俗嬢」として各種メディアに出演している、一般社団法人「輝き製作所」代表の小西理恵氏。そんな小西氏の取り組みにフォーカスを当てながら、「障がい者の性」の現実や偏見を描いたのが、コミックエッセイ『 障がい者専門風俗嬢のわたし 』(KADOKAWA)だ。
「YouTubeチャンネル『街録チャンネル』で初めて小西さんの話を聞いたとき、自分がそれまで知らなかった『障がい者の性』の世界に、かなり衝撃を受けました。
先天的な障がいのほかに、誰もが不慮の事故や何かの病気をして障がいを持つ可能性はあるのに、どこか自分とは関係ないと思ってしまうというか。『障がい者の性』は、長い間、見て見ぬふりをされてきたテーマでもあると思います。だからこそ、多くの人に知ってもらいたいと思い、コミックエッセイにしました」(担当編集の中川寛子さん)
様々な立場の登場人物が「障がいと性」に向き合う
同作では、下半身麻痺になった男性やヘルパーによる介護が必要な20代男性、重い知的障がいの弟を持つ女性、メンタル不調で治療中の女性など、様々な立場の登場人物が、障がい者専門風俗の利用を通じて「障がいと性」に向き合う姿が描かれている。
「マンガにするうえで、障がい当事者の視点はすごく意識しました。当事者の方々や支援者、あとはその関係者にも刊行前に読んでいただいて、違和感なく描けているか、偏った視点になっていないかをチェックしていただきました。実際に障がい者専門風俗を利用した方からもお話を聞いています」(同前)
知的障がいの弟(20歳)を持つ姉は、「私が性欲を処理してあげれば」と…
特に、知的障がいの弟(20歳)を持つ女性・むつみ(25歳)の話が印象的だ。性欲を持て余し、人前で性器を触るなどの行動を取り始めた弟に対して、「私が性欲を処理してあげれば……」と思い悩んだ末にむつみが連絡したのが、障がい者専門風俗だった。
「最近は『きょうだい児』が社会問題として取り上げられることが増えていますよね。表沙汰になっていないだけで、むつみと同じような問題を抱えている家庭は少なくないと思うんです。ほかにも、“ホス狂い”の女性を取り上げたエピソードもあって、複合的に社会問題と向き合った作品にもなっています」(同前)
作中では、近年問題視されるようになった“日本の性教育”にも触れている。なぜ日本は性教育が遅れているのか、どうして性の話がタブー視されるようになったのか、マンガを通して知ることができる。
「日本の性教育は、海外に比べて遅れていると言われています。心と体について誰もが知らなきゃいけないことなのに、日本人は性の話をタブー視して避けてしまう。それは、過去に教育現場で起きた性教育の弾圧も関係しているんです。今回、そういった問題をわかりやすく伝えるためにも、専門家の方に監修してもらい、性教育の問題についても踏み込みました」(同前)
「本番行為をしているのでは」「女性が搾取されている」と批判の声も…
「障がい者の性」はもちろん、日本社会が抱える「性の問題」に真正面から向き合った内容には、刊行直後から大きな反響があった。
「障がい当事者の方やそのご家族からは、『マンガにしてくれてありがとう』という声をいただきました。障がい者専門風俗を知らない人からは『すごく考えさせられた』『自分事として考える機会になった』と言っていただけましたね。お子さんを持つ方からは『子どもと心や体について話すきっかけになった』という意見もありました」(同前)
一方で、センシティブな内容ゆえに、批判的な声もあるという。
「風俗=売春をしていると思っている方から『本番行為をしているのでは』と勘違いされたり、『女性が搾取されている』という意見もありました。そういった声があるのはしょうがないと思うし、批判もひとつの意見として捉えています。
ただ、ひとつ勘違いしてほしくないのは、小西さんが『自分で選んでこの仕事をしているし、仕事を楽しんでいる』ということです。彼女自身がそうおっしゃっていました」(同前)
「性」というテーマを通して、人間の「生」について深く考えさせられる本作。担当編集の中川さんは、最後に読みどころを強調してくれた。
「この作品は、障がいを持った人たちだけでなく、介護タクシーの経営者や老人ホームで働く介護士、はたまた主人公の元セフレも出てきます。さまざまな登場人物がいて、誰かしらに共感できる部分があると思うので、『いいな』と思う人物に自分を投影しながら読んでほしいです。賛否があっていいので、読者の方からいろいろな意見を聞けたら嬉しいです」
〈 「も、漏れてない?」“射精ができない”下半身麻痺の男性が、障がい者専門風俗嬢と初めてプレイした結果… 〉へ続く
(「文春オンライン」編集部)