北朝鮮版の【怪獣映画】が想像以上に素晴らしい…! 金正日が国家予算を注いだ傑作の内容とは?

4月21日(金)15時0分 tocana

※イメージ画像:『プルガサリ』

写真を拡大

 今、世界中を恐怖に陥れている北朝鮮・金正恩の父である先代の最高指導者・金正日は、生前2万本のビデオテープを所有していたといわれるほどの映画マニアだった。国民が見ると、公開処刑されてしまうハリウッド映画(脱北者の証言)を自由に鑑賞していた金正日は、『ゴジラ』シリーズや『男はつらいよ』シリーズといった日本映画も大好きだったという。そんな映画好きの金正日が、使い放題の国家予算を注ぎ込んで製作した北朝鮮版ゴジラ『プルガサリ』は、とんでもない政治的背景により、一定の期間封印されていた。

『プルガサリ』は、北朝鮮初の怪獣映画だが、初見では意外な完成度の高さに驚かされる。それもそのはず、特撮は円谷英二門下の中野昭慶、スーツアクターには前年(1984年)の『ゴジラ』でゴジラを演じたばかりの薩摩剣八郎など、世界に誇る東宝特撮の精鋭スタッフが、この撮影のために日本から招聘されていたのだ。彼らは、金正日の別荘に宿泊し好待遇を受けたという。そして監督には「韓国の黒澤明」と呼ばれた申相玉(シンサンオク)が抜擢された。作品は金日成主席の誕生日の祝賀として封切りを義務付けられていたので、北朝鮮側のスタッフは、絶対に失敗は許されない状況下、文字通り死ぬ気で製作に従事した。

【その他の画像はコチラ→http://tocana.jp/2017/04/post_10154.html】


■『プルガサリ』あらすじ

 冒頭、祖国の英雄・金日成(金正恩の祖父)の生誕地・白頭山の頂が映る。時は高麗王朝末期の1300年頃、貧しい農村に住む鍛冶屋のインデは、圧政を敷く郡守(朝鮮でいう郡の長官)に抵抗するレジスタンスのトップ。

 郡守は各農村から農具や釜など鉄製の道具を、武器を作るために略奪していた。これに反抗したインデと鍛冶屋の親方は捕まり拷問を受けてしまう。親方は、娘のアミが牢獄の窓から投げ込んでくれた御飯を粘土のようにこね出し、朝鮮民話に伝わる「鉄を食い、悪夢と邪気をはらうという」怪獣プルガサリのフィギュアを完成させて、獄中死する。

 親方の遺作となったプルガサリのフィギュアは、アミの手に渡った。そしてある時、彼女が裁縫中に誤って指を刺し、その血にフィギュアが触れたことで生が宿る。ちょこまかという動きが可愛く、日本では「チビガサリ」という愛称で呼ばれた。

 チビガサリはアミに懐き、鉄をポリポリ食べ、中型犬サイズに成長。官邸からインデを救出し、そのまま武器庫で鉄を食いまくり人間の子供大にと、ぐんぐん大きくなっていく。だがチビガサリは村中の鉄を食べてしまうので、次第に厄介者となり村人たちに追い払われてしまう。チビガサリは、食えない魚を川で獲ろうと試みる(涙)。


■『プルガサリ』の意外な中身

 この時、スーツアクターを務めたのは『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(67年)などでミニラを演じた「小人のマーチャン」。現在はアウトな芸名の俳優だ。ミニラを46歳で演じていたが、ミニガサリの時は60代半ば……すごい!

 そして、インデの老いた母親が拷問で殺されたのをきっかけに不満が爆発し、一揆が勃発する。城に攻め入ったインデは、金銀を持ち出して逃げようとする郡守をついに討ち果たすが、これに怒った朝廷が一揆制圧の命を将軍に下す。農民軍は山に篭もるも、そこを包囲して兵糧攻めされてしまう。やがて食糧が底を尽き、仕方なく貴重な馬を食べる農民たち(実際に馬を解体するシーンがエグイ)。

 このピンチに、チビガサリが人間の大人サイズに成長して戻ってくる。小さな角も水牛のように立派に伸び、鎧のようなボディを持った、これぞプルガサリだ(ここからスーツアクターは薩摩剣八郎にチェンジ)。

 プルガサリを味方に付けた農民軍は一気に優勢となり、敵から奪い返した大量の鉄をプルガサリにご褒美として食わせる。プルガサリはあっという間に急成長を遂げ、身長は20メートルに達する。プルガサリは、伝説のとおり不死身で、全身火ダルマにされても耐え、先が矢になっているミサイルの攻撃も「カキーン!」と鋼鉄の体で跳ね返し、巨大な穴に埋められても這い出てくる。

 不死身の体を武器に、ついに宮殿へと迫るプルガサリ。攻防戦には、数千人のエキストラを動員し、圧巻の一言。だが、斜面を駆け上ってくる農民たちに対し、実際に燃えている大きな玉を何十個も転がしているため、それに当たって倒れている者をついつい心配してしまう。

 両軍は一進一退を繰り返すが、プルガサリの助力で徐々に農民軍が優勢になる。「一巻の終わりだ」とよろめく弱気な朝廷陛下に将軍は、「実は史上最強の兵器があります」(早く出せよ)。それが、ライオンの形をして1発で山も灰と化す大砲「獅子砲」と、武人を象った鉄像が魚の形をした大砲を両脇に抱える連射式「将軍砲」の2門だった。

 一発逆転なるか!? と思いきや、山に向かって試し射ちをしてみると、山どころか雑草が吹っ飛んだだけ…。案の定、プルガサリには効き目なし! プルガサリが堅牢な城壁を怪力で破壊し、農民軍は城内へ一気になだれ込む。最後は、プルガサリが陛下を踏み潰して決着。ここはゴジラというよりも、石像が動き出し、悪の城主を成敗する『大魔神』(66年・大映)に近い。

 勝利の宴をあげたのも束の間、今度はプルガサリに食わせる鉄が底を突き、農具もなくなり皮肉にも圧政下と同じに状況に戻ってしまう。アミは、自らの手でプルガサリを葬る決意を固める……。


■意外すぎる封印理由

 申監督は『プルガサリ』完成後の1986年、ウィーン滞在中にアメリカ大使館へと夫人を連れて逃げ込み亡命に成功している。実は、申監督は、1978年、大女優だった夫人と共に北朝鮮に拉致されていたのだ(北朝鮮は自発的な亡命と発表していた)。監督の亡命に、烈火のごとく激怒した金正日は、全世界配給が決まっていた『プルガサリ』の公開を中止にした。

 これで作品は封印を余儀なくされていたが、日本では1995年に海賊版ビデオが出回りジワジワと需要を高め、1998年に『プルガサリ 伝説の大怪獣』という邦題が付けられ、東京のキネカ大森で公開が実現した。同年、正規版のビデオ・レーザーディスク・DVDも発売された。だが、エンドロールから申監督は外され、日本人スタッフの名前もクレジットされていない…。

(天野ミチヒロ)

tocana

この記事が気に入ったらいいね!しよう

映画をもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ